──肉体的な3ピースのアンサンブルへのこだわりを見ても、制約を持つことを大切にされている印象もあるんですけど、どうでしょうか。人間の不完全さ、そのランダム性を描いて、たくさん作品が増えていくと、それを遠くから見た時に秩序のようなものが見えるのかな
そうですね、ルールみたいなものがあったほうが、より秩序が生まれるかなと思っています。あるルールのうえで行われているという、そこにある統一性みたいなものがすごく好きです。なんでもできるとなると、逆に難しいなと思っちゃう。制約されているからこその楽しさは感じています。
──何がきっかけで秩序立ったものの楽しさや美しさを見出したんですか?
漠然とですけど、パズルゲームとかが好きなんですよね。ルービックキューブとか知恵の輪も好きだったし。理系脳なんだと思うんですよ。父親もそっち系の仕事をしているし。整っているもの、幾何学的なものが好きなんだろうなと思います。ランダムにその時したいことをするというよりは、1本筋が通っていて、その上で何かをする方が自分の性に合うなと思う。
──ただ、人間ってものすごく歪な存在だったりもしますよね。なかなかパズルゲームや、あるいは自然のようにはいかない。そういう人間の不完全さにもナカシマさんは向き合っている感じがします。それはさっきの「渇き」の話にも通じるのかもしれないですけど。
確かに、確かに。そこにあるコントラストが面白いのかもしれないですよね。人間って、単体にフォーカスするとランダムなものだけど、離れた場所から見てみると、めちゃくちゃ秩序立ってひとつの法則で動いている存在なのかもしれないと思うんです。そのランダムさすらも、秩序のうえでやっているっていう。だからこそ人間の不完全さを描くのかもしれない。そのランダム性をどんどんと描いて、たくさん作品が増えていくと、それを遠くから見た時に秩序のようなものが見えるのかな、という感じがします。
──新曲“五つ目の季節”はどのようなイメージから生まれた曲ですか?
「もうあの頃には戻れない」という感覚ってすごく悲しいと思うんですけど、そういうことを感じながら作った曲ですね。「年取ったなぁ」と思うんですよね、最近。若い子を見ていると「あの頃に戻れないな」と思う。「戻りてぇ」とも思うし「でも、どうやっても戻れないのか」とも思う。これって人類、というか生物共通の感覚だと思うんですけど。そういう感覚を自分が歌にしたらどうなるのか、という感じで曲にしました。なので“五つ目の季節”っていうのは、春夏秋冬があってさらに先にある五つ目の季節というよりは「かつて一度通ったけど、あれって五つ目の季節だったんだ」という感覚ですね。でも、今はもう季節は四つしかなくて、これからも四つしかないんだろうなっていう。
強欲なんだと思う。勝手に自分の人生を俯瞰して、もう終わったところまで見て『これは手に入らないんだろうな』という喪失感まで勝手に味わっちゃっている
──何かを思い出したり、記憶を見つめる感覚って、この曲に限らずナカシマさんが作る曲に出てきますよね。
それは、おいしくるメロンパンのひとつのテーマだと思っています。忘れていくことの悲しみにどう向き合うか。それを「悲しい」と歌う歌があったり、「いいじゃん」と歌う歌があったり、それは登場人物によって表現の仕方が違うけど、大きなテーマとして核にあるものだと思う。
──季節のモチーフも頻出しますよね。
季節って、どんどん過ぎ去っていく感覚があるので。季節は喪失感の象徴だったりするのかなと思います。
──喪失感は重要な感覚ですか?
そうですね。人生って、どうにもならないことがすごく多いなと思うんです。そういうものと、どう向き合うか。季節も「どうにもならないもの」だと思うんです。無条件で降り注いで、勝手に去っていく。そういうものとの向き合い方を表現しているのかもしれない。
──“五つ目の季節”の歌詞の中に《最低な言葉》というフレーズが出てきますけど、《言葉》もナカシマさんが綴る歌詞によく出てきますよね。
《言葉》もどうにもならないもののひとつだと思うんです。“斜陽”という曲に《言葉なんてものは/落としたキャンディさ》という歌詞があるんですけど、自分の口から吐いた時には形が変わっちゃっているというか。人は自分が生きてきた感覚のフィルターを通して言葉を認識するじゃないですか。そのフィルターが違っちゃっていたら、同じ言葉でも違うふうに受け止められてしまうし、そう思うと、自分が思っていることを完全に言葉にして伝えることは絶対にできない。言葉を介してコミュニケーションを取らなければいけない以上、そのズレが人と人との間には絶対にある。そのもどかしさはずっと感じていますね。
──ナカシマさんは何故「どうにもならないもの」を見つめるのだと思いますか?
なんだろう……。理想の世界みたいなものが自分の中にあって、それと現実が乖離しているからかな。きっと理想の世界を持たない人のほうが多いんじゃないかと思うけど、僕の中には「こうであってほしい」とか「こうであるべきだ」という世界があって、だからこそ「じゃあ、なんで現実はこうじゃないんだろう?」と思う……そういうところから来るものなのかな。わからないですけど。
──喪失感も「何かを得たい」と思うからこそ感じるのかもしれないですね。
強欲なんだと思うんです。手に入れたいものがいっぱいあって、でも人生は短いし、その中で得られるものってすごく少ない。勝手に自分の人生を俯瞰して、もう終わったところまで見て「これは手に入らないんだろうな」という喪失感まで勝手に味わっちゃっている。そんな感じなんだと思います。
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