【インタビュー】エクストリームで複雑で美メロな音像の果てに描く「僕らの真実」。そこに鳴るの最新アルバム『開眼証明』越しにその核心に迫る!

【インタビュー】エクストリームで複雑で美メロな音像の果てに描く「僕らの真実」。そこに鳴るの最新アルバム『開眼証明』越しにその核心に迫る!
そこに鳴るというバンドの音楽はなぜ、エクストリームな激しさと、複雑な曲展開、美しく切ないポップなメロディにあふれているのか。そして、凄絶なイメージや感情の軋轢を綴った世界観が、紛れもない「僕らの真実」の風景を立ち昇らせてくるのはなぜか──。それらの問いのすべてにバンド自ら答えを出したのが、約4年ぶりとなる2ndフルアルバム『開眼証明』だ。

鈴木重厚&藤原美咲+サポートドラマーの時期を経て、ドラマー・斎藤翔斗との3ピースでさらにスリリングな加速感を描き出している、そこに鳴る。自身初のアニメ作品オープニングテーマとなった“相聞詩”をはじめ、4月から3ヶ月連続配信リリースされた“in birth”、“Endless me”、“拝啓、黎明を知って”など、アルバム収録曲全9曲のどの瞬間からも、3人の極限進化ぶりがリアルに伝わってくる。『開眼証明』を巡るメンバー全員インタビューを通して、唯一無二のバンドの核心に今こそ改めて迫ってみることにした。

インタビュー=高橋智樹


前作の頃までは、「そこに鳴ると言えば」的な感じに寄せていかないとあかんかな?みたいな。このアルバムでは、今の自分のありのままがドシッと出せてる(斎藤)

──“相聞詩”がTVアニメ『魔女と野獣』のオープニングテーマに起用されたことは、「そこに鳴るの音楽を極めること」と「2020年代の『今』の音を鳴らすこと」が一致していることを示す、重要なファクターだったと思っています。オファーをもらったときはどんなことを思いましたか?

鈴木重厚(G・Vo) もともと「タイアップのお話があるよ」という話は前から聞いてたんですけど、あっては消え、あっては消え……ということが結構あったので。期待せずに、半分くらいは「なくなるやろな」という気持ちでおったんで。「決まりました」っていう連絡が来たときは「本当かな?」っていうのが最初でしたね。それと同時に、すごく嬉しかったです。そこに鳴る自体、アニメのタイアップのフォーマットに合うだろうという感覚はバンドを始めた頃から持っていたので。

藤原美咲(B・Vo) 活動を始めて、全国流通盤を出すか出さないかくらいの頃からずっと「アニソンっぽいよね」って言われてきて、そのたびに「でも、アニメ決まったことないんですよー」って答えていて(笑)。自分たちとしても、アニメのタイアップを受けてみたい、一緒に作品を作ってみたいっていうのはずっと思っていたんです。最初、社長の古閑裕さんからグループLINEに「タイアップ決まりました。おめでとうございます(クラッカーの絵文字)」みたいなメッセージがポンっと飛んできて、「ほんまに!?」って半信半疑で。放送されたアニメを実際に観たときに──自分たちの曲に合わせてキャラクターが動いているのを目の当たりにして、すごく感慨深かったですね。

斎藤翔斗(Dr・Vo) 僕はシンプルに「やった!」っていう気持ちがいちばんでかくて。僕が加入してから、いろんなことがありつつ、やっとタイアップみたいなこともあって、右肩上がりな状況は感じていたから、嬉しい気持ちはありましたね。


──『開眼証明』は、フルアルバムとしては約4年ぶりですが、2022年のミニアルバム『啓蒙して、尋常に』もリリースしてますし、コロナ禍の中でもツアーを回ったり、7週連続CDリリース企画『7 ultimate materials』を実施したりとアグレッシブに活動を続けてきたわけで。そういう4年間を経て、バンドの決定盤となり得るアルバムが出るのはとてもいい形だと思いますね。改めて、完成したアルバムについて今思うことは?

