かつては16歳以下のエレキギター世界大会「Young Guitarist of the Year 2019」で優勝した経歴も持つくらい、聴く者すべてを虜にする卓越したギターテクニックを有する森 大翔。ロック的なギタースタイルの素養も滲ませつつ、彼の夢想しているのはむしろ、ロックだのポップだのという枠組みすら置き去りにした、ギターと歌と音楽で未知の魔法を生み出すエンターテイナーの在り方なのだろう。以下のインタビューからは、現在20歳の森 大翔の進化への希求がリアルに伝わってくることと思う。
インタビュー=高橋智樹
──今回の“アイライ”についての話を聞く前に、アルバム『69 Jewel Beetle』以降のことを振り返っておきたいんですけども。アルバムのリリース直後、昨年6月にShibuya eggmanで行われた初ワンマンライブは、森さんにとってどんな体験でした?今の若い世代でいちばんいっぱいギターが弾けて歌も書けるぞ、っていうのを前面に押し出していかないといけないな、っていう気持ちが芽生え始めてきたんです
もう……忘れましたね(笑)。それくらい、その後の自分の中の変化が目まぐるしすぎて。あれから半年くらいしか経ってないんですけど、3年──は盛りすぎかもしれないけど、それくらい経った気がするほど、「アーティストとしてどうなっていこうか」をいろいろ考えていたので。その後に1stツアー(「Mountain & Forest」)もやりましたし、今振り返っても……その頃のことを忘れてるんです。でも、いちばん最初にステージに出た時のお客さんの温度と光は鮮明に覚えていて。ステージに立って、光と熱を感じたっていう感動的な体験は、たぶん一生忘れないだろうなと思います。
──それぐらいの加速感の真っただ中にあったっていうことですね。近いところで言うと、11月の渋谷WWW公演はどうでした?
今、次のツアーに向けて脱皮をしている最中で、前のライブがどうだったかはあまり思い出せなくて。「いや、もっとできる」「まだやらないといけないな」っていう気持ちがいちばん強くて。もちろん、お客さんの反応はとても嬉しいものではあったんですけど、当時を振り返るというよりは、「もっとこうしないといけない」っていう気持ちになっています。
──“ラララさよなら永遠に”“雪の銀河”は一見対照的な楽曲ですけど、どちらも「ポップミュージックの中にギターという楽器をどう活かしていくか」という視点がより定まった楽曲だと感じました。
“ラララさよなら永遠に”をリリースしたあたりから、「俺はギターヒーローになりたい」と思うようになっていって。自分が、今の若い世代でいちばんいっぱい弾けて歌も書けるぞ、っていうのを前面に押し出していかないといけないな、と。「歌も歌って、ギターもめちゃめちゃ弾き倒すギタリストになりたいな」っていう気持ちが、このあたりから芽生え始めてきて。ギターは自分のアイデンティティでもありますし、それこそギターを始める前からギターに対して抱いていた「ああ、かっこいいな」っていう最初の感動をどんどん広めていきたい。ギターを知らない人も「いいな」って思えるギターを弾きたいなと思っています。だからこそ、キャッチーかつメロディアスな、ギターの美味しいところをちゃんと出す曲を作ろうという意識が自然に出てきたような気がしますね。
──さらに、今回の“アイライ”という楽曲は、「森 大翔の楽曲をどういうふうに時代の中で響かせていくか」という、ある種のプロデューサー目線のようなものが光っている曲だと思うんですよね。街を歩くスピード感にも寄り添ってくれつつ、ポップミュージックとしての眩しさも見せてくれつつ──ギターソロは16小節あるし、間奏が終わって歌が始まっても弾き終わらないという。無敵になりたいですね。ハイパー男、ハイパーミュージックマンになりたいんですよ。むしろ「ならないといけない」って、日々思ってます
確かに。(パンニングで)右に行って左に行ってっていう(笑)。でも、アルバムを出してから、「さらにいろんな人に開いた音楽を作りたい」っていう思いは一貫しています。その開いた音楽に対する自分の言葉選びは、まだ模索している途中なんですけど。“アイライ”は自分にも語りかけている曲で、自分がかけてほしい言葉みたいなものを書いていて──それはいろんな人に語りかけているということでもある、そういう普遍性を言葉において意識していました。
──「表現者として何を歌っていくか」という面でも、とてもハイパーに開かれた曲で。森さんがどれだけの加速度の中で生きてきたのか、“アイライ”はそれが一発で伝わる楽曲だと思いますね。
最初の頃は自分の内側の話が多かったんですけど。自分が何を歌っていかなきゃいけないんだろうか、さっき目標として挙げた「ギターヒーロー」としてどんなメッセージをこめていかないといけないのかというのは日々考えていて。それはアルバムを経て、だんだん鮮明になってきて。だから「自分にも、他の人にもかけていい言葉」っていうところに行き着いた。“アイライ”は、そのスタート地点となる曲です。今までトンネルの中にいたのが、“アイライ”あたりから「来るぞ!」って開いてくる予感がしています。
──ビートとの相性がどんどんよくなってる感覚もありますよね。
“アイライ”のあともいろいろ曲を作ってるんですけど、ビートがかっちりある曲で。そういう変化はありますね。とにかく、自分を見せていく曲を作りたいんですけど、その「見せる」っていう動きのある姿勢とビートの相性がとてもいいんだと思います。
──ギターが弾けて、メロディが作れて、ビートとの親和性も高まったら、もう無敵の境地ですよ。
無敵になりたいですね。ハイパー男、ハイパーミュージックマンになりたいんですよ。むしろ「ならないといけない」って、日々思ってます。
──いいですね、ハイパーミュージックマン。そうなることによって、何か実現したいことがある?
やっぱり、ハイパーミュージックマンの音楽は、人々に何か特別で豊かなものを与えられると思っていて──僕が実際、それを与えられたひとりだったように。もちろんメッセージもですけど、まず音楽自体がもたらす、プレミアムで特別で豊かな魔法を──“アイライ”の歌詞にある《連鎖》じゃないですけど、その先にある笑顔、ハッピーにつなげていけたらと思っています。