8月22日に配信シングル『ちいさな英雄』をリリースする木村カエラ。この曲は、スタジオポノックのアニメーション映画『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』のエンディングテーマとして書き下ろされた。サウンドプロデュースでは約4年ぶりに渡邊忍(ASPARAGUS)とタッグを組み、シンプルでキャッチーなメロディの中に子供の無邪気さも大人の優しさもギュッと封じ込めた歌詞を乗せ、アッパーなポップチューンに仕上がっている。インタビューでは今回の制作の流れや曲に込めた想い、さらに来年デビュー15周年を迎える木村カエラの今を語ってもらった。
インタビュー=上野三樹
「シノッピにやらせたら絶対に面白い感じがする」
――今回は映画『ちいさな英雄』のエンディングテーマとしてスタジオポノックから依頼を受けての楽曲提供ということですが、オファーを受けた時はどう思いましたか。
「すごく嬉しかったですね。もともとジブリアニメが大好きでしたし、前々からアニメの主題歌がすごくやりたくて、周りにも『やりたい!やりたい!』ってずっと言っていたので(笑)、ようやく来たっ!と思いました」
――念願叶ってのコラボなんですね。オファーを受けてから、どういう流れで制作に入りましたか。
「まず、お話をいただいた時に西村(義明)プロデューサーがお手紙をくださっていたので読んだんですけど、そこには熱い想いが書かれていて。後日、ポノックさんの事務所にスタッフとみんなで行って打ち合わせをしました。その時に、どんな想いで短編映画を作っているかとか、どうして私に楽曲依頼をしてくださったのかとか、色々とお話をしながら曲のイメージを自分の中で膨らませていって。その打ち合わせの帰り道にスタッフに『今回の曲はシノッピ(渡邊忍/ASPARAGUS)と一緒に作りたいです』って言いました」
――今回、渡邊さんはサウンドプロデューサーとして曲も一緒に手がけていらっしゃいます。彼と一緒に作りたいというのはどんな期待があってのことでしたか。
「なんか、勘でしかないんですけど。ポノックさんが短編映画を作ること自体が初めてだっていうお話を聞いて、挑戦しているんだなっていう感じがまずひとつあったのと。『映画を観た子どもたちが歌を口ずさみながら帰っていくような映画にしたいんだ』って西村プロデューサーがおっしゃっていたので。だから『子どもたちが歌える曲』を考えた時に、そういう曲をもともと作れる人にお願いするよりも、私も挑戦したいなって単純に思って、『シノッピにこれをやってもらったらどうなるだろう?』って。たとえば“Ring a Ding Dong”とか、これまで一緒に作ってきた曲も同じ感覚だったんですよ、『これはシノッピにやらせたら絶対に面白い感じがする』っていう本当に勘だけで、今回もシノッピだと思ったんです。あと、西村プロデューサーに『かわいい曲で歌えるんだけど、ロックっぽさがほしい』って言われたのも大きかったですね」
――じゃあ、ある意味「仕上がりが見えるから」ではなく、「一緒に挑戦できそうだ」っていうところでのオファーだったんですね。
「そうですね。一筋縄ではいかない『かわいくて、子供が歌える曲』を作れたほうがおもしろいかなって。私自身もずっとやりたかったアニメの主題歌だったので、音楽で何か化学反応を起こしたいし、シノッピとだったら起こせると思った。ポノックさんからいただいた感覚と、自分が今までやってきて得た感覚が、シノッピとだったら上手く一致するんじゃないかって思って今回お願いしました」
――映画チームも含めての入念な打ち合わせがあったそうですが、そこでどんなテーマを見出していきましたか。
「西村プロデューサーがくれたお手紙やお会いした時に、すごく素敵な言葉を言っていただいたんですよ。『カエラさんの歌は、曲を聴いたらそこに木村カエラがいて、いつも太陽のような声でみんなを明るくする』っていう、それが今回も欲しいと言ってくださって。たとえば、ドリフの『8時だョ!全員集合』のように、色んなコントがあるんだけど、エンディングにビバノン音頭が流れて全部吹き飛ばすようなもの。光があって無邪気なものっていうイメージがあって作っていきました」
――なるほど。その時点で、映画はどれだけ観ることができていたんですか。
「その時点ではまだ映画も制作段階で、作業している部屋とかを見せてもらったんですけど、まだ背景とかしかできてなくて。ただ、3つの短編のあらすじを大まかに聞かせてもらって、曲作りをしていきました」
――『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』っていうタイトルですが、3つの短編ですもんね。
「そうなんです。カニとたまごアレルギーの子と透明人間がそれぞれのお話の主人公なんですけど。そのエンディングテーマとして“ちいさな英雄”を聴いてもらって『楽しかったね』って言ってもらえたら」
たくさんの親子に観てもらいたいっていう願いがあるので、子供と大人の両方の目線を意識しました
――歌詞は子供目線と大人目線の両方で書かれているということですが、そこにはどんな想いが込められていますか。
「真っ直ぐなものがいいなって思っていて。サビに関しては子供が確実に歌えるもの、だから繰り返しの歌詞でもいいよねってシノッピと話していて。ちょうどこの曲を作っている時に、子供の虐待とか、自殺しちゃう子が多いとか、そういうニュースが多かったんですけど。私は、子供には何よりも真っ直ぐ伸びていってほしいし、生きていてほしいし、笑っていてほしい。その真っ直ぐな願いと、子供ならではの感覚が入っている歌にしたいなと思いました。子供って、明るくて、いっぱい遊んで汗をかいて、秘密基地を見つけて、なんでも楽しくて笑ってる、っていう感じをそのまま入れたかったんです」
――《へっちゃらだ こわいもんなんてひとつもないんだ》なんて子供目線の無邪気さも、《抱っこしてゴロンしちゃおうね ひとやすみしよう》なんて大人目線の優しさも両方入っていて、カエラさんらしい表現だと思いました。
「ありがとうございます。《毎日ジェットコースター》という歌詞もあるように、子供にとっての毎日はジェットコースターみたいに楽しいけど、子育てをしている親にもジェットコースターみたいな毎日のアップダウンがある。両方に捉えられるように聴いてもらえたらいいなと思いながら言葉を選んでいきました。この映画もたくさんの親子に観てもらいたいっていう願いがあるので、子供と大人の両方の目線を意識しました」
――だから子供が聴いても歌えるし、お母さんが聴いても楽しめるし、というものになっていったんですよね。この映画自体が親子連れで観に行かれる方もきっと多いでしょうしね。
「そうそうそう。たくさんの子供とか親子に見てほしいっていう願いも西村プロデューサーの中にあって。そういう要素も入るといいなって思っていましたね」
――“ちいさな英雄”はサビの《あそぼ あそぼ》というフレーズがすごく強い曲ですよね。
「そうなんです。シノッピと一緒に作詞をしていて、打ち合わせの時から『となりのトトロ』の“さんぽ”みたいに繰り返しのフレーズがあるといいよねっていうのはあったんですけど。シノッピは《あそぼ あそぼ》が言葉とメロディ同時に出てきたらしくて。そのサビの部分がまず決まって、あとの歌詞を書いていった感じでした」
――最初にそのフレーズが出てから、サウンドやアレンジ面を決めていった、と。
「そうですね。そういうふうに言っていました」