1stアルバム『青春のエキサイトメント』がまだまだ多くのリスナーに愛され続けているあいみょん。今年の4月には4thシングル『満月の夜なら』がリリースされ、その楽曲の良さが今も熱く語られているところに、早くも5thシングル『マリーゴールド』がリリースされる。今作は夏の恋を綴る、やさしいラブソング。おだやかで美しいメロディと、あいみょんの少し翳りのある歌声が、切ないノスタルジーを呼び起こす、最高のサマーソングの誕生。きっと10年後も20年後も思い出して聴きたくなる普遍的な夏曲になるだろう。この“マリーゴールド”という名曲が生まれた背景を、あいみょん自身にたっぷりと語ってもらった。
なお、このインタビューのロングバージョンが、7月30日発売の『ROCKIN'ON JAPAN』9月号に掲載されているので、ぜひそちらも併せて読んでほしい
インタビュー=杉浦美恵
ただ出てきたものを歌にしているだけなんですけど。最近はピュアなものっていうか、ちょっと刺激が足りひんような曲を作るって、よく言われます
──前作の話になるんですけど、“満月の夜なら”は本当にいい曲でしたよね。官能的な歌詞が話題になりましたけど、あの曲、実はすごくピュアなラブソングだなと思って。
「あの曲も、意外と夏らしい曲なのかもしれないですね。わりとジメッとしてるというか」
──そうですね。でもあの曲はどの季節でもはまると思います。
「なんだかんだ、ああいう曲はみんなの反応がいいっていうのを実感しました。少し性の描写が入ってたり、それは人間にとってやっぱり必要不可欠なことだからかなって」
──それで、あいみょんさんには会うたびに「今回の曲いいですね」って言ってる気がするけど、ほんとにまたいい作品ができました。“マリーゴールド”はいつ作った曲なんですか?
「曲自体は“満月の夜なら”より先にできてたんです。去年の9月にはできてたのかな」
──できあがってたんだけど、ちょっと温めておこう、みたいな?
「温めておくというより、時期的なことですかね。夏にできた曲なんですけど、“君はロックを聴かない”を出したタイミングと近かったのもあって。そのうちに、ちょっとまた別に曲を作ってみようと思ってできたのが“満月〜”だったので、必然的に順番が逆になっただけです。もちろん気持ち的には、めっちゃいい曲ができたから、すぐにリリースしたいと思ってたんですけど」
──“満月の夜なら”は官能的でピュアなラブソングだったけど、今回はさらにピュア。このところのあいみょんさんの歌詞の、まっすぐな純粋さってどういうモードからきてるんですか?
「どうなんですかねえ。普段から歌詞についてはほんまに意識してなくて、こういうものを書きたいから書くってわけでもないですし、ただ出てきたものを歌にしているだけなんですけど。最近はピュアなものっていうか、ちょっと刺激が足りひんような曲を作るって、よく言われます」
──刺激が足りない?
「刺激っていうか、まあ、昔は『死ね』とか歌ってたから、丸くなったって言われがちなんですけど、最近の曲は私にとって違う刺激があるんですよね。なんか、あるんですよ、そういう周期が(笑)。やさしい曲を書く時期もあれば、ちょっとまた重たい女の子の曲を書く時期もあったりしてて。今はまたちょっと別の周期に入ってて、少しドロッとした恋愛を書く時期に入ってる気がします。で、この曲を作った時はちょっとやさしかったのかな。そういう周期が自分の中にあるんかなって思います。生活も関係してんのかな」
──例えば『青春のエキサイトメント』を作ってる時は、あいみょんさんが上京したばっかりで、その時に感じていた苛立ちとかがにじみ出てるような曲もありますよね。
「ははは。書いてる時はイラついてるわけじゃないんですけど、その時々でイラつくことが多かったりする時期ではありましたね」
──自分の生活の中で感じたこととかが、無意識に歌詞に反映されてるという感じ?
「無意識ですね。ほんまに。最近よく『どういう時に歌詞が浮かぶんですか?』っていう質問をされるんですけど、一番難しいなと思って。それは自分が一番わかってないから。どう答えるのが正解なのかなっていうのを最近よく考えるんですけど。でも寝てる時以外は、常に曲とか歌詞のことを考えてしまってる自分がいるので、『寝てる時以外』って答えることはあるんですけど(笑)、でもほんまに自然と出てくる言葉なんですよね」
書いてる時は無我夢中やったんですけど、いざ完成したものを自分で歌ってみると、結構切なさが前に出てるなあって
──“マリーゴールド”の歌詞って、幸せな恋愛の最中の曲でもあり、それが終わった後に懐かしんでる気持ちも、ちょっと寂しい気持ちも全部入ってて、夏の曲特有のノスタルジーをしっかり感じさせてくれますよね。
「もうほんと、切なさが全面に出てるなあって、完成してから自分もすごく思いました。書いてる時は無我夢中やったんですけど、いざ完成したものを自分で歌ってみると、けっこう切なさが前に出てるなあって。この曲できた時は、マネージャーさんにもすぐ連絡しました。『すごいいい曲できた』って」
──夏と聞いて思い出す花の代表はやっぱりヒマワリなんだけど、それがマリーゴールドだっていうのもあいみょんさんらしいなあって思ったんですよね。
「ほんとに偶然、最初のサビの歌詞がひらめいて、そっから物語を作っていった感じですね。麦わら帽子をかぶってる女の子の後ろ姿がマリーゴールドの花に似てるっていうところから」
──実際にその様子を見たわけじゃなくて?
