SAKANAMON・藤森元生が語る、11年の軌跡と新たな挑戦が詰まった『GUZMANIA』


「あの曲の二番煎じだな」とは言われたくないし、飽き性だから自分でも思いたくない。常に新しいものを作りたい


――2018年は10周年イヤーということで、アルバムリリースはもちろん、ワンマンツアーに対バンツアーとかなり精力的に動いていましたね。

「10周年は乗っかるしかないオイシイネタなので(笑)、9周年で『cue』というアルバムを作って、10周年に向かって盛り上げていくぞ!という気持ちのなかで活動してました。たくさんのみなさんのお手伝いをいただき、祝ってもらい感謝する……という楽しい1年間でしたね」

――2018年5月に開催されたZepp Tokyoでのツアーファイナルで、「僕らはただ、好きな音楽をみなさんに聴いてほしいだけ。好きな音楽を続けていきたいだけ」というMCが印象的でした。

「自分の好きな音楽ができるなら、どんな形態でも良かったんです。だからそれを聴いてくれる人がいることが本当にありがたいし、そんな環境のなかバンドを続けている僕は本当に幸せ者なんです。だからMCでもいつも同じことを言っている(笑)。ただ、昔は自分の書きたい曲を書いてたけど、最近は人様の『こういう方法で作ってみたら?』みたいな提案は昔よりも柔軟に取り入れるようにはなりました。たくさん曲を書いてきたんで何でも来い! ……というよりはむしろ『ネタちょうだい?』って感じなんですけど(笑)」

――あははは。藤森さんは作品を出すたびにストックを出し切ってしまうから。

「次の作品を作るときはいつも絶望的な枯渇状態から始まります(笑)。毎度のことだから今回もどうにかなるだろう――というふうに10年間続けてきたんですけど、今回がいちばんつらかったですね。『あの曲の二番煎じだな』とは言われたくないし、飽き性だから自分でも思いたくないんです。そのためにもつねに新しいものを作りたくて」

――向上心ゆえの苦悩があったと。とはいえ、2019年に入ってすぐに3ヶ月連続で配信シングルを出していましたよね? 「いちばんつらかった」というのは少々意外でした。

「曲は作ってはいたんです。でも、忙しい、嬉しい、楽しい、ありがとう!という10周年イヤーが終わって『さて次はどうしよう!?』となった時に、みんながみんな、なんだかふわふわしちゃってたところがあって」

――ああ。なるほど。一種の燃え尽き症候群かもしれないですね。

「でもひとまず曲だけは作ろうと思って。だから3ヶ月連続で配信シングルを出したのは、みなさんのリアクションをいち早く感じ取りたいという意味合いもあったんです。春に開催したリクエスト曲でセットリストを組むワンマンツアーも、お客さんが好きな曲を調査する思惑がありました(笑)。11周年に入ってからの半年間はすべて、今後の指針を決めるための活動だったんです」

自分の歌詞に後押しされて、自分も頑張らなきゃと思う。やっぱりSAKANAMONの曲は、つねに自分の応援歌でもあるんです


――その調査の結果、どんな発見がありましたか?

「シングルやリードではないけど自分的に手ごたえのある曲が、人気投票で上位に入っていて。バンドの感覚とお客さんの感覚は似てるんだなと思ったんです。チーム内では賛否両論だった“鬼”は僕的には自信作だったし、お客さんからもいいリアクションをもらった。自分のやり方、作り方にあらためて自信を持たせてもらえる結果が得られました。だから今回のミニアルバムの『GUZMANIA』には、去年ふわふわしてた時期に作った“YAMINABE”と“BAN BAN ALIEN”、今年調査を終えたあとに作った“並行世界のすゝめ”と“SECRET ROCK’N’ROLLER”と“矢文”、10周年の時に配信リリースした“箱人間”が入っているんです」

――言われてみると、ふわふわ期に作った曲は藤森さんの持つ濃いアーティスト性が出ているし、リスナーさんの想いを受け取ったあとに作った曲は外向きでポジティブな気持ちが出ている傾向にあります。

「リサーチを終えてからのほうが調子は良かったですね。曲がするする出てきて、この3曲もほぼ一緒にできたから」

――“並行世界のすゝめ”の歌詞も最初は抽象的でもやもやとした書き方だけれど、曲が進むにつれてどんどん具体的に、力強くなっていますしね。今SAKANAMONが《もう何も心配はいらない》と言えることは、とても意味のあることでは?

「……書くかどうかは、けっこう迷ったんですけど」

――なぜ書くことに踏み切れたのでしょう?

