2021年11月24日、MAN WITH A MISSIONの約3年半ぶりのオリジナルアルバム『Break and Cross the Walls I』がついにリリースされた。来年春に予定されている次作との2連作の1作目にあたるこのアルバムでは、彼らをここまで走らせてきたロックへの憧憬とコロナ禍によって新たな壁に直面したこの時代に向けたメッセージが熱く交錯している。今までになくストレートなテーマ性と、それでいて今まで以上にバリエーションに富んだ楽曲群――バラードから彼らの一流デジタルロック、フォーキーでパーソナルな楽曲からロックレジェンドのカバー曲まで――は、MAN WITH A MISSIONがロックバンドとしていかに「ど真ん中」にいるかということ、そしてこの困難な時代にあって、ロックのパワーとエネルギーはやはり必要不可欠なのだということを改めて教えてくれる。このアルバムが生まれた背景、そしてそこに込めたものを、ジャン・ケン・ジョニー(G・Vo・Raps)に聞いた。なお、ジャン・ケンの発言は編集部で日本語訳してお届けします。
インタビュー=小川智宏 撮影=石黒淳二
置カレタ状況ニ対スルフラストレーションヤ不安感ガダイレクトニ反映サレテイル
――『Break and Cross the Walls I』は、ざっくりいうと今まででいちばんメッセージ性の強いアルバムになったんじゃないかなと思いました。「そうですね。収録されてる曲のほとんどが、いわゆるこのコロナ禍が始まったころから制作したものでもありますので、その置かれた状況に対するフラストレーションだったり不安感だったりというものが結構ダイレクトに反映されてきたのかなと。自分自身はどちらかというと、あんまりそういうものには影響受けたくないなと思っている側ではあるんですけれども、とはいえやっぱり色濃く表れている。それがメッセージ性の強さに直結してるのかなとは思います」
――アルバムタイトルがまさにメッセージになっているわけですけど、このタイトルはいつの時点で付けられたんですか?
「だいぶあとですね。これは楽曲の途中の一節でもありまして。そのコンセプト――やっぱりこのご時世なので、強い言葉というか、『指針になるようなアルバムタイトルにしたい』みたいなことをカミカゼ(・ボーイ/B・Cho)が言っていて。歌詞の一節にちょうどこれがあったので、非常にわかりやすい言葉でもあり、強い意味も込められるので、いいんじゃないかということでまとまっていったタイトルですね。最初、僕が『これでいいんじゃないですか』って言ったところ、カミカゼが『もうちょっと考えたい』と言いまして。それでいろいろとアイディアを出したりしたんですけど、結果、これに戻りました(笑)」
――素晴らしいタイトルだと思います。アルバム曲として着手していったのはどの辺が早かったんですか?
「新録が“yoake”と“Thunderstruck”のカバー、“クラクション・マーク”、“Subliminal”、“ Anonymous”という曲なんですけれども、いちばん早かったのがたぶん“Anonymous”だったと思います。あと“yoake”も早かったですね。この曲は、それこそこのアルバムのコンセプト――このご時世に前を向いて、新しい時代に向けて推進力を持って進んでいくというようなコンセプトを踏襲した楽曲で。確実にこのアルバムに入れるという思いで書きました」
―― “yoake”は『Break and Cross the Walls I』というアルバムのテーマを総括するような曲ですね。
「そうですね。期せずしてそういう楽曲になりましたね、本当に。自分の中では、歌詞にもちりばめてますけども、僕自身が抱いている人類の科学史の発展と、そこに垣間見える、自分たちに対する期待感だったり希望だったり……あとは今現在もそうですけれども、科学が発展してきてちょっとやり尽くした感もありつつ、自分たちはどこに向かってるんだろう?みたいな。期せずして本当にこのアルバムのコンセプトをそのままに……実際に僕らは共通の壁にぶち当たってるわけですけども、それを乗り越えていく予感を感じさせるような楽曲に仕上がりました」
我々、ミナサマトハ見テクレガ違ウノデ、ドウイウ生キ方ヲシテキタンダッテイウ背景ガ見エナイジャナイデスカ
――一方で“Anonymous”という曲は明らかに他の13曲とはちょっと毛色が違う手触りを持っている曲で。「これはアルバムに収録するというよりは、こういう色の楽曲をやりたいなという思いで作りましたね。デジタルの融合というものを突き詰めつつ、でもものすごくアコースティックな楽曲を作った時にどういったものになるのかなっていう。その途中でこんなアイディアもいいんじゃないかなと思って作った楽曲ですね」
――この曲は歌詞が素晴らしいですね。
「非常に個人的なことを書こうかなと思って書きました。自分たちもずっとバンド活動、音楽活動している中で、ありがたいことに、スポットライトを浴びさせていただく側に立っているつもりではいますけれども、実際には自分たちの歴史だったり、人生を彩っているのって、どちらかというとそういう光が当たってない側の話だったりするわけで。どちらかというとそこにスポットライトを当ててほしくて、ずっと抗ってるっていう部分もあったりもするんです。そこって、言葉を選ばずに言うとほとんどの人は見てくれないんですけど、そこにいちばんのドラマがあるんだよってことを、ちょっとキツめな言い方で……『わかってほしい』というのはちょっと強すぎるかもしれないですけれども、少なくとも自分で再確認っていうか、ずっとそこは外さずにいたいなという思いで作った楽曲であります」
――「Anonymous」って、「匿名の」とか「無名の」っていう意味で、実際《名もなき僕らが》って歌ってますし、《懐かしいデモが安い音で鳴る》みたいな描写もありますけど、そういう本当にひとりの風景ってのがいきなり出てくるっていうところに驚かされて。こういうことを歌った曲がアルバムの最後にあることがとても大事だと思ったんですよね。
「そうですね。僕はたぶん、どの楽曲を書いてる時も、根底にあるのはこういう気持ちだったりもするので。もちろん万人に受け入れてほしいと思ってますし、いろいろな方々に聴いてほしいと思ってますけれども、その中で、反骨心ではないですけど、実際に起こっていること――たぶん、みなさまが一度も目にしてないところに本当の美しさがあるんだよっていう。自分が音楽に触れて以来ずっと、そこだけは変えられてなるものかと思いながらやってますので、それを恥ずかしいぐらい青臭い言葉で楽曲として残させていただいたっていう感じですね。正直、我々のバンドは、このオオカミたちは今までどういう生き方をしてきたんだろう?っていう背景がやっぱり見えないじゃないですか。我々、みなさまとは見てくれが違いますので。だから作品を残す時にはそこの皮をガッツリめくってまた隠すような作業っていうのはすごく心がけてますね。このMAN WITH A MISSIONというバンドは、それによってよりみなさんの心に届く音楽になるんじゃないかなと」
――それでいうと、この曲はかなりめくってますよね。
「カサブタごと、みたいな(笑)。そういう、本人がちょっと痛いって思うぐらいのものがいいんじゃないかなっていうのはありますね」