【インタビュー】FAKE TYPE.の音楽性が極限まで解放された新作『Cats are dangerous EP』──結成10周年の果てで描き出す新たな可能性とは?

【インタビュー】FAKE TYPE.の音楽性が極限まで解放された新作『Cats are dangerous EP』──結成10周年の果てで描き出す新たな可能性とは?

昔の曲には昔の良さが残っているわけじゃないですか。それを今の気分で合流させて、今風に昇華させるといいんじゃないかなって(DYES IWASAKI)

鰻のタレみたいな。古いものに新しいものを継ぎ足して(トップハムハット狂)

──DYESさんは、楽曲制作が超ハイペースだからストックもいっぱいあるんだろうし、それこそ「激動の2024年」の動画には入っていませんでしたけど、ふたりで楽曲提供したりとか、ソロアルバム『D.I. SWING』もリリースしたじゃないですか。

DYES IWASAKI うん。新しい曲と昔のテイストの曲を織り交ぜて作品を作りたい、という気持ちが毎回あって。昔の曲には昔の良さが残っているわけじゃないですか。それを今の気分で合流させて、今風に昇華させるといいんじゃないかなって。

トップハムハット狂 鰻のタレみたいな。古いものに新しいものを継ぎ足して。


──なるほど、なるほど。新しいものだけだと、違和感が出ちゃったりもするしね。次の“No more work feat. Sarah L-ee, Fuma no KTR”ですが、個人的に今作の中でいちばん好きなんです。

トップハムハット狂・DYES IWASAKI ええーっ!!

──ゴリゴリにヒップホップで、エレクトロスウィングから最もかけ離れているじゃないですか。DYESさんはヒップホップだとこういうドープなトラックを作るよねっていう、DYESさん臭が半端ないです。

DYES IWASAKI 嬉しいですね。サンプリングとかで作った曲なので、だいぶヒップホップみが出てるかなと思います。実はこれも古い曲で、2017年の2月ごろに作ったのを、ちょっとだけアレンジしました。もともと、何人かのラッパーが集まった曲にしたいなって想定していたんですよ。それをAOと共有した時に、じゃあ誰を呼ぶかっていう話になって、Sarah L-eeちゃんは僕が昔から交流があったんですよ。もう10年くらいかな。いつか呼びたいなって、こういうドープなトラックでバチバチにラップした時にめちゃくちゃかっこよくて、好きだったんです。

トップハムハット狂 コタロー(Fuma no KTR)くんは、かなり現場(ライブ/クラブシーン)寄りの人なんですけど、昔から僕らの作品を聴いてくれていて。最近だともう、住んでいる所が近所になっちゃって、たまに遊びに来たりしている時に、ちょっとこういうのがあるんだけど、よかったら参加してくれない? ってお願いして、このメンツになりました。なかなかないメンツですよね。

DYES IWASAKI 曲としてめっちゃハマった、いいのができたなって思いますね。

──リリックのテーマを共有するにあたっては、どうでしたか。

トップハムハット狂 みんなの仕事に対する考え方についてなんですけど、単純に僕がヴァースとサビだけ作って、タイトルも初めから“No more work”で。おのおの自由に咀嚼して、解釈してやってくださいみたいな。それを汲み取る力もラッパー力だと思うんですよ。そうしたら、みんなオリジナルの汲み取り方をしてくれたんで、素晴らしい方々なんだなって思いましたね。

DYES IWASAKI 曲だけでやりとりするっていうのは、素晴らしいことだよね。その人の個性がより出ると思う。切り込みたい角度とかも変わってくるだろうし。

トップハムハット狂 そうそう、うん。

──エレクトロスウィングから最もかけ離れた曲なんだけど、エレクトロスウィングの看板を掲げて走り続けてきた中での今回のEPだから、なんかこう、ガス抜き感が気持ちいい曲だと思ったんですよ。

トップハムハット狂 ああー。自分もこの曲を書く時、結構息抜き感覚で書いていました。

DYES IWASAKI エレクトロスウィングだと、どうしてもこう、お互いに縛りプレイになっちゃうところがあって。だから“No more work”みたいな曲をやると、ルールからの解放感があるんです。だいぶ作りやすいよね。

トップハムハット狂 ちょっとだけ表現の幅が広がるんだよね。

──まさにそういうEPなんだと思います。そして最後は“文 -2024-”という曲なんですけど、これこそ鰻のタレの極みみたいな曲じゃないですか。

DYES IWASAKI 確かに。極みですねえ。

──オリジナルバージョンの“文”(2010年)は、AOさんのソロ曲で、FAKE TYPE.を結成するよりも前の話ですよね。

トップハムハット狂 そうなんです。DYESと初めて作った曲で、なおかつ、ふたりの音楽性の相性がめちゃくちゃいいんだなってことに気づいた、きっかけの曲ですね。

変わってくるが故に、これが正常なんじゃないかなと思うんです。根本にあるものは変わらないけど、ちょっとずつ向きが変わってゆくことは正常なんじゃないかなって(トップハムハット狂)

──FAKE TYPE.を結成してからは続編的な位置付けの“文通”という曲も発表しましたが、今回なぜ、新たに“文”をリワークして届けようと思ったんですか。

トップハムハット狂 ちょうど今、結成10周年の最中で、FAKE TYPE.のルーツにもなっている曲だと思ったので、10年前に結成した時の自分たちに向けた今の思いを手紙にして送る、みたいなコンセプトで作りたいなと思ったんです。トラック制作もまんま“文”でいいよってお願いして、そしたらDYESが“文”の雰囲気を残しつつ今の感じのトラックを作ってくれて。こういうのを曲として残しておくと、後々歳をとった時に、「ああ、この年にこんな曲を作ってこんな思いがあったんだな」ということを思い出す材料になるかなって。ちょっと未来のことを考えて作りましたね。あとは、10年前から追ってくれているファンの人も、こういう曲があると嬉しいかなって。