「見てないです(笑)。見てるわけでもないのに、麦わら帽子ってマリーゴールドみたいだなって思ったんですよね。ちょうど夏の花っていうか、この時期よくお花屋さんとかでも見る花なので。私の今までの曲のタイトルの中でも、一番シンプルですよね。“マリーゴールド”って」
──マリーゴールドってすごくかわいらしい花ですけど、一年草なんですよね。だから一年しか花を咲かせない。
「そうそう。それに花言葉が色によって全然違くて、この曲も聴く人によっていろんな捉え方があるっていうのと重なるんですよね。いろんな花言葉があるように、“マリーゴールド”もいろんな捉え方がある曲であってほしいなって思います」
──今まさに恋に落ちている人がその気分に浸れる曲でもあるし、でも、遠い昔の夏の、あの頃の恋を思い出してる曲でもあるし。
「そう。そもそも自分が作った物語としては、あの頃の恋を思い出してるふたりがいて、これからもずっとずっと一緒にいれたらいいねって言ってる話なんですけど、聴き手によって、それぞれに物語を作ってもらっていいですし、もしかしたら悲しい歌になるかもしれないし、ものすごいラブソングなのかもしれないし」
──その余地、余白の残し方が絶妙な曲なんだと思います。サウンドもすごく夏を感じさせますよね。ギターの音色とか。
「そうですね。切ない夏をアレンジで表現していただいて、すごいよかったです。アレンジにはけっこう時間をかけたんですけど、アレンジャーの田中(ユウスケ)さんとお話したり、スタジオに入ったりするうちに、めちゃめちゃよくなっていきましたし、ほんと口癖のように私は『いい曲やな、いい曲やな』って言ってたと思います。この曲にはすごい自信があるって思いながら、ずっと作っていました」
──サウンドのアレンジに時間をかけたっていうのは、どういう点で?
「私がこの曲を書き始めた時、勝手に自分でプレッシャーを感じてて。やっぱり“君はロックを聴かない”っていう夏の曲を超えへんことにはあかん気がすると思ってて。どうにかあれを超える夏の曲を書きたいって思ってたんです。“君ロック”に似てしまってはダメやし、でもあのニュアンスに近いもの──あのちょうどいい塩梅を試行錯誤してたのかなあ」
──“君はロックを聴かない”はあいみょんさんの中でも、かなり手応えのあった楽曲なんですね。
「去年の夏は、あの曲ができたことが自分の中ですごく嬉しくて。もちろん“愛を伝えたいだとか”もそうなんですけど。嬉しいっていうか、純粋に『これや!』って思えた曲だったので、なんかね、どうにかあの曲以上のものを作らないとダメな気がするって思ってしまったんです。別に誰にも追い詰められてないのに、勝手にそれを超えるものを書きたいと思っていました」
──でもその、名曲を「超える」って、すごく漠然としてますよね?
「そうなんですよ。どこからどこが『超えた』って言えるのか、変な話、それが目に見える売り上げとかになってくればわかるかもしれないけど、自分の中で、そういう思いがあるんですよね」
──自分自身が納得するもの?
「うん。納得するし、自信を持って出せるもの。“マリーゴールド”ができた時は、報告メールの件名に『いい曲できました』って書いてましたからね(笑)。っていうくらい、今回は自分で自信あったんやろなあ。まだ誰も何も決めてないのに、絶対これはシングルで出すって、自分で決めてましたし」
──なるほど。それくらいの自信と納得感がないと嫌なんですね。
「自信があるものを出したいっていうのはもちろんだし、どの曲もいつも全力でやって、一番いいと思えるものを出してるつもりなんですけど、ここ最近で言うと、自分の一番の全力はここやったような気がします。この“マリーゴールド”っていう曲は、自分の中では『もうこれ以上のものは書けへんのちゃうか』って思うくらい。だからたぶん次は、この“マリーゴールド”の壁ができて、また『これ以上のものを』って思うんでしょうけど、それが自分にとっては、すごくいいことなのかなと思います」