──『FARMAGIA』も、テーマ性の部分では最終的にダークな深淵も描きつつ、真島ヒロさんのファンタジックな絵柄のおかげで、TVアニメとしてのバランスが取れている部分もあって。そういう構造はまさに、そこに鳴るが体現している音楽のバランス感ともシンクロしているような気がしていたんですけど──って、前回の取材に引き続き、僕が長々と語る展開になっていてすみません。心の軋轢はたぶん日常茶飯事すぎて、それがベーシックなので。意図的にそうしているとかではなく、結果的にそうならざるを得ない(鈴木)
鈴木 いや、全然言語化できてると思うので(笑)。まあ、いつも通りと言えばいつも通りではあるんですけど。爽やかと言いながら、何をもって爽やかとしてるのかは、いまいち言語化できない部分はあるんですけど。「そういうつもりで作った」ぐらいでしかないんですよね。コード進行もいつも通りなら、音もいつも通りなので。ただ、音作りをする過程で、そういうところを意識しつつではありましたね。マインドみたいなところなのかな?
──平穏な日々の平穏な音楽ではなくて、危機に瀕した心の軋轢に迫るような音楽をノイズの洪水ではなくてポップなメロディも持った楽曲として鳴らしてきたのが、そこに鳴るの表現だと思うんです。そういうバンドにとって、世界観と共鳴しながら音楽を作っていく作業って、実はとても相性がいい気がするんですよね。
鈴木 向いてると思います。原作があって作る曲のほうが──よく作れるというか。おっしゃっていただいた、心の軋轢とかなんとかっていうのはたぶん日常茶飯事すぎて、それがベーシックなので。意図的にそうしているとかではなく、結果的にそうならざるを得ないんですよね。だからこそ、何もないところから作るより、そういう作品が前提にあるほうが作りやすいのかなって思いますね。
──『FARMAGIA』の世界観も、身も蓋もなく言ってしまえばフィクションなんですけど、この世界観と響き合っているそこに鳴るの音楽はフィクションではないわけですよね。だからこそ、聴いてる側にとってもシンクロするような感覚が生まれるし。
鈴木 それ、堤さんも言ってたなあ。「原作のことを歌ってるんですけど、この歌詞って鈴木さんのことですよね?」って言ってはって。「ああ、一緒のこと言うてはる」って思いました。
──そしてもう1曲、同じく『FARMAGIA』の挿入歌として、アニメ中のどこかで登場する“恵まれた悲劇を”を提供していますね。制限は大事やなって思ってて。バンドっていう形態も、89秒っていうのも、制限の幅のひとつというか。高地トレーニングみたいなもので(鈴木)
鈴木 もともと「このシーンで。挿入歌という形で使われます」ということをうかがっていたので、そこをイメージしつつ生まれた曲ですね。オープニングとかエンディングは、そのアニメの顔になるかもしれないわけで、そこに鳴るというバンドに「求められているもの」をちゃんと作らないといけないという前提があるんですけど。それと同時に、「どれだけ外せるか」っていうのもあって。“miss-dystopia”も外してはいるんですけど、挿入歌ということもあって、その外し具合を大きくしたいなと思って。挿入歌でドラムがドコドコドコドコっていうのも違うかなと。なので、新しいアプローチをしてみようと思って作りましたね。
斎藤 メロがめちゃくちゃいいですよね。特に、大サビに行く時がめっちゃいいなって。歌詞もすごく好きで。挿入歌も僕、すごく鈴木さんっぽいなって思って。アニメのために書いてはると思うんですけど、鈴木さんの人生──と言っていいんでしょうかね? それはすごく感じてて。僕からは出てこない言葉がたくさんちりばめられてて、すごいなあと思いました(笑)。
藤原 世間一般的に思われるそこに鳴るからは一見外れてるんですけど、情報の渋滞の感じとか、浮遊感とか、要所要所がそこに鳴るらしいなって思って。そこに鳴るらしいけど、押しつけがましくないというか。そこが面白いなと。メロディも曲展開も好きですね。
──内容も尺も含め、タイアップって一見すると制限が多いように思うんですけど、それを舞台として新しいスケール感を見せていけるという、そこに鳴るの独特の在り方を物語っている2曲ですね。
鈴木 制限は大事やなって思っていて。言うたら、バンドっていう形態も制限やし、基本この3人でやらなければいけないっていうのも制限やし。タイアップっていうのも、89秒っていうのも、制限の幅のひとつというか。それはもしかしたら、高地トレーニングみたいなもので──。
──「酸素少ねえ!」みたいな?
鈴木 そうそう(笑)、いいのかもしれないですね。
──最後に、2025年の展望は?
藤原 2015年に初めてCDをリリースしてから、2025年で10周年になるんです。CDデビュー10周年に絡めて、面白いことをいっぱいしていきたいなと思ってます。ライブも、ライブ以外の活動も、精力的にやっていきたいですね。YouTubeももっと充実させたいし。2024年の12月から2ヶ月に一度「全曲ワンマン」っていう、「今までリリースした全曲演奏します」っていうライブを半年間かけてやっているんですけど。今までやってきたことを振り返って、次のステップにつなげられるように──っていう感じで、上半期は頑張ろうかなっていう感じですね。
斎藤 下半期も、面白いことを考えてる最中です。着々と動いております!