ロリータファッションに身を包み、日々の感情の機微から心の深淵まで妖艶に歌い上げる異能のシンガーソングライター=橋爪もも。彼女が1stフルアルバムに冠した『本音とは醜くも尊い』というタイトルはそのまま、いびつで脆く儚い「この時代に生きる僕ら」の生き様を赤裸々な筆致で描き慈しもうとする、彼女のアーティストとしての切実な姿勢を象徴するものだ。
楽曲ごとに主人公を設定し映画ばりの物語性を備えた詞世界と、極上のメロディを主軸として聴き手を「共有」「共鳴」へと誘うソングライティング。12の楽曲それぞれがまったく異なる表情を見せる今作はしかし、橋爪ももという表現者の核心を確かに指し示すものだ――ということを、以下のインタビューからも読み取っていただけることと思う。
インタビュー=高橋智樹
大好きだったsyrup16gさんが一度解散されたんですよね。その時に、「もうsyrup16gさんの曲が生まれないんだ」って思った時に、「じゃあ自分で作ろう」って
――以前ライブも観せていただいたんですが。ロリータファッションと、リアルで業の深い歌の世界観と、開けっ広げなMCの調子とが、観ていてもなかなか整合性がつかなくて――。
「そうですよね(笑)。やりたいことをやらせてもらっていたら、ああなってしまったので。しゃべることも好きですし、ロリータ服は切っても切れない存在ですし。曲はやっぱり、お客さんのことを思うとああいう歌詞になったりして……。はじめは確かに、『どう扱っていいかわからない』って、周りの人たちからも言われて。『どこをどうピックアップすればいいのか……売りにくいよねえ』って(笑)」
――そもそも、橋爪さんが歌を「自分を表現する方法」として自覚したのはいつ頃でした?
「歌の前にまず、思春期の爆発しそうなエネルギーを解消する一番初めの方法は、音楽を『聴くこと』だったんですね。想像する余地がたくさんある中で、自分なりに『この曲はこうなんじゃないか、ああなんじゃないか』って妄想の世界に浸ることが、まず根源にあって。ずっと『歌を歌ってみたい』っていう気持ちはあったんですけど、学生時代に服飾のほうに進みまして。その頃からロリータ服も、精神的に自信がない部分を補ってくれる戦闘服で、自分を表現する上ですごく大事なものだったんですね。なので、服を作るっていう方向に進んだんですけど……やっぱり歌を歌いたいっていう気持ちがあって。ちょっとしたきっかけで、ステージに上がる機会をいただいたので、そこで初めてギターを――2週間で練習して(笑)。日程だけ先に決まっちゃったものですから、練習して弾いて、ひどいライブをして……そのDVDが今も残ってるんですけど、今でもたまにそれを観て反省してます(笑)」
――(笑)。
「でも、それをきっかけに、『ステージに上がること自体はこんなに簡単だったんだ』って気づけて。そこから『歌を作ろう』って思ったのが……大好きだったsyrup16gさんが一度解散されたんですよね。その時に、『もうsyrup16gさんの曲が生まれないんだ』って思って、『じゃあ自分で作ろう』って――初めて書いた曲が、今回収録されてる“ヒーロー”っていう曲なんですね。自分の内面のことを歌ってるんですけど、そこからだんだんお客さんが増えてくる中で、『対・自分』ではなくて、お客さんのこと、これから出会う誰かのことを思いながら曲を書いて歌って、っていうのが、歌で表現する根拠に自然になっていきました」
――なるほど。今回のアルバムに至るまでの期間はすなわち、「世界と向き合う戦闘服としてのロリータファッション」と、「自分の内面と向き合うこと」と、「他者とのコミュニケーションとしての歌」と――それが全部渾然一体となっていく時間でもあったわけですね。
「そうですね。なので、どれも切り離すことができなかったので……曲を作って、かなり精神的な歌詞を書いて、でも服はやっぱりロリータ服で(笑)。で、曲の中にかなり本音を書くものですから――それが恥ずかしいっていう思いがあるのかどうかわからないですけど、MCではだいぶひょうきんで、ふざけたことを言って(笑)。そこらへんのアンバランスさは、自然と生まれていったんだと思います。『目立ちたい』とか『キャッチーに存在したい』とか『売れたい』とか、そういうことを何か考えてやったっていうよりは、好きなものをやっていった結果ですね」