「自信があったのかな……? 僕、考えすぎると左右されすぎて曲が作れなくなっちゃうタイプなので、曲作りの時はあんまりいろんなことを意識したり考えたりしないようにしてるんです。だからこれまでも、狙って書くことはあんまりしていなくて。でも『俺はこういうことを言ってほしいんだろうな』という気持ちもありつつ、みんなの気持ちになれたらいいなという気持ちもありつつ……ぎりぎり書けました。自分の歌詞に後押しされて、自分も頑張らなきゃと思う。やっぱりSAKANAMONの曲は、つねに自分の応援歌でもあるんです」

――長年聴いてきた人にしてみると、「元生くんが《もう何も心配はいらない》という歌詞を書くなんて!」という感動もあるでしょうし。

「あ、それはちょっと狙ってるところあるかもしれないです(笑)」

――これは狙ってるんだ(笑)。

「過去にリリースした“テヲフル”や“ロックバンド”みたいな、真面目で真剣な、一切の照れなし、真っ向から泣かせに行ってる曲は、今までの10年間のおふざけがあったからこその『さあここで泣け!』感というか(笑)。真面目な曲を書いてきたから“鬼”みたいな曲がすぐできちゃったんでしょうね。最近真面目になりすぎちゃったなと思ったらふざけるし、ふざけすぎちゃったら真面目な曲を書いたり……そういうバランスは、曲作りをするうえで唯一意識しているところかもしれないですね」

物語ソングで結末を描き切っていないのは、自分と似た人たちに対する愛情なのかもしれない


――物語ソングも藤森さんの得意技になってきていますよね。“SECRET ROCK’N’ROLLER”は音楽好きとしてはぜひ現実になってほしい出来事です。

「物語調の曲はあんまり得意ではなかったんですけど、いいリアクションをもらえているのでありがたいです。“SECRET ROCK’N’ROLLER”はもともと、落としたいけど落とせるかなー……でも結局アクション起こせないまま終わる、みたいな合コンの曲にしようと思ってて。でも合コン行ったことないし、チャラいと思われたくないしなあ、ということで、今のかたちになりました」

――合コンというテーマが出てきた背景がまったくわからないですけど(笑)。でもそれも、創作の基盤にあるのが感覚的なものだからかもしれないですね。

「僕は『こうやって歌詞や曲を書けばいい』みたいな理論を持っていなくて。いつ書けなくなるかわからないし、もしかしたら次は書けなくなるかもしれないなという危機感もあるんです。物語ソングでも結局、主人公は悩んでいたり、一歩踏み出せないやつだったりして。やはり我々のラブソングはハッピーエンドにはならないという(笑)」

――でも“SECRET ROCK’N’ROLLER”も“矢文”も、バッドエンドではないですよね?

「ああ。結末を描き切ってはいないから、そういう意味では希望がありますね。自分と似た人たちに対する愛情なのかもしれない」

――今作の新曲はどれも、サウンド面でかなりユーモアセンスが発揮されているのが特徴的ではないでしょうか。

「“並行世界のすゝめ”は作っているうちにもっと音が欲しくなって、今までにないくらいギターを重ねて。ギターだけ録るのに8時間かかりました。“YAMINABE”はひとまずいろんなことをやってみようと思って」

――“YAMINABE”はとても理想的な音の遊び方だと思いました。隙間がある音像だから森野さんと木村さんのプレイも生きてますし、ラップやボーカルも光ります。

「クールな感じになりましたね。昔からDragon Ashを聴いたりもしていたし、僕は韻を踏める自信はあるので、いつかそれを生かした曲は作りたいなと思っていて。でもやったことは一切ないしな……。でもくるりの岸田さんもそういうアプローチをしてたしな……。と試行錯誤しながらやっていきました。『フリースタイルダンジョン』とか観たり(笑)、もっとテンション高いほうがいいかな? もっとMOROHAみたいなことしたほうがいいかな!? とか悩みつつ、みんなに『どう?』と確認しながらレコーディングしていきました。けど結果的にめちゃくちゃ評判のいい曲になって、良かったなあ……」

――しみじみと(笑)。

「見切り発車でスタートしたので、かっこ悪い作品になる可能性も大いにあったんです。『うわっ、ラップなんかしちゃって!』とか思われちゃうんじゃないかなあー……と穿った考え方をしてしまったり(笑)。でもそうならなくて本当に良かったです。だからR-指定くんにも聴いてほしい! 僕もアンサーするのに1時間もらえればフリースタイルで戦える自信があります!」

偏屈な高校生が作った『ああ、やっぱりこのバンドは裏切らねえな』と思えるバンドを集めたプレイリストのなかにSAKANAMONがいてほしい


――“矢文”は民族楽器とピアノがアクセントになっていて、今までのSAKANAMONにないロマンチックな空気感が生まれていると思います。

「最初はバイオリンを入れるつもりだったんですけど、デモを作っている時にこの曲には二胡の音がはまるなと思ったんです。こういうフォークっぽい曲は今までやってこなかったし、こういう弦楽器に憧れはあったんですけど入れ方がわからなかったので、今回は挑戦でもありました。奇跡的に二胡が弾ける人が見つかって良かったです。でもライブでどう表現しようかなって……ひとまずギターでやってみようかなと、バイオリンの弓を買ってみたんですけど」

