多様な音楽を飲み込んだAwichという生き様──デビューEP『Partition』インタビュー

多様な音楽を飲み込んだAwichという生き様──デビューEP『Partition』インタビュー

(“Revenge”は)ほんとのリベンジって、誰かを憎むことでもなく、自分が解放されてあがっていくことなんじゃない?っていう気付きを歌ってる

──“Revenge”はAwichさんの故郷の沖縄民謡の音色が取り入れられつつ、どうやって過去の深すぎる傷と向き合って生きるかという曲になっています。《下はもう見ない》し《許せばいい》し「愛を持ち続ける」ということが歌われている。

「ほんとのリベンジって、誰かを傷つけることでも憎むことでもなく、自分が解放されてあがっていくことなんじゃない?っていう気付きを歌っていて。許さないことと許したことを比べると、絶対に許したほうが、その分、楽なんですよ。ノートにいっぱい想いを書いていって、自問自答してみたんです。例えば、アメリカに住んでた時に自分の旦那が亡くなったっていう出来事に対して、もちろんそんなことは起きなければ良かったと思う。悲しみや怒りが止まらない。『じゃあどうしたいの?』って自問自答すると、例えば『時間を戻したい』とか、『その出来事にまつわるすべての出来事を消したい』とか、『自分も悪かったのかもしれない』とか、許せないことをどんどんあげていくと、最終的に自分の中でのストーリーが大半を占めていると思ったんですよ。もちろん人が亡くなったことは事実としてあるんだけど、そこに付随する自分の想いは、全部自分の物語であって。だから、その感情に翻弄され続けるかコントロールするようになるか。そうやって2年くらいいろんな考えを巡らせたうえで、結局『許せばいい』って思ったんです。これが結論かも途中経過かも分からない。自問自答はずっと続いているから。でも少なくとも、誰かのことを許せないとは思わなくなった。なぜなら人それぞれにストーリーがあるから。そう思うようになると、今はもう、人を憎んだり理解できないっていうところには戻る気はしないですね。まあこの先どうなるかは分からないですけど」

──EPの資料に、「これまでの愛はGive&Takeだったが、見返りを求めるのはエゴであり、それだと人は成長できない。今はGive&Give。愛はあげればあげる程増えていくことに気付いた」ということが書いてあるんですが、“Revenge”を聴くとその言葉が浮かびました。

「そうですね。Give&Takeは私が何かをあげることによって私が減るって考え方。勝ち負けみたいなものがあって、それを毎回平らにするために、ギブした分だけ相手にテイクするみたいな考え方だと思ってるんです。でも今まで、心から何かをあげたいと思ったことで、あとから『ああ、あれあげなければ良かった』って思ったことってあまりない、って気付いたんです。『あげなければ良かった』って思うのは、もともと何かをもらうためにあげてるんですよね。でもそうじゃなくて、心からギブしてる時って、とても気持ち良くて、愛が溢れてくる感じがする。クサいかもしれないけど、あげればあげる程、溢れてくる。私はすべてのことは科学や数字で表せると思ってるところもあるんですけど、だからこそ愛のエネルギーって奥が深いというか。まだ数学では表せないんだけど、それこそ永遠のフリーエネルギーだと思ってるんです。もしそれが数字で表せる時がきたら、動物や植物や他の物質との折り合いについても理解できて、死ぬことへの恐怖や老いることへの恐怖が薄れるのかもしれない。心の中では『これGive&Giveのサイエンスじゃない?』って感じてるんですよね」

──その法則が解明できたら無敵ですよね(笑)。

「無敵(笑)。例えば人を愛するとか、付き合うとかも今までの概念じゃなくなる。『私の男』とか、『私の女』とかって考え方もGive&Takeの世界だと思うんですけど、Give&Giveは、ただただ助けたい、愛したい、この人が成功するために一緒に考えたいし、幸せになるために何かやりたいって望むだけ。そう考えると、別にその人が何しようと傷つかないし、周りが何を言おうと、私はただあげたいだけっていう。今の私がそれを100%できてるわけじゃないんですけど、そういう考え方をすればいいんだって思ってるのと思ってないのとでは大きく違う。『この人私のこと嫌ってる?』とか『傷つけようとしてる?』とか思った時、一瞬『うわっ』てなったりするけど、立ち返るところがあるだけで、すぐ『この人なんでこんな言動をしてるんだろう?』って思うことができて、逆に『私に何かしてあげられることないかな?』って考える。実際の痛みは感じないんだけど、これまでの経験もあるから、俯瞰して、『こういうことが痛みなんだ』って、痛まずに痛みを感じることができる。怒らずに怒りを感じることができる。だから歌詞も書けるし、みんなの気持ちも分かる。それは大きいと思う」

プロセスを見せているだけなんですけど、それに共感してくれている人がいることに感謝してる。だからもっとあげたい

──Awichさんはこれまで「ヒップホップクイーン」だったり「ストリートの女帝」って言われてきましたけど、『Partition』を聴くと、ボーダーレスなメッセンジャーとなっていく予感がして、とてもワクワクしました。

「嬉しいです。みんな分かってくれるんだ?って驚きをどんどん感じてますね。私は小さい時からずっとラップをしてたし、10代の頃にも一回デビューしてて。でもその頃は分かってもらえないことが多かった。説得力もなかったと思うし、自分では理解したつもりになってても語彙力が伴ってなかったり、愛がなかったのかもしれない。まだエゴとか、Give&Takeの精神があって、『私のこの大切なものをあげられない』って思ってた時もあったのかもしれないです。昔はオーディエンスのことを信頼できてなくて、本当は分かってほしいのに分かるわけないとか思ってたし。オーディエンスも私のこと『誰?』みたいな感じで信頼してなかった。でもこの数年で、相乗効果で信頼関係が生まれてきて。私の中で答えが出てるわけではなくて、プロセスを見せているだけなんですけど、それに共感してくれている人がいることに感謝してます。もっとあげたいと思うし、ちゃんとそれぞれで噛み砕いてくれるっていう信頼関係があるからこそ、じゃあ次はどうやって驚かそうかな?って思う。だから、できることがどんどん増えていくし、そういう人たちと成長していけるって思うと楽しみなんです」

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