インタビュー=小池宏和
──まず、このタイミングに5曲収録のEPを発表することになった意図と経緯から教えてください。曲調はいつもと違うけど、いつものFAKE TYPE.の音を使って作っているので、そこに新しさが生まれたんじゃないかな(DYES IWASAKI)
トップハムハット狂 そもそも、エレクトロスウィングじゃない曲を軸に据えてEPとして出そう、というきっかけで動き始めたんですけど、“Cats are dangerous”という曲ができたのが3月くらいだよね? これを主軸にすればEPとして成り立つよね、という形になりました。
DYES IWASAKI 面白い作品ができたなという自負は、たぶんお互いにあると思います。
トップハムハット狂 “Cats are dangerous”ができた時に、「あ、これだな」という手応えを感じました。エレスイ(エレクトロスウィング)ではないけど、FAKE TYPE.らしい楽曲に仕上がっているというか。
DYES IWASAKI 曲調はいつもと違うけど、いつものFAKE TYPE.の音を使って作っているので、そこに新しさが生まれたんじゃないかなと思います。
──タイトル曲でもある“Cats are dangerous”は、DYESさんきっかけで生まれた曲ですか? トラックがすごく面白いと思って。
DYES IWASAKI ありがとうございます。ギタリストのJohngarabushi(じょんがら武士)さんがうちに来て、僕と共作したんですけど、とにかくコミカルな曲にしよう、というのがありました。
──ああ、ブギーっぽいニュアンスがあるのは、ギターのおかげだったりするのかな。
DYES IWASAKI そうですね。ジョンさん(Johngarabushi)がそういうの得意なので、ジョンさんの良さを引き出しながら作っていく最中に、ちょっと声ネタを入れたいなという欲望が出てきて。ちょうどその時、僕が猫ミームにハマっていまして、悪ふざけで猫ミームの「はあ?」っていう声を入れてみたら、もうこれしか考えられないと思いました(笑)。
──(笑)。じゃあ、猫というテーマもDYESさん発信だったんですね。
DYES IWASAKI そうです。でも声ネタのサンプリングはそのまま使えなかったので、自分たちで録り直してAOに渡したら、こういうリリックが返ってきたという経緯ですね。
──ブギーっぽさとエンヤトットのリズムが融合した、面白いミクスチャー感覚のトラックになりましたね。
DYES IWASAKI はい。ハネた、盆踊りみたいなリズムでやりたいなという気持ちがずっとあったので、それでキャッチーな曲を、と心がけて作りました。
──AOさんは、猫というテーマを受け取ってからのリリック制作やラップに関して、どうでしたか。
トップハムハット狂 もう猫ミームの音が入っちゃってたんで(笑)、そこを拾わないわけにはいかないっていうのと、あとはまだ制作途中なんですけど、この曲のMVを作ってくれている映像制作チームのPPPが、獣を描きたいって言ってたんです。獣が映えるようなテーマだとこの曲しかないので、絶対に猫をメインにリリックを書こうと決めていました。猫ミームに関して言うと、世界的にはもともとあったものが少し遅れて日本で流行るというのがあって。そこを最初にピンと思いついたので、猫にまつわる普遍的なものを纏め上げながら、こういう形になりました。
──《やはり流行りは猫のように気分屋で掴めないにゃぁぁぁ》っていう落とし所ですよね。トラックのユニークさと、リリックの毒っ気が混ざり合って、面白い曲になっています。
トップハムハット狂 楽しくふざけられましたね。曲調が曲調なので、ちょっとした悪ふざけをしたほうがFAKE TYPE.っぽいかなと思いました。
DYES IWASAKI エレクトロスウィングじゃない作品を作ろうというコンセプトではあったんですけど、2曲目の“Zillion playerZ feat. nqrse”だけは依頼があって制作したので、この1曲だけ入れる形になったんです。
自分もnqrseちゃんも、DYESも元はネットラップという小さな畑に居た人間なので。形は違うけどおのおの音楽活動を続けてここまでやってきたから、ネットラップというカルチャーが確かにあったということは忘れないようにしたいな、と(トップハムハット狂)
──“Zillion playerZ feat. nqrse”は、アクションRPG『ゼンレスゾーンゼロ』のイメージソングとして先行リリースもされていて、お馴染みnqrseさんとのコラボ曲ですよね。
トップハムハット狂 オファーを頂いた段階でコラボレーションを含めた話だったんですけど、まあ僕らとしても、nqrseちゃんとやるのは嬉しいんで、ありがたい話ではありましたね。
──これは前にもお話ししたことあるんですが、AOさんとnqrseさんの声のコントラスト、バランスがめちゃめちゃいいなって、やっぱり今回も思いました。
トップハムハット狂 自分も思いました。
DYES IWASAKI 僕も思います(笑)。
トップハムハット狂 nqrseちゃんの声が低くてしっかりしているので、ああいう声の人ってなかなかいらっしゃらないと思うんですよ。自分の声がちょっと高めなので、ちょうどいいバランスになるかなって。
──AOさんのハイテンションな声も映える組み合わせなんですよね。リリックはゲームになぞらえた内容になっていますけど、《俺等のカルチャー “Zero”にさせないぜ》というラインに込めた思いはどうですか。
トップハムハット狂 『ゼンゼロ』というゲームのカルチャーが流行ってほしいという思いと同時に、自分もnqrseちゃんも、DYESも元はネットラップというめちゃめちゃ小さな畑に居た人間なので、そこに居た人間が、形は違うけどおのおの音楽活動を続けてここまでやってきたから、ネットラップというカルチャーが確かにあったということは忘れないようにしたいな、という意味合いを込めました。
──うん、そのラインに熱を感じたんですよね。
DYES IWASAKI めっちゃいいラインだよ。キャッチーだし。
──3曲目に配置された“Apple juice”は、トラックはパワフルなんだけどリリックが内省的でエモいんですよ。これはAOさんに訊いてみたいところなんですけど。
トップハムハット狂 ついさっき気づいたんですけど、《自称ミュージシャン 卒業済み》とか《なんちゃってヲタク 卒業済み》とか、自分が卒業したもののことを言ってるんだなって。たとえば逮捕された時に、ミュージシャンとして報道されるか自称ミュージシャンとして報道されるかの違いは、確定申告しているか否かということらしいんですよ(笑)。自分はもう確定申告している人間なので、《自称ミュージシャン》ではないですよっていう。
──ビルボードライブでFAKE TYPE.の10周年ライブも行われましたけど、長いキャリアを潜り抜けてきたAOさんが見えてくるリリックなんですよね。そういう味わい深さがあるなって。
DYES IWASAKI なるほど。卒業してないと書けないリリックだもんね。
──そういうことなんですよ。卒業したということは、その渦中にいたことがあるってことじゃないですか。決して軽くはないリリックですよね。《甘い甘いジュースと知恵の搾りカス》というラインも、潜り抜けてきた時間を感じさせます。そういう意味では、なんとなく10周年ともリンクしているのかな。
トップハムハット狂 そうですね。なんか、めちゃくちゃちゃんと聴いていただけて嬉しい。
DYES IWASAKI ね、解像度がね。
──DYESさんは、この曲についてどうですか。
DYES IWASAKI この曲もJohngarabushiさんと作っていて、2016年の8月とかにできた曲なんですよ。めちゃめちゃ古い曲で。ただ、すごく気に入っていたので、どこかで使いたいなと思いながら寝かせていたんですが、それを最近ブラッシュアップして、音数とかも調整しました。他にも昔作った曲のストックがいっぱいあって、出すタイミングを見計らっているんですけど。