Nothing’s Carved In Stone、最新作『ANSWER』全曲インタビュー! 生形真一&日向秀和が語る、4人のアンサンブルが今なおアップデートされ続ける理由

もっと開けた感じの音にしたかったんです。サビのメロディがすごくよかったので、これをもう少し開くのにはどうしたらいいんだろうって(日向)

――NCISのソリッドでシャープな音作りの中にも、今作にはやわらかさとかあたたかさも感じられて。スケールの大きなロックサウンドと歌で、素晴らしいアルバムができあがったと思います。どんな変化があったんでしょうか。

日向 シンプルに生々しさを表現できるようになったというか。それがいちばんでかいかなと思うんですけどね。今までは、そういう臨場感みたいなものを出そうとしてもなかなか叶わなくて。それが今はどんどん、アレンジ含めて、新しいエンジニアさんとうまく表現できるようになってきています。

生形 最近はひなっち(日向)がデモを持ってくることが増えてきて、曲を俺とふたりでアレンジして作り込んでいくっていうやり方が多くなっているんだけど。

日向 そのデモの段階で、アレンジが結構ガチガチに決まってるんですよ。それを元に、オニィ(大喜多崇規/Dr)や拓ちゃん(村松拓/Vo・G)が他のプレイを試してみるとか、さらに細かくするとかではなく、みんな「そのままの形のものを、どうやったらいちばんいいバンドサウンドで表現できるだろう」っていう感じで、共通認識を持っていた感覚でした。

――2021年は、まず1月1日に、今作のラストにも収録されている“Bloom in the Rain”が告知なしのサプライズでリリースされました。

生形 去年から、曲をとにかく作ってたんです。今回のアルバム曲は、できた時期が結構バラバラで、“Bloom in the Rain”は最初のほうにできていた曲。パッケージにして出すとどうしても時間がかかるので、作った曲をちょっとずつ出していきたいなというのはありました。配信だと、完成した2週間後にはリリースできるんですよね。俺らも新鮮なうちに出せるから、コンスタントに出すようにしてましたね。

――“Bloon in the Rain”の2ヶ月後には“Wonderer”が配信されて、確かにペースが早かったですよね。

生形 うん。このちょっと前くらいから、ひなっちがデモを持ってくることが増えて、そこからふたりでアレンジしていくっていう。“Wonderer”はまさにそういう曲で。

――ストリングスを効果的に入れるアイデアも、日向さんから?

日向 ストリングスアレンジについては、マニピュレーターさんというか、プログラマーさんがいて。なんでも打ち込みで入れてくれるので、「こんな感じでストリングスのアレンジお願いできます?」って頼みました。

――とてもスケール感のある、あたたかみを感じる楽曲になりましたよね。

生形 マニピュレーターも入れて、結局3人でずっとやりとりをしていたんだよね。リズムを打ち込んでもらったり。だから今回“Wonderer”もそうだし、アルバムの曲はほとんどそうやって作りました。“Bloom in the Rain”だけかな、普通に作っていったのは。今までは4人でプリプロして、ある程度できたあとでマニピュレーターに渡す、っていうやり方だったんだけど、今回はひなっちとふたりで作るところへマニピュレーターに入ってもらって。

――9月に配信リリースされた“Beautiful Life”もそうやって作っていったんですね。ギターサウンドのエフェクトが面白くて、全体の音像としてはすごく歪んでいるのにとても開けているというか、オープンな感じの楽曲になっているのが興味深いです。これはまずどちらがデモを?

生形 これは俺です。作った時からすごくポップな曲になるなって思ってたんですよ。だからちょっとギターの音は面白くしようかなっていうのは考えていました。でも、これは当初とアレンジはだいぶ変えましたよ。最初はもっと普通なロックっぽい感じで。録る1週間くらい前になって、ひなっちが変えてきたんだよね。最初はもっとこう、ゴリゴリしたロックで、4つ打ちっぽい曲で。

日向 もっと開けた感じの音にしたかったんです。サビのメロディがすごくよかったので、これをもう少し開くのにはどうしたらいいんだろうって思ったら、もうちょっとテンポ感は速くして、でもタイム感は遅くっていうか。

生形 ノリはでかくね。

日向 そう。実は80年代のハードロックを聴きながら作っているんですよ、これ。

NCISって、攻めたアレンジのものが好きな人が多いイメージがあるんですよ。でもそんなことでもないんだなって(生形)

――でも言われてみれば、“Beautiful Life”の音色のオープンな感じとかは確かにそうですね!