DYES IWASAKI エモいよねえ。10周年で振り返りたい気持ちもあったんだろうね、きっと。

トップハムハット狂 あったあった。あと、歌詞の中に《思えば奪い取ったビートから芽生えた》っていうのがあるんですけど……。

DYES IWASAKI んフフフ!(笑)

トップハムハット狂 もともとDYESは、“文”になる前のトラックを別の人のために作っていたんですよ。でも、俺がそのトラックを聴いて、めちゃくちゃいいやんって、奪い取ったんです。本当は駄目なんですけど。そうしたら、本来トラックを受け取る予定だった人からディスられちゃって、でも負けじとディスり返して(笑)。そういうことがあったからこそ、FAKE TYPE.に繋がってくれたんです。

DYES IWASAKI 若さ(笑)。若気の至り。

──そういう、歴史の味わい深さも出ちゃった曲だと。今回のEPは、エレクトロスウィングで走り続けるいつものFAKE TYPE.とは違う変化球で、それこそ10周年の節目もあり、FAKE TYPE.とはどういうグループなのかということを見つめ直している感じがしたんですよ。

トップハムハット狂 でも、活動するにつれて、見えてくるものが変わってくるじゃないですか。

DYES IWASAKI うんうん。変わるよね。

トップハムハット狂 変わってくるが故に、これが正常なんじゃないかなと思うんです。根本にあるものは変わらないけど、ちょっとずつ向きが変わってゆくことは正常なんじゃないかなって僕は思っていて。エレスイじゃない音楽をやりたい気持ちはずっと持っていて、今回はそれをひとつ解消したということなんじゃないかなと思うし、もちろん今後もエレスイをバチバチにやっていきたい気持ちはあるので。

DYES IWASAKI 僕も同じで、ずっと寿司だけ食べているとつらいじゃないですか。今回のEPはガリかな、と思って(笑)。いくら好きなラーメンでもさ、毎日は食えないじゃない。FAKE TYPE.は、最初の作品から、エレクトロスウィング一辺倒のアーティストにはなりたくないねって話をしていたので。まあエレクトロスウィングはやり続けたいんですけど、いろんなテイストの曲を入れて可能性を示しておこう、というふうにやっていました。それで今回は、エレクトロスウィングじゃない作品を楽しく作れましたし。

──これを作ったことによって、またエレクトロスウィングのど真ん中に帰ってくるモチベーションも湧いてくるんだよね。

DYES IWASAKI そうですね。時間を空けることによって、また新しい要素を取り入れながら、新しいエレクトロスウィングが作れると思います。

──“Cats are dangerous”はまさに、FAKE TYPE.らしい表現の可能性を押し広げた曲だと思うし、次に繋がる曲ですよね。今後の、音楽的な部分での目標や課題はどうですか。

トップハムハット狂 エレスイと他の音楽要素を掛け合わせることは、続けていったほうがいいと思います。あとは、もうちょっとスマートに歌詞を書けるようになりたいなって思います。こういう泥臭い、自虐的だったり皮肉っぽかったりする歌詞も好きなんですけど、そうじゃない歌詞も書けるようになりたい。引き出しという感じでいいんですけど、そうすることでもっと曲を作るのが楽しくなるんじゃないかなって。

──なるほど。それを聞けてよかったし、楽しみです。DYESさんはどうですか。

DYES IWASAKI 僕は楽曲制作の時期によって、決めているルールが違うんですよ。それをそろそろバージョンアップしようかなというところで。新しいエレクトロスウィングの作り方ができるように、今は模索している段階です。それこそ、これまでエレクトロスウィングと掛け合わせていなかった他のジャンルを取り入れるようにしたりとか、研究は続けていますね。エレクトロスウィングはもっと幅広いことができるんだぞということを、見せていきたいです。それと、さっき言った変わらない味も入れながら、バランスよく作っていきたいと思いますね。

──FAKE TYPE.はもともとMVの人気が大きかったんだけど、最近は海外ライブの機会が増えたり、フェス出演があったり、リアルなお客さんとの関わりや熱狂の規模が追いついてきたと思うんです。今後はさらにその傾向が強まると思うんだけど、それについてはどうですか。

トップハムハット狂 JAPAN JAM 2024に出演した時、あれが初めての大型フェスだったんですけど、出る前はフェスのお客さんの熱量というものがわからなかったんですよ。こっちは気合を入れて、ライブやったるわ、という気持ちで出ていったんですけど、お客さんはそれ以上に応えてくれるような反応だったんです。とんでもなかったんですよ。楽しむ気満々の人がいっぱいいて。だから、自分たち主催のライブだけじゃなくて、対バンとかフェスとかに出られる機会があるなら、積極的に出ていけばもっともっとリアルで観てくれる人が増えるんじゃないかって、今年は思いました。

──今回はふたりが健康的に活動していくうえで、『Cats are dangerous EP』のような作品が必要だったという話をちゃんとできたので、よかったと思います。

DYES IWASAKI うん。またエレクトロスウィングもちゃんとやるんで、安心してください。今回はガリなんで。

──鰻のタレとか寿司のガリとか、それが見出しになっちゃうけど(笑)。

トップハムハット狂 ガリはちょっとなー。食いしん坊じゃねえかこいつら、みたいな(笑)。

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