⑦“うらがわの存在”
『映画 ギヴン』時間軸の真冬と立夏の物語を描くOAD『ギヴン うらがわの存在』。その主題歌である“うらがわの存在”には、“冬のはなし”のようなひりつく痛みや、“夜が明ける”のような切実な祈りといった、思わず息を止めてしまう危うさや緊迫感はない。それどころか、《僕らはまるっきり違う》《だからその全てわかってあげられない》と互いに別個体であることを理解したうえで、《違うから支え合える》と包み込むような優しい声で歌うのだ。付き合い始めたばかりで、言葉が足りず、すれ違うこともある真冬と立夏だけれど、その度にちゃんと向き合おうとするふたりにぴったりな楽曲であり、ギヴンが新たなフェーズへと向かったことがわかる楽曲。
⑧“ストレイト”
真冬と由紀の幼馴染であり、かつて由紀と共にバンドを組んでいた鹿島柊と八木玄純。バンド「syh」としてコンテストで優勝し、高校生にしてプロデビューを射止めた曲がこの“ストレイト”だ。《貫け いまこの声よ》とパワフルにまっすぐ歌い上げる柊の声は心地よく、音楽に関してはシビアな目線を持つ立夏にも「華がある」と言わせるのもわかる。見る人を引き込む天性の魅力を持つ柊と、柊に献身的に尽くす玄純の抜群の相性に加え、『映画 ギヴン 柊mix』ではsyhのギターにサポートとして立夏が参加している。2分17秒と短いながらも聴き応え十分のロックチューンで、コンテスト優勝曲であることにも納得感と説得力を持たせる一曲だ。
⑨“パレイド”
syhのメジャーデビュー曲“パレイド”。インディーズ時代の“ストレイト”に比べ、より開けたポップネスを感じる楽曲だが、《ねぇ 腐ってる正義 かざして》や《見たくもないゴミん中 手を入れたら》といった綺麗だけじゃない言葉には確かにロックを感じる。自身の作る曲を「ジャンクフードみたい」という柊だが、《支度をしといで/待っているよ》からサビへの《ほら ついておいでよ》に向かうメロディラインの気持ち良さは、劇場で聴いても格別だった。『ギヴン』の劇中で唯一MV撮影風景が描かれる楽曲でもあり、スタジオやライブ以外のバンド活動が見られるのも嬉しい(ちなみにMV撮影では、サポートギターの立夏が本当に「ちょっと」しか映らないのも制作のこだわりが見えて面白いところ)。
⑩“スーパーウルトラ I LOVE YOU”
『映画 ギヴン 柊mix』の主題歌であるこの曲は、その名のとおりスーパーウルトラ愛まみれのラブソングなわけだが、ここにきて《もう なんだっていいや/僕は君のこと多分 凄く とても愛してる》なんてど直球すぎる歌詞がこんなにもしっくりきてしまうなんて! 「多分」「凄く」「とても」なんて文法的にはめちゃくちゃなのに、そのめちゃくちゃ具合が「スーパーウルトラ」さをさらに際立たせているし、このメロディにこの歌詞以外はありえないと思わせる。無償の愛だとか、見返りは求めないだとか、相手への愛の大きさを伝えようとする言葉は探せばもっとあるのだろうけれど、それさえも《もう なんだっていいや》なんだと納得してしまう。だって、《僕は君のこと以外なら全部捨ててゆける》から。syhは絶対歌わなそうなこの曲を、あえて『柊mix』の主題歌として持ってきたセンチミリメンタルの作品&キャラクター理解にもあっぱれ。
⑪“海へ”
『映画 ギヴン 海へ』で披露された、syhの新曲“海へ”。由紀が生前に作りかけていたものを、サポートギターとして入った立夏が完成させ、柊が歌う曲だ。
“冬のはなし”は真冬の鼻歌から生まれた曲だったが、かつて同じ鼻歌を由紀も曲にしようとしていた。それがこの“海へ”ということで、どんな曲になるのだろうと思っていたら、まさか“冬のはなし”でサビだった鼻歌のメロディを“海へ”ではBメロに持ってくるとは……! センチミリメンタルがXで語ったところによれば、「真冬に“歌わせたかった"立夏はサビに、そのまま使っていて、真冬に“プレゼントしたかった"由紀はBメロに、ほんの少しアレンジしてサプライズ的に入れている」のだという。真冬への想いがあまりにも立夏らしく、あまりにも由紀らしくて、こんなにも愛に溢れた歌があるだろうかと思った。
立夏が完成させなければ生まれることはなかった、由紀から真冬への贈り物。その想いを背負い、ふたりの、さらには柊と玄純のためにも“海へ”を完成させた立夏の愛の深さに、ただただ胸を打たれる。柊のボーカルをより立体的に響かせる立夏のコーラスも素晴らしく、真冬の心を動かした音楽として、これ以上はないと思える一曲。
⑫“結言”
人が人を忘れるとき、最初に失うのは声なのだと、どこかで聞いたことがある。《ねぇ、忘れないでね。》で始まり、同じ歌詞とメロディラインをリフレインするこの歌を聴いたとき、ふとそんなことを思い出した。
『ギヴン』という物語は、最後まで誰の過去も美化しなかった。起きた出来事はなかったことにはならないし、取り返しのつかないことは取り返しのつかないまま。それは変えようのない事実で、だからこそ真冬の心の穴が完全に塞がることもないのだろう。だけど立夏はそれを知った上でこの先も隣に居るのだろうし、真冬も過去を、薄れていく由紀をまるごと受け入れて生きていくのだと思う。
《この歌を忘れなければ/ぼくらずっと一緒だから》。“結言”=「ゆいごん」と読むこの曲は、その名のとおり逝ってしまった由紀から真冬への遺言であり、そして由紀と真冬、さらに立夏を結び続ける言葉でもあるのだと思った。シリーズのラストを飾るのにこれほどふさわしい楽曲はないが、なんとこの楽曲も『ギヴン』への書き下ろしではなく、もともとセンチミリメンタルのストックにあった曲なのだという。それなのにここまで作品に寄り添う楽曲となったことに、『ギヴン』とセンチミリメンタルの運命を感じざるをえない。
痛みも喪失も傷跡も、全部歌にする──『映画 ギヴン 海へ』公開を機に振り返る、『ギヴン』×センチミリメンタルの運命的12曲
2024.10.18 19:00