ちょっとずつ考えてみることで、変わるものってあるんじゃないかな?と。それを常に届けたい
――話は戻りますけども、そういう観点で言うと今回のEPは、4曲4様のプレイリストとして「FIVE NEW OLDの最新型」を伝えてくれるパッケージでもありますよね。
「EPってやっぱり、そういう意味合いがあると思っていて。もちろんリード曲はあるけど、何が好きかは聴いてもらって決めてくれれば嬉しいし。ドレイクとかすごく多作で、毎回曲数多いじゃないですか。正直疲れるんですよ、この時代で言うと(笑)」
――で、カニエ・ウエストの7曲入りを聴いてホッとする、みたいな。
「ああよかった、ちゃんと平等に愛せる!みたいな(笑)。いろんな価値観があるし、それぞれ正しいと思うんですけど。でも、僕たちは4曲っていうEPの分量で楽しんでもらうのが、自分たちの表現としても合ってるし、聴く人にとっても、時代感的にも4曲っていうのがいいのかなって」
――表題曲の“What’s Gonna Be?”は、「日本ではともかく、世界のポップシーンにおいては超王道」っていうサウンドにもHIROSHIさんの価値観が出てるし。ポップな楽曲に《I know it makes you wanna say like/OH MY GOD(このままじゃ叫びたくてしょうがない/「あぁ 神さま!」)》という切実な言葉が乗っているのも、FIVE NEW OLDの音楽ならではのコントラストですよね。
「自分に対して発破をかけたところもあったり、すごくパーソナルな部分もあったりするんですけど。なんかこう、ポップソングだけど、常に社会に対して――別に政治的なメッセージまでは持ってないけど、『なんか変じゃない? ずっと変じゃない?』っていうの思っていて。それは社会に対しても、自分に対しても原動力になってますね。一発で世界を変えられるとか到底思っていないけど、何かちょっとずつ考えてみることで、変わるものはあるんじゃないかな?と思っていて。それを常に届けたいなって。チープなラブソングに見えるものでも、何かのメタファーだったりっていうふうにしています」
――そういう問題意識とか違和感とかが、トロイの木馬みたいな形でポップソングの中にこめられていて、気がつくと聴き手の奥深くに浸透している、っていう機能性の象徴みたいな曲ですよね。
「いいですね、『トロイの木馬』。次のアルバムのタイトルにしようかな?(笑)。でも、『なんか変だよな』『ああ、そうだなあ』っていうだけでもいいんですよね。気づかないより全然いいと思うし。僕は白と黒をはっきりさせるのが苦手なタイプで、グレーゾーンがあるべきだし、そういう中で生きていくべきだと思っているので。その中で、受け入れて前に進んでいく――たとえ世界が変えられなかったとしても、誰かが困った時に優しくしてくれて、それが返しきれない恩だとしたら、たとえば電車でおじいちゃんおばあちゃんとか妊婦さんとかに席を譲ってあげるとか、ちょっとしたことで誰かに返していくとか。そういうことだけでも、自分も社会もちょっとずつ変わっていくんじゃないかなって。そこは夢見がちですけど……しんどいし、夢見ないとやってらんないじゃん?みたいな(笑)」
作り手の世界観はすごく大事にするべきなのかなって。自分を掘り下げて発見する何かをさらに深くできる人が注目されていくような気がする
――“Please Please Please”の、80年代AOR全盛な感じのエレピの音も最高ですし、“Better Man”の《There’s fear under my skin(肌の下には恐怖が潜んでる)》っていうメランコリックな感覚もゾクゾクするし。で、最後の“Don’t Try To Be Perfect”のゴスペル感が、全4曲のEPに途方もない奥行きを与えていますね。
「ビートの面ではこれが一番時代を映していて。トラップを取り入れたりしてるんですけど。HAYATOが叩いてくれることで、生のバンドとしてのリズムとうまく混ざったりとか、それぞれメンバーが持っている色味をうまく足してくれて。『FIVE NEW OLDっぽさ』がナチュラルに出ている曲だなって思います。デモとかも、自分でミックスするくらいビジョンが見えてた曲なので」
――《I mean that truth is dead(真実は死んでしまったと思う)》から始まる曲ですけども。
「tofubeatsくんも、前々作の時にポストトゥルースの問題をテーマにして曲を書いたりしていて。最近の記事で見たのは、ドレイクが1年以上公の場でインタビューに答えていなかったりとか……アーティストが直でメッセージを届けることで、それが一見正しいようだけど、こうやってインタビューをしていただいて、メディアっていう第三者が入ることで、自分たちが気づかなかった視点、新しいところをお互いに紡ぎ出して、みんなで形成していく、っていうことが困難になっているというか。それってすごく一方通行的だし、それどうなの?っていう」
――そういう「時代性と切実なメッセージを内包した音楽」であることと、「50年後・100年後の時代から聴いても魅力を放つエバーグリーンな音楽」であること――そのふたつの黄金律がFIVE NEW OLDの音楽にはあるし、それは「結果的にそうなった」ものではなくて、HIROSHIさんの意志で成立しているものだなあっていうのは、今日お話を聞いていて改めて思いました。
「山下達郎さんの『RIDE ON TIME』のレコードを友達からプレゼントしてもらった時に、帯に『いい音しか残れない』って書いてあって。それがもう……グサッと心に刺さって(笑)。で、聴いたらもちろん『うわあっ! いい音しか残れないんだ』って、説得力が違ったし。音楽をやってる以上、目指すべきはそこだなあって。まだまだ叶えたい、鳴らしたい音像はあるんで。今は何人かのソングライターでコライト(共作)するやり方も当たり前になってきていて、それに対する興味とか、ミュージシャンとしての面白さもあるけど。それをみんながやり始めているからこそ、もう一度立ち返ってみるというか……まあ、そこはうまいこと言ってますけど、基本は天邪鬼なんで(笑)」
―― なるほど(笑)。
「こういう時代だからこそ、一番根幹にある作り手の世界観っていうものはすごく大事にするべきなのかなって。多くを外に知ることも大事だけど、イチローみたいに自分を掘り下げていくことで発見する何か――今この2019年っていうタイミングは、そういうものを改めて深く掘り下げる人が注目されていくような気がするんですよね」