(“ハンカチ”は)初めてラブソングを書こうと思って書いたんです。「あるあるを言っていこう」みたいな。主人公はバカっぽい感じがいいよね、とか(粟子)
――“RUN”とか“アイデンティティ”の歌詞って、粟子くん自身がブレてしまう自分へのコンプレックスを歌にしてますよね。《誰にも惑わされずに 夢中になって生きてみたい》とか《迷わず生きる人に嫉妬してしまって》とか。
粟子 そうですね。“ハンカチ”でも《いつも優柔不断で》って歌ってるし。ほんまに迷っちゃうんですよね。自分のなかでは、こうしたいなっていう答えがあるんですけど、誰かにこうなんじゃないかって言われたら、そっちのほうがいいかもしれないってふらふらしちゃうんです。それが悪いことじゃないかもしれないんですけど、やっぱり伝える側として、ブレない人がかっこいいなと思う気持ちがあったりして……。
――一見、粟子くんって頑固そうなイメージはあるけど。
粟子 頑固っぽいでしょ(笑)? でも、自分のやりたいことを言葉にするのが苦手だから、うまく伝えられなくて流されちゃう。それを歌詞にしたんです。自分を持つことが大切なんやなって思うし、それをみんなに教えたいと思って。
――自分のコンプレックスを前に進むエネルギーにしたかったんでしょうね。
粟子 ちゃんと好きなことに向かって「行動する」っていうことがポイントです。いままでは好きなことを好きっていうだけやったんですけど、その先を出せたかなと思いますね。
――リード曲の“ハンカチ”は新しいココロオークションのアンセムになりそうなラブソングですね。
井川 これは完全なラブソングですよね。すでに何回かライブでやってるんですけど、「恥ずかしすぎて聴けない」みたいな意見があって。
――たしかに《眉毛の角度を変える》とかリアルです。
粟子 これは僕が本当にやったことですね。僕、あんまりラブソングを書こうって思って書かないんですけど、この曲では初めてラブソングを書こうと思って書いたんです。で、「ラブソングって、どんなんやと思う?」って、(大野と)ふたりで話し合って。「あるあるを言っていこう」みたいな感じで書いたんですよ。主人公はバカっぽい感じがいいよね、とか。
――ああ、恋をすると、みんなバカになっちゃうみたいな(笑)。
粟子 そうそう(笑)。男が恋をしたらやってしまうバカなことを並べていって。だから、いままでは自分を切り取って歌詞を書いてたんですけど、“ハンカチ”は完全に別人物なんです。そこにちょっとリアルも入れたんですけど、それが……眉毛の角度を変えるっていうやつで(笑)。
井川 大丈夫、俺もやったことあるよ。
粟子 さっちゃん、(眉毛が)シャキーンってなってたもんね(笑)。でも、そういうところを、いま「リアル」って言ってもらえて、あ、伝わってるんだなと思いました。
“アイデンティティ”でも歌ってるんですけど、自分が自分であることを誇りに持てたら、ちゃんと「好き」って言えるんですよね(粟子)
――ココロオークションがここまで生々しい人間像を書くことってなかったと思うんですけど、どうしてこういう手法を試してみたんですか?
粟子 『Musical』の作詞にはすごく時間をかけたんですけど、それでも伝わりきらないというか、ぼやっとしてるイメージがあったんです。それで、どうしたらいいんだろう?って悩むなかで、(大野と)キャッチボールをしながら作ったんです。キャラクターを設定するために、すごい質問をしてくるんですよ。「何歳ぐらい?」「どういう表情をしてるの?」「この人は何を大切に生きてるの?」とか。それで「なるほど、その視点が抜けてた」って気づいたんですよね。……あと、僕、すごく文字を書くことにコンプレックスがあって。
――ずっと歌詞を書いてきたのに?