曲を書く時に、その主人公を取り巻く人間関係とか環境とか、所得とかまで考えることもあるんですけど。「女性、○歳、週7回会社に通う、有給取れない、死にそう」とか(笑)
――フェイバリットアーティストにさだまさし、THE YELLOW MONKEY、syrup16g、THE BACK HORNを挙げていらっしゃる時点で、キャッチーさだけを目指して音楽をやっている人ではないだろうと思っていましたけど――。
「(笑)」
――「どれだけカラフルに輝けるか」よりも、「どれだけ自分の内面に対してリアルであるか」、「渦巻く感情をどれだけきっちり形にするか」みたいなところに焦点が合ってる方だろうなあというのは、楽曲を聴いても強く感じるんですけども。そういう部分は最初からあったっていうことなんでしょうね。
「ありましたね。人間が生きていく上で感じる感情って、ほぼすべてのものに名前がついていて、二字熟語とかで表現できちゃうんですけど。それを改めて砕いて、言葉で伝えられるように――パッと二文字にしちゃうよりは、丁寧に丁寧に嚙み砕くことで、みなさんの心の隙間にスッと入れたらいいなと思っていて。なので、ほぼほぼすべての楽曲で、歌詞がものすごく長くなってしまうんですね(笑)。受け取ってくれた人、今顔が見えるファンとか、見えないどこかで苦しんでいる人とか――想像でしかないですけど、曲が届いた時に、ちょっとでも憑き物が落ちるようにっていう。自分が幼少期に、音楽ですごくストレス発散ができたので。その手段が見つからない人もいると思うので、それを音楽っていう形でできたらって思います」
――“自己愛性障害”、“甘い娘”、“ヒーロー”と楽曲ごとにまったく違う表情を持っているアルバムですけども、その核にはそういう橋爪さんの視線と姿勢が感じられる作品でもあって。
「ありがとうございます。12曲収録されていますけど、“自己愛性障害”も“甘い娘”も“ヒーロー”も、全部主人公がいて。曲を書く時に、その主人公を取り巻く人間関係とか環境とか、所得とかまで考えることもあるんですけど。『女性、○歳、週7回会社に通う、有給取れない、死にそう』とか、『駅のホームの柱に週に1回しがみつく、飛び降りないように』とか(笑)」
――脚本家とか小説家みたいな書き方ですね。
「まず物語を作る、っていう意味ではそうかもしれないですね。そうやって、資料みたいにバーッて書いた後に作詞を始めるんですけど。完全なフィクションだと、自分自身も感情移入できないですし、みなさんも『へえ、そうなんだ』で終わっちゃうので。物語を説明しすぎないように、その主人公の感じた感情を書いてあげることで、みんながその物語の主人公になれるように――“甘い娘”は女の子が女の子に恋をした中学生のお話なので、50歳の男性が聴いて歌の中に入れるかって言ったらそうじゃないかもしれないですけど(笑)、『僕もそんなことを思ったことがあったかもしれない』ってどこか共感できる部分は絶対に残して書くようにしています。できるだけみんなが主人公になれるように。あと、想像の余地を与えたいので、そこから削ぎ落とす作業をしていくのが大変で。いろんなことに当てはまるような、オブラートに包んだ言葉を使うようにしている部分もあるので。具体的な設定を作っても、最終的には全部は使えないんですけど(笑)」
――でも、そういう描き方が一番、橋爪さん自身にフィットしてるわけですよね。
「そうですね。なので、1曲で収まらないこともたまにあって。今回のリード曲の“バレリーナ”は、幼少期の自分をどうにかしたくてもがく女性のお話で。“バレリーナ”のステージは、学校であったり職場であったり、みなさんの今いるステージをあてはめて聴いていただきたいですが……“バレリーナ”は、《君を救わなければ》っていうラストで第三者が現れて、救われたのか救われてないのかはご想像にお任せします、っていう終わり方なんですよ。それで主人公が一応救われた体で、おばあさんになって当時を振り返っている設定の曲が、11曲目の“天国への土産話”なんです。なので、物語が対になってる曲もたくさんあって」