テレビアニメ『文豪ストレイドッグス』第3シーズンのエンディング主題歌として書き下ろされた“Lily”は、「どう生きるべきなのか?」と自問自答する姿が、力強いバンドサウンドと共にまっすぐ迫ってくる曲だ。現実世界の中で直面する様々な出来事、湧き起る無数の感情を丁寧に描き続けているこのバンドの魅力も再確認させてくれる。今回の作品についてPON(Vo・G)が語ってくれた言葉は、ライブハウスで育ったロックバンドならではのアニメへの誠実な向き合い方をしているラックライフの核にあるものも示していると思う。
インタビュー=田中大
「身近なスター」っていうのが、僕らが憧れてきたスーパースターたち。そういうものに自分もなりたい
――『文豪ストレイドッグス』の曲を書き下ろしたのは、今回で何度目ですか?
「4作目です。今回も原作を読みながら自分と重なる部分を探すところから始めました。そういう部分が見つかったら原作のことは一旦忘れるのを、いつも心がけてます。タイアップを意識しすぎるのではなくて、貰ったヒントをもとに自分の人生を振り返るっていうスタンスですので」
――原作を読んだ上で思い浮かんだのは、どういうことでした?
「僕がこの曲で描きたかったのは『踏ん張るべき時に踏ん張れるかどうか』ということでした。例えば、涙を流してしまったら、今まで積み重ねてきた『自分像』みたいなものが崩れてしまったり、何も進まなくなることってあるじゃないですか。自分自身にもあるそういうことを思い出しながら、この曲を形にしました」
――ミュージシャンとしても、踏ん張り時って度々ありますよね?
「そうですね。僕が生み出さないと何も始まらない時ってありますし、自分がいいと思えるものを作らないと自分が自分じゃなくなるような感覚にもなりますから。でも、そういうのはプレッシャーでありつつ、やりがいでもあるんです」
――そういう想いを抱えながら活動してきて、先日、11周年を迎えたわけですね。
「はい。まあ、思ったようにはいってないですけど(笑)。でも、振り返ってみたらいいことも悪いことも全部に意味があって、全部が繋がってたと感じられてます」
――そういう実感が、この曲の説得力を生んだのではないでしょうか?
「どうでしょう? 僕は昔からよく『言葉が薄っぺらい』とか『重みがない』とか言われてきたんですよ(笑)。昔から根っこにあるものは変わってないんですけど、説得力が生まれてきたんだったら嬉しいです」
――「薄っぺらい」と言われていたというのは意外ですね。
「僕、しょうもない関西弁でばあー!って喋るし、『もっと真面目に、自分を良く見せるように演じたら?』みたいなことも言われてたんですよ。でも、いろいろ試した結果、『それじゃあ俺がおもろないから』っていう理由で、今みたいになりました。演じながら世界観と物語を完璧に作り上げるタイプの人もいますけど、僕はそれがやりたかったんじゃないし、素っ裸でステージに上がって、そこで思ったことを歌にのせて届けるっていうバンドをやりたかったので」
――PONさんは、地元のライブハウスに通いながら、いろんな人たちに憧れたところからバンドを始めたわけですし、自分とあまり変わらないお兄さん、お姉さんたちの飾らない言葉と音にときめいたのが原点ですよね?
「そうですね。さっきまで普通に喋ってた人がステージで輝く瞬間とか、その人が普段思ってることがステージで表現される説得力に憧れてたんです。『身近なスター』っていうのが、僕らが憧れてきたスーパースターたちなんですよね。だから、そういうものに自分もなりたいという気持ちは、今でも根っこにあります」
――この前、閉店してしまった 高槻RASPBERRYでも、そういうバンドを観ながらワクワクしていたんですね?
「はい。先輩のバンドを見ながら、いろんなことを吸収しましたし、人と人の繋がりの大切さを教えてくれたのが 高槻RASPBERRYでした。あそこの最後の日に出演した人たちはみんな、『ライブハウスは場所やけど人が作るもんやから、なくなってもきっと大丈夫』って言ってたんです。ほんといい箱で育ったと思いましたし、そういうのが自分の原点になってるんだと思います。だから、生々しさ、リアリティ、背伸びせずに表現するっていうのが、ラックライフのあり方になったんだと思います」
アニメも人間が作ってるもので、熱意と想いを込めて作ってるっていう点では、音楽と同じなんだと感じてます
――タイアップは様々な人の意見も反映されるものですが、“Lily”に関しては、『文豪ストレイドッグス』のスタッフの方々からの要望とかはありました?
「2作目から、そういうのはなくなりました」
――信頼してくださっているんですね。
「はい。僕も『文豪ストレイドッグス』が大好きですし。すごく人間らしいキャラクターがいっぱいいるところが、この作品の魅力なんです。自分自身を投影しやすいんですよね。みんなかっこよくて、異能力を持ってて、強いんですけど、それぞれが闇を抱えてるところに惹かれてます。『人間らしさ』っていろんな考え方があるんでしょうけど、前を向いたりメソメソしたりもすることなんじゃないですかね。ラックライフも、時には気持ちがブレたりすることすらも歌にしてしまおうと思ってます」
――その時によって考え方が変化するのが、人間の自然な姿ですからね。
「僕もそう思います。矛盾があったとしても、どっちもほんまのことだったりしますし。僕は普通のやつだからこそ歌える歌を歌いたいんです。ほんまに自分のことしか歌わないタイプなので、タイアップの曲をやるのは、最初の頃は不安もあったんですけど、受け入れてもらえるようになってるのは、すごくありがたいですね。あと、アニメを作ってる人の面白さも感じるようになってます。アニメも人間が作ってるもので、熱意と想いを込めて作ってるっていう点では、音楽と同じなんだと感じてます」
――アニメを作っているチームも、ロックバンドみたいな熱量を渦巻かせているんじゃないですか?
「ロックバンドよりもロックバンドみたいなチームもありますよ。『文豪ストレイドッグス』のチームも作品に対する愛が深すぎて、『この人たち、ほんまにすごいな』って思うことがよくあります。作品のイベントとかがある度にプロデューサーさんがズタボロに泣きながら出てきて、『PONくん、良かったよ!』とか言ってくださるんです(笑)。自分たちが作ったものに感動できてる姿を見ると、『この人たちと一緒にやれて嬉しいなあ』って思います」
――アニメの曲をいろいろ手掛けてきたことによって、海外からの反応も増えましたよね?
「はい。去年は台湾でワンマンもやらせてもらいました。『これ、ほんまなのかな?』っていう夢みたいな感覚でしたね。日本語の大合唱が起こった時は、さすがに泣きそうになりました。『俺、外タレなんや?』って(笑)」