粟子 うん。国語とかも苦手だったし、向いてないのかな?って悩んだりしたんですよ。それも一緒に相談しながら作れたことによって、一皮むけたというか。バシッと言いたいことが言えるようになって、伝えられる喜びを知れたんですよね。
――“タイムレター”では、まさに粟子くんの人生をストレートに伝えてますもんね。
粟子 曲作りに悩んでるときに、先輩のミュージシャンから「もっと自分を掘り下げてみたほうがいいよ」っていうアドバイスをいただいて、一緒に考えたんですよ。粟子真行はどういう人間なのか、何を大事にしてるのか、何が嫌いなのか、どういう性格なのか。それを全部ひもといていったら、小さいときに入院をして、たくさん寂しい想いをした。いじめられて、自分の気持ちを言えない人になった。友だちがいなくて、ずっと歌を歌ってた。だから歌を好きになった。っていうことが出てきたんですね。そしたら「それを1回歌にして、過去の自分を成仏させたほうがいいよ」って言ってくれたんです。
――ちなみに、その先輩ミュージシャンっていうのは?
粟子 カヨコさんっていう、LiSAとかに楽曲提供してる人です。大学の軽音楽部の先輩なんです。
――実際に書いてみて、どう思いましたか?
粟子 最初はすごく恥ずかしいなと思ったんですけど、ラジオで解禁したときに、思いのほか反響が大きかったんですよ。「泣いた」って言ってくれる方もいて。いままで自分のことを書くほど伝わらないと思ってたんですけど、逆に伝わるんだって、びっくりしました。
井川 知らなかった。これは成仏ソングなんやな。
粟子 うん。カヨコさんに、これを書いたら「粟子はもっといろいろな曲を書けるよ」って言われたんですよ。そしたら、“ハンカチ”は別人格で書くことができたんですよね。
テンメイ この曲は自分に向き合うだけだったら生まれなかったと思ったんですよ。『VIVI』の曲は全部なんですけど、自分と向き合って、さらに踏み出そうとしてるんですよね。粟子さんは進もうとしてたんですよ。だから曲ができて自信につながった。音楽に対して悩んだこともあったけど、進もうとしたからこそ、この作品を出せたんだと思います。
――なるほどね。いま粟子くんがよりパーソナルな表現に踏み込んだことと、さっき大野くんが手癖を許せるようになったことって、根っこは同じ気づきだと思うんですよ。
全員 (うなずく)。
――それぞれが自分らしくあることで、バンドが唯一無二の面白い存在になっていく。『VIVI』はそういうことを教えてくれた1枚かもしれないですね。
粟子 うん、本当にそうだと思います。“アイデンティティ”でも歌ってるんですけど、自分が自分であることを誇りに持てたら、ちゃんと「好き」って言えるんですよね。
大野 たぶんココロオークションは、ここからこういうふうに音楽を作っていくんだと思います。手法というより、その大事にするものとして……。
――自分のやりたいことをやっていくっていうことですね。
大野 そう。いろいろやってみたけど、結局そういうことなのかなって。でも、それは『Musical』とも地続きだと思うんですよね。必然的にそういうところに辿り着いたなっていう実感はあるので。今作はそれを気づかせてくれたアルバムだと思います。
――ここからココロオークションはさらにかっこよく進化していきそうな予感がします。
粟子 ちょっと昔までは、かっこつけるのがよかった時代だと思うんですよ。でも、いまはかっこつけないのが、かっこいい時代だと思うんですよね。自分の好きなものを「好き」って言ったり、みんなは違うかもしれんけど、「わたしはこう」「僕はこう」って自信たっぷりに言える人がかっこいい時代だと思うんです。だから僕らもちゃんとかっこいいと思うことをやりたい。今回のアルバムのテーマは、「好きなことに向かって躊躇わずに行動する」っていうことだから、僕なりにアルバムのとおりに生きてみたんです。自分と向き合って、勇気を出してやりたいことをやってみた。それが良かったんだと思います。