子役時代があって、キッズダンサーをしていた時代があって、アイドルをやっていた時代があって――人生のなかで触れていた音楽が、すべて自分に染み込んでいる
――有安さんは「様々な曲調の楽曲を歌っていきたい」とおっしゃっていますが、その理由って何なんでしょう?「単純にいろんなタイプの曲を聴くのが好きだし、どの曲も自然と口ずさみたくなるんです。この25年間、子役時代があって、キッズダンサーをしていた時代があって、アイドルをやっていた時代があって――(それぞれの)人生のなかで触れていた音楽が違うから、すべて自分に染み込んでいるんだと思います」
――過去に様々な経験をしているだけでなく、今も写真家としての活動もしていらっしゃいますし、「表現方法の多彩さ」は有安さんの人生に欠かせない要素ということですね。お話を聞けば聞くほど、有安さんの音楽は有安さんの持つ性質と直結しているなと感じます。
「ああ、そうかも(笑)。すべての経験が大事で、かけがえのないものなんですよね。自然といろんな曲を作りたくなるし、ライブをやるうえでもバリエーションが多いほうが楽しいなと思ってます。曲によっていろんな歌い方ができるようにもなりたいし、『この曲も有安杏果なの!?』と驚かれるくらい表現の振れ幅は大きくしたいですね」
聴いていて心地好くて、だけど伝わるものがある――昔の自分だったらそういう伝え方はできなかった
――「いろんな楽器に挑戦するのもすべては歌のため」とおっしゃっていましたもんね。今有安さんはどんな歌を歌いたいと思っているのでしょう?「えっ、何だろう……! 曲ごとに『こういうふうに歌いたいな』というイメージはあるんですけど、『どんな歌を歌いたい』かあ……。あんまり考えたことがないかもしれない。でもちゃんと歌から気持ちが伝わるものにはしたくて、そのためにも感情だけで歌うのではなく、コントロールが必要だなと思うようになりました。昔なら“Runaway”も巻き舌を使いまくってエネルギッシュに歌っていたかもしれない。でも少し年齢も重ねて、気持ちをそのまま伝えたい自分と、冷静に伝えたい自分、両方がいる感覚があります。冷静なほうが伝わることもあると思うんです」
――そうですね。
「より伝えるためにも、感情のコントロールは必要なのかもしれないな、と感じることはよくあります。弾き語りをしていると自然とそのコントロールができて、それもヒントになっていますね。聴いていて心地好くて、だけど伝わるものがある――昔の自分だったらそういう伝え方はできなかったと思う。そういう伝え方をできるようになってきたのかな……とは感じていますね」
――11月にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催される「サクライブ」のリベンジ公演でも、そういう有安さんの歌が体感できるかもしれないですね。都のガイドラインに則った有観客ライブで、配信もあるとのことですが。
「お客さんの人数によって自分の伝え方が変わるわけではないですけど、こういう事態になって初めてのライブなので、お客さんが全員マスクをつけていて、声も出せないってどういう感じだろう……といろいろ想像してみるんですけど、実際にステージに立ってみないとわからないなと思っています。あと、ライブを配信することが初めてなんです、ソロライブではライブビューイングを打診されたときは断っていたので。今回『配信でどこまで伝えられるんだろう?』という不安は、やっぱりちょっとあって」
――となると今回の配信は大きな決断でもあったんですね。なぜそれに踏み込めたのでしょう?
「リベンジ公演をできる場所が東京だけ、というのが大きかったですね。長距離移動が普段よりも難しい時期であるとはいえ、自分が地方に住んでいたら落ち込むだろうなと思うんです。みんなで作り上げた『サクライブ 2020』を、どうやったら地方の人に届けられるんだろう? と考えたら、配信しかなかった。約1年ぶりのライブですし、春公演が中止になってしまったぶん、みなさんもきっと楽しみにしてくださっていると思うので……できなかったぶんの想いまでぶつけられたらなと思います。今年リリースした4曲もしっかり届けたいですね」
――では最後に、2020年も残すところあと4ヶ月弱ですが、どのように過ごそうとお考えでしょうか?
「本当なら今年たくさんライブをやる予定だったけれど、この『サクライブ 2020』が今年最初で最後のライブになると思うので……今年の有安杏果をみんなの記憶に残してもらえるような歌を歌いたいとすごく思っています。今も曲作りはしているので、気持ちよく年越しできるようにすべて年末までに完成させたいな(笑)。この先も楽しみにしていただけたらうれしいです」