――おっ、ボウイング奏法。シガー・ロスのヨンシーみたい。

「でも全然音出なくて!(笑)。特訓するか別の方法にするか模索中です」

――秋のワンマンツアーでのお楽しみにしておきます。『GUZMANIA』でもともと持っている特性を効果的に表現できるのも、新しい手札をこれだけ生かせているのは、経験の賜物だと思います。SAKANAMONみたいにマニアックでシュールなことをやりつつ、ポップソングを作れるロックバンドは貴重な存在です。

「そういうバンドでいたいし、昔からそういうバンドが好きなんです。そういうものが体現できているという自負はあるぶん、もうちょっと売れててもいいんじゃないかな?と思いつつ(笑)。……僕はつねに高校時代の自分というものがあるんです。高校時代の自分が好きになるバンドになりたい。クラスに馴染んでいない自分が聴いている、クラスのみんなが聴いてない偏屈なバンドや音楽。そんな自分が、みんなの知らない音楽を独り占めしてる教室。その音楽を聴いている人間は、確実に仲間――そんなバンドでありたいんです」

――うんうん。

「でも今思えば、僕が10年以上前に宮崎のど田舎で聴いていた、誰も知らなかったくるりやナンバーガール、フジファブリックは、東京だと全然売れてたんですよね(笑)」

――あははは。とはいえ、SAKANAMONの音楽が必要な、クラスの端っこにいるような人は間違いなく存在しますから。

「ああ、ありがとうございます。高校時代からダサいバンドには絶対になりたくないと思ってたし、偏屈な高校生が作った『ああ、やっぱりこのバンドは裏切らねえな』と思えるバンドを集めたプレイリストのなかにSAKANAMONがいてほしいんです。だからアルバムは毎回『わっ、また新しいことやってるな!』と思えるものにしたい。高校生の俺を裏切らないためにやってるところはあるし……だから売れないんだとも思ってた。でも、それに関しては最近論破されちゃったんですよ。苦しい気持ちを抱えてる人はいっぱいいるんですよね」

――表向きは明るい人でも、実はそれぞれでや悩みを抱えているということですね。

「TENGAの松本社長に『みんなそれぞれの悩みがあって苦しんでるんだから、高校時代の自分を裏切らない曲を書くことが、たくさんの人に届かないことの言い訳にはならないよ』と言われたんです。実はそれにうすうす気付いてたんですけど、とうとう面と向かって人から言われちゃいました(苦笑)。だから今後作る曲には、そういう影響も生かされてくると思います」

――『GUZMANIA』はライブテイクも入っているので、「10周年を経て俺たち今こんな感じだよ」というのを多面的に感じられて。ひとつの節目を終えたという安定感もありながら、新しい旅に出るようなすごくフレッシュな視点を持った作品だと思います。

「たしかに。そうですね。グズマニアは長い期間ずっと色褪せずに花咲いてる植物で、『いつまでも健康で幸せ』や『情熱』『理想の夫婦』という花言葉があって。卑屈なことを言いつつも前に進む気持ち、自分たちもそうありたいなという願いを込めてタイトルにしたんです。みんなを待たせたくないし、これからも頑張ります!」


“矢文”

『GUZMANIA』トレーラー映像

ミニアルバム『GUZMANIA』(ヨミ:グズマニア) 8月7日(水)発売
TLTO-015 ¥1,800(税込)
〈収録曲〉
01.並行世界のすゝめ
02. SECRET ROCK’N’ ROLLER
03.箱人間
04.YAMINABE
05.BAN BAN ALIEN
06.矢文
07.反照(Live Take)
08.リーマンビートボックス(Live Take)
09.テヲフル(Live Take)
10.ロックバンド(Live Take)

ライブ情報

「ミニアルバムリリースTOUR 2019 " SAKANAMON ver.11-12”」
一般発売:8月7日(水)10:00~
9月29日(日)東京 渋谷eggman
10月4日(金)静岡 浜松LIVEHOUSE MESCALIN DRIVE
10月5日(土)兵庫 神戸MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
10月11日(金)香川 高松TOONICE
10月13日(日)福岡 福岡INSA
10月14日 (祝・月) 広島 広島BACK BEAT
10月25日(金)宮城 仙台enn2nd
10月27日(日)北海道 札幌Crazy Monkey
11月9日(土)愛知 名古屋CLUB UPSET
11月10日(日)大阪 心斎橋Music Club JANUS
11月23日(土)新潟 新潟GOLDEN PIGS BLACK
12月1日(日)東京 渋谷CLUB QUATTRO

ライブ情報詳細
http://sakanamon.com/live

提供:TALTO/murffin discs
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部