(“今更”は)ファンの方に向けたラブソングなんですね。「みつけてくれてありがとう」っていう感謝と愛をこめて書いた曲で優しい曲調ですけど、主人公のギリギリ感が出てますよね
――さっき“ヒーロー”の話もありましたけど、今回のアルバムはわりと幅広いスパンの楽曲が集まっている感じですか?
「今回書き下ろした曲は、予約特典CDの“造花”も含めて4曲で――今までミニアルバムとかシングルを出させていただく過程で、“甘い娘”とかは正直『音楽性がブレてしまう』っていう理由で入れられなかったんですけど。6曲とかの中に“甘い娘”が入ってると、突如入ってる感があるんですけど、12曲入ってると、全体的なテーマを受け取ってもらえますね。やっぱり、7曲目の“自己愛性障害”が終わった後に、急に“甘い娘”が始まった時に、自分でもギョッとするんですけど(笑)」
――歌い方も曲によって全然変わりますからね。
「自分が小さい頃に、曲っていうのは、自分の想像を駆り立ててくれて、5分間夢の世界に連れて行ってくれるものだったので。もちろん、ライブハウスでタテ乗りするための音楽もあるし、いろんな楽しみ方があると思うんですけど。私にとっては音楽は、妄想するもの、自分の気持ちを鎮めてくれるものだったので。その妄想に連れて行くために、一番合ってる手法を取ったら、こうなりました(笑)。変えて歌ったほうが絶対いいなと思って」
――僕がこのアルバムを聴いて一番好きだったのは最後の“今更”で。この曲の主人公って、橋爪ももさん自身じゃないかな?って感じたんですけど――。
「あ……ドンピシャでございます(笑)。私って限定しちゃうとあれなんですけど、ファンの方に向けたラブソングなんですね。『見つけてくれてありがとう』っていう感謝と愛をこめて書いた曲で」
――ファンの方への感謝の手紙のようでもあるけど、ものすごく美しい遺書のような曲でもあるし。単純に「ありがとう、またね」っていうだけではない、一期一会の切実さもこもってますよね。
「はい。優しい曲調ですけど、主人公のギリギリ感が出てますよね。触れたら死んじゃいそう、みたいな(笑)。私の手法として、『歌った』っていう言葉は歌詞の中であまり使わないようにしていたんですけど。『歌』って人類みんなできることですけど、それを歌詞に入れることによって『シンガーソングライターっていう人間がファンに向けて書いた曲』ってわかりやすくなっちゃうので……ただ、今回の“今更”は、私からみなさんへ、っていうのが明確だったので、初めて『歌った』っていうふうに書きました。『私からみなさんへ』っていう思いで書いてますけど、誰しもが当てはまる気持ちだと思うので。あまり限定せずに――逆に、聴いてる人が『俺から誰かに向けて』とか、『俺が発信してる俺の歌だ』って思ってもらっても構わないですし」
――《あなたが私と同じ孤独を口ずさんだその時 救われた気がしたの》っていうフレーズは、音楽を聴くことで救われていた少女時代の橋爪ももの言葉でもあるし、舞台で今この曲を聴いてもらっている橋爪ももの言葉でもあると思うんですよね。
「もう、まったくその通りです(笑)。この曲ではずっと、主人公が自分の設定というか、自分自身が主人公になりきって書いてますけど。この1行を書く時だけ、小さかった頃の自分が、当時聴いてたアーティストさんに向けて言ったようなセリフのつもりで書きました」
ファンの人が「橋爪ももはこういうアーティストだ」って言う時に、口々に違うことを言うんです(笑)。どこの面を見ていただくかで、ずいぶん印象が変わるので……ドキドキしてます(笑)
――それはたぶんそのまま、その歌を受け取ったお客さんの思いを綴った言葉でもあるわけで。
「世の中、本当に素敵な音楽がいっぱいあふれてるじゃないですか。その中で橋爪ももに辿り着いてくれたことが、すごいことすぎて。『見つけてくれてありがとう』っていう気持ちをどうにか形にしたくて。でもやっぱり、常々思うんですけど、アーティストって、ライブハウスで待ってることしかできなくて。お客さんが来る/来ないは本当にお客さんの意思なので。出会えたとしても、来てくれるかどうかはわからないんですよね。誰もいないところで歌っても、誰も認知していないから、橋爪ももになれないんですよ。ファンが来てくれて、初めて橋爪ももっていう存在になって。本当にお客様に生かされてるなって思います」
――橋爪さんの音楽に向き合う姿勢が切実に焼き込まれたこの曲を、アルバムの最後に聴けたのは嬉しかったですね。
「この曲は大事な時しか演奏してなくて……自主企画の最後にしかやってなかったので、たぶんライブで歌ったのは2〜3回くらいなんですけど、お客様の前で歌っちゃうと毎回、後半ボロ泣きしちゃうんですよ。でも今回、アルバムに入れちゃったので(笑)。アルバムを作る時に“今更”を軸に作り始めて、11曲集まった段階で『どうしよう、この11曲をまとめる1曲を書かなきゃ』って最後に書いたのが“本音とは醜くも尊い”だったんですけど。“今更”から始まってるんですけど、たぶんこれから演奏することが増えるので、どうしよう?みたいな。毎回泣いてらんないし……慣れるしかないですけど(笑)」
――『本音とは醜くも尊い』っていうのはセルフタイトルではないけども、音楽を作る上での基本姿勢みたいなものを題名に掲げてあるわけで。精神面でのセルフタイトル的な作品ですよね。
「そうですね、これが軸ですよっていう。このフルアルバムがスタートだなって思っていて。ただ、スタートにもかかわらず、これだけ暗いアルバムでGOサインを出した徳間さんはすごいなって」
――(笑)。このアルバムの中でどの楽曲を好きになるか、聴く人によって全然違うでしょうね。
「それが如実にわかるのが――ファンの人が『橋爪ももはこういうアーティストだ』って言う時に、口々に違うことを言うんです(笑)。『がなるロックを歌ってる女だ』って言う人もいれば、『ピアノアレンジの耽美系な歌を歌う人だ』って真逆なことを言う人もいるので。みなさんも結構困惑してるんだろうなって。どこの面を見ていただくかで、ずいぶん印象が変わるので……ドキドキしてます(笑)」