日向 80年代のヘヴィメタルの感じとか。モトリー・クルーとかも聴いてましたから(笑)。

生形 そこに、サウンド的に今の要素を入れて作っていきました。

――これ、リリース後はリスナーにもちょっと驚きをもって迎えられた曲だったと思うんですけど。

生形 そうですね。ここまでポップな曲もなかったから。でも思ったよりメンバーみんな、こういうの好きなんだなって思いました。NCISってやっぱり、攻めたアレンジのものが好きっていう人が多いイメージがあるんですよ。でもそんなことでもないんだなって。

――アルバムでは、その“Beautiful Life”のあとに“Walk”という曲が入っていて。この曲にもポジティブでオープンなバイブスを感じます。この曲も生形さんが?

生形 いや、これはひなっちから出てきました。

――面白いですね。ふたりがそれぞれ持ってくる楽曲が、どんどんオープンでやわらかいものになっているという。そうやってモードが合致する場面は多くなっていますか?

生形 やっぱり、もう12年もやってるんで(笑)。それは俺らふたりに限らず、4人の意思の合致というか、通ずるものがあるというか。

――“Walk”の歌詞はどなたが?

生形 歌詞は俺が書きました。やっぱり根本的に俺は聴く音楽もポジティブな歌詞が好きなんで。元気が出るっていうか、力になる、エネルギーになる曲が好きで。それは昔から一貫してるかもしれないです。

今までのNCISのアレンジは「仕掛けていく」っていうメンタルだった。それを包み込むようなものに変えていってる(日向)

――ふたりから出てくる楽曲が、よりポジティブな響きを持つものになったというのは、やはりコロナ禍での状況もあってのことなんでしょうか。

生形 その状況もあるんでしょうけど、NCISはやっぱりもともとポジティブなんですよ、4人全員が。

日向 ライブ終わりに拓が「くよくよするなよ!」って言う、ああいう感じ(笑)。みんな前つんのめり型なんだよね(笑)。

生形 昔はリズムもつんのめり気味だったもんね。

日向 もうほんとに。徒競走だよね(笑)。

――確かに前のめりなイメージはありましたよね。前へ前へという。だから今のこのやわらかさを携えたサウンドが新鮮でもあって。1曲目の“Deeper,Deeper”も、ヘヴィでNCISらしいギターサウンドなんですけど、どこか有機的というか、ベースを含めたグルーヴが非常に強くなっているように感じられました。

日向 なんでだろうね。やってることはそんなに変わってないんだけど。でもなんか、とんがった部分が取れたっていうのは感覚的にありますね。「仕掛けていく」っていうメンタルだったじゃないですか、今までのNCISのアレンジは。それをこう、包み込むようなものに変えていってるんじゃないかなと思います。今までは道なき道をいくアレンジという方向性が、自分としてもピンときてたものだったんだけど、それをまったく意識しなくなっちゃったっていうか。曲に対して、別に自分の音が聴こえてこなくてもいいんじゃない?みたいな。

――それは、NCISとしてみんなで一緒にやってきた経験の積み重ねによる変化?

日向 そうですね。なんかもう兄弟喧嘩はしなくなっちゃった、みたいな(笑)。

生形 年齢もね、あるかもしれない。別に俺ら、そこに抗うつもりはまったくないんだけど。自分たちが大人になれば音も変化していくんだろうし、そこであえて、「まだまだ俺たちは若いんだぜ」ってやるつもりは一切ないから。もちろんそういうモードの時もありますけどね。今回は攻めてやろうとか。

――そういうモードの曲が、『ANSWER』の中にもありますしね。“Recall”なんかは、すごくスリリングに攻めたアンサンブルだと思うし。これはどのようにできあがったんですか?

生形 これは俺が持っていった曲で、ひなっちとふたりで合わせてっていうパターンですね。

――バンドサウンドは緻密だし、歌の強さがしっかり伝わる楽曲で。

生形 そうですね。このあたりはわりと、今までのNCISのポップな曲というイメージかもしれない。

――前までは、それぞれのプレイヤーが仕掛けて仕掛けて、他にないもの、オリジナリティに溢れるものを追求する気持ちが強かったと思うんですよね。でも今はバンドの在り方も変化していて、バンドサウンドの心地好さが、激しい曲からもポップな曲からも、すべてに感じられるのが面白いなと思います。“No Turning Back”もそう。ギターサウンドとしてはすごくソリッドでヘヴィなんだけど、耳には心地好くて。

生形 サウンドに関しても、やっぱりあまり刺々しくはなっていないんですよね。ひなっちがさっき言ったみたいに、角が取れているっていうか。

――日向さんのベースの音の入れ方として、変化している部分もありますよね。

日向 今作はかなり狙っています。自分の持つ本来の音とかではなく、楽曲にあったベースの音っていうのを演じています。

――演じている、というのは面白いですね。

日向 たとえば“Recall”なんかも、これはロックの曲なんですけど、あえて僕は70年代くらいのR&Bのサンプリングみたいな音を出していたりとか。あえて「演じて」ますね。

――プレイヤーとしての「俺の音!」っていう感じじゃなくて、楽曲が求める音を追求している感じですね。

日向 そうなんですよ。NCISでは一切やってなかったんですよね、そういう音作りは。ストレイテナーではそういうことをやっていて、それが完全にNCISでもできるようになった。それはたぶん、すごい進化だと思います。同時に肩の荷がすごく下りたような気がしていて。もうやりたいことは全部やったから、あとはそっちにシフトしていくだけ、みたいな。だからどんどん楽曲がシンプルになっても心地好い音になる。今はそういう状況だと思います。

――生形さんもそういうモードだったりします?

生形 俺もわりとそうですかね。まあ、これまでほんとにいろいろやってきたからね(笑)。

――そのバンドの変化が、このアルバムにバランスよく落とし込まれているように思います。“Flame”とかには、村松さんの歌が、よりエモでビビッドに響く変化も感じられますし。

日向 これはまず僕が、拓が歌うのを想像して作りましたね。この曲はでも、すごい大変だったんですよ。歌詞を含めてフィックスさせるのが。

生形 これは拓が詞を書いたんだけど。最後までやってたもんね。

日向 すごく達成感がある曲でした。

――強い歌声からガツンとくる、NCISにありそうでなかったキャッチーさを持つ楽曲です。

日向 うん。なんか「裸の拓がいきなりくる!」みたいな曲を想像して書いて。だから最初はアカペラで入って。

――悲しみや悩みの果てに、それでも前を向いて歩いていくという歌が強く耳に飛び込んできます。日向さんの中でもそういうイメージで書き進めた曲でした?

日向 そうですね。これはほんと、みんなに元気を出してもらいたいなって思う曲でした。拓にも、「シンプルに『元気出しソング』みたいなのを作りたい」っていうことを言って。

――それを真正面から曲にしてしまえる強さや迷いのなさが、今のNCISにあるんだなと思います。

日向 それによって僕らも救われるっていうか、元気が出てくるじゃないですか。モチベーションってやっぱりそういうところからだと思うし。みんなが楽しくライブで盛り上がっている姿を思い浮かべながら書いていくんで。

ブルースとか古い音楽を演ってる人たちのこともかっこいいと思ってたし、今も思うけど、NCISはそういうバンドではないんだろうな(生形)

――“Impermanence”はどうですか? このダークなロックサウンドにも、ぐいぐい引き込まれるような強いグルーヴ感がありますよね。

生形 これはひなっちが持ってきた曲。だいぶ最初のほうにできた曲だよね。だからか、この曲には今までのNCISらしい感じもある。オケ録ってから歌入れまでに結構期間が空いたから、改めて聴いた時に「この曲すごいアレンジしてるなあ」と思いました。後半とか。

――どんどん不思議なグルーヴが生まれていく曲ですよね。生形さんの言うとおりで、とてもNCISっぽい曲なんですけど、リズムのアップデート感もすごく感じました。

日向 今は曲のテンポとすごい戦っているところがあって、速い曲を作りたいんだけど、その速いところまで達することがなかなかできないんですよ。ミドルのほうに寄っていっちゃう。だからあえて、ほんとに速い曲を作ろうって、意識した曲なんじゃないかなと。そのうえで、どれだけメロがポップになるかっていう、そのせめぎ合いを突き詰めていったという感じです。

生形 この曲がいちばんやりたい放題やってるかな。NCISの中にあるものを全部出すっていう感覚はありました。

日向 シタール(北インド発祥の弦楽器)とかもね。

生形 そうそう。たまたまスタジオにシタールがあって。

――シタールは思いつきで入れたものだったんですか?

生形 そう。4人でアレンジしてる時にたまたま見つけて。

――へえ、面白い。だから緻密な感じもありつつ、めちゃめちゃ有機的というか、ダークだけどすごくオーガニックな空気もあって、不思議な曲だなあと。

生形 うん。

日向 NCISはどんどんこっちのモードに入っていってる感はありますね。

――そして“We’re Still Dreaming”はこのアルバムの中でも異彩を放つ曲で、この曲もアルバムのひとつの重要なアクセントだと思います。これはどういうふうに作っていったんですか?

生形 これは拓ちゃんの曲だね。アコギの弾き語りで持ってきて、それをみんなでアレンジして。

――アコースティックギターとエレキギターの重なりが、異質なもの同士の美しい融合や二面性を感じさせて、それが歌詞の内容にもリンクしていて。

生形 弾き語りでデモがきたから、逆に俺たちは(デモを)好きに崩すっていうか。だから他の曲とは違うテイストのアレンジになりますよね。

――なるほど。美しいアウトロの余韻から、アルバムラストのソリッドな“Bloom in the Rain”に続く流れがとてもエモーショナルでした。『ANSWER』は、NCISのスリルも成熟も感じさせる素晴らしいアルバムで、これだけ長く活動を続けていても、まだまだバンドサウンドの進化は止まらないという可能性も見せてくれる作品だと思います。そういうことは、バンドとして意識していますか?

生形 俺が個人的に思っていることなんですけど、NCISっていうバンドは、メンバーみんなもちろん歳はとっていくんだけど、サウンドとか曲の在り方としては、常に時代の先頭でいたいと思っているんですよね。若い頃に、ブルースとか古い音楽を演ってる人たちのこともかっこいいと思ってたし、今も思うけど、そういうバンドはそういうバンドでありつつ、NCISはそうではないんだろうなと。今回はそんなNCISのアルバムができたかなと思っています。

――新しいものを求めて、そこに踏み込むことを恐れない、厭わないという姿勢こそがNCISの強さだなと思います。

日向 たとえば、U2っていつも新しいじゃないですか。ああいうところ、すごい好きなんですよね。常に新しいアレンジを入れちゃうっていうのが、すごいかっこいい。

生形 ここまできたら「続けていく」っていうことにもすごく意味があるだろうし。さっき言ったように、古いバンドにはなりたくないというのはありますね。そこかな。あとはまあ、これからも前向きでポジティブな音楽が作れればいいなと思っています。


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“Deeper,Deeper”


11th Album『ANSWER』

発売中

・初回限定盤(CD+DVD)
DDCZ-9071(SSRA-2007)/ 3,500円(税別)

・通常盤(CD)
DDCZ-9072(SSRA-2008)/ 2,800円(税別)

<CD>
1. Deeper,Deeper
2. Recall
3. Flame
4. No Turning Back
5. Beautiful Life
6. Walk
7. Impermanence
8. Wonderer
9. We’re Still Dreaming
10. Bloom in the Rain

<DVD>『Studio Live "Futures"』 ※初回盤のみ
1. November 15th
2. Isolation
3. 白昼
4. NEW HORIZON
5. Honor is Gone
6. Words That Bind Us
7. Rendaman
8. 青の雫
9. Shimmer Song
10. Pride
11. In Future
12. Spirit Inspiration
13. Out of Control
14. Like a Shooting Star
15. きらめきの花
16. Dream in the Dark
17. BLUE SHADOW

Nothing’s Carved In Stone「ANSWER TOUR 2021-22」

・2021年
12月6日(月) 大阪 なんばHatch
12月27日(月) 東京 渋谷WWW X

・2022年
1月8日(土) 宮城 仙台Rensa
1月10日(月) 北海道 札幌PENNY LANE 24
1月15日(土) 広島 広島CLUB QUATTRO
1月16日(日) 福岡 福岡DRUM LOGOS
1月21日(金) 石川 金沢EIGHT HALL
1月28日(金) 愛知 名古屋DIAMOND HALL
1月30日(日) 香川 高松festhalle
2月25日(金) 東京 豊洲PIT

チケット:5,500円(税込)
※ドリンク代別途必要
※指定席公演以外は整理番号あり

<学割>
・学生の方は会場にて学生証提示で1,500円キャッシュバック
・高校生以下の方は2,000円キャッシュバック

提供:Silver Sun Records
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部