鈴木 翔斗が入って──というか関わってくれ始めてからだいぶ経つんですけど。僕は結構、ドラムを聴いて曲を作るというか、バンドサウンドの楽曲の根幹はドラムやと思ってるんで。ドラマーが実際に叩いてるのを一緒にスタジオで見てると、無意識なんですけど、ドラマーの影響を受けるんですよね。たぶん、翔斗のドラムをずっと聴いてきて、そのうえで作った曲が並んだという感じですね。だから、2018年〜19年の曲とは趣が違う感じになっていて。あと、翔斗が歌えるっていうのもあって、3人で歌ってるっていうことも、僕がイメージする「そこに鳴るでやりたいこと」がギュッと濃縮されたみたいな感覚はありますね。『啓蒙して、尋常に』は、まだ翔斗が入りたての頃に録ってるから、翔斗が馴染んでから出す1枚目みたいなところはあります。ここ3〜4年ぐらいの中の、僕の「そこに鳴るの一個の完成形」のようなイメージですね。

藤原 前回のフルアルバム『超越』は「フルアルバム出せるぞー、わーい!」の感じが強いというか、フルアルバムのための曲が多いかなという印象があって。でも今回は、今のモードのそこに鳴るの曲が集まってできたアルバムで。名刺になる1枚というか、ナチュラルなそこに鳴るのフルアルバム──自分たちの魅力がそのまま伝わる、いい1枚だなと思いますね。

斎藤 『啓蒙〜』くらいまでは結構、“掌で踊る”みたいな「そこに鳴ると言えば……」的な感じに、あとから入ったなりに寄せていかないとあかんかな?みたいな感覚は少なからず持っていて。フレージングとかも、わりと無茶してる感じが多かったりするんですけど。今回のフルアルバムは、全曲「ドラムス:斎藤翔斗」みたいな。今の自分のありのままが、ドシッと出せてるんじゃないかなと思ってます。

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僕はJ-POPをしたいんです。J-POPをしたいのにこうなってしまってるのも変やなって自分でも思うところはあるんですけど、それが逆によかったりするのかなって(鈴木)

──さっきも「バンドサウンドの根幹はドラム」という話もありましたけど、そういう面で鈴木さんから期待を寄せられているのは感じます?

斎藤 めっちゃ感じますね(笑)。今、鈴木さんが作ってきてくれるデモと昔のデモとで、たぶん全然ドラムが違うかなって思います。前はもっとガチャンガチャンしてたと思うんですけど、今はハイハットとか、すごく繊細な打ち込みをしてくれてるし。

──デモの段階でかなり細かく構築されてるんですか?

斎藤 そうですね。デモの段階でたぶん……98%ぐらい?

鈴木 ほぼ「できあがりですよ」くらいまで作り上げて、それをふたりのプレイと音に置き換えるくらいのイメージでやってますね。作り込んだほうが絶対伝わるというか……余白を残しちゃうと、「え、どっちかな? こっちかな?」みたいなのが録るときにも出て、余計に迷っちゃうので。そういう部分は、どうせ録るときに「もっとこうして」って言うことになるから(笑)。

藤原 ベースのフレーズは、ほんまにデモから99%変えてないんですけど。完成したデモをもらって、聴き始めて、曲について理解を深めたとしても、作曲者がいちばんよくわかってるじゃないですか。だから、作曲者の意図のままに曲を完成させたいというか。何より、完成形があるからわかりやすいですよね。私はただ「ベーシスト的感性」を乗せるだけっていうか。

斎藤 僕、さっき「98%」って言ったんですけど、そこの2%の余白の部分で、デモを覚えてくるときに「ここはもしかしたらこのフレーズのほうがかっこいいんじゃないか」、または「ここは物理的にでけへんな」っていうときは、自分でアレンジして、レコーディングのときにやってみて、OKか否かを聞きながらやってます。

──「でけへんな」っていうフレーズもあったりするんですか?

斎藤 「ちょ、ちょっと人間の手じゃ間に合わへんな」みたいなのはあります(笑)。それか、「ここはちょっと手数を足したほうがかっこええんちゃうかな」っていうときに、フレーズを持っていって判断してもらうみたいなことが最近は多いですね。

──鈴木さんひとりで楽曲も、アレンジの98%も作れるし、世の中的にはソロでもボカロでも全然発信が可能なんですけど。それでもバンド編成、バンドサウンドという形でメンバー全員が一丸となってある極点を目指していく、しかも3ピースという形態でやるというエクストリームな切迫感が、そこに鳴るの音楽の大きなエネルギーになっていると思うし。今回の『開眼証明』は、そういう意味でもそこに鳴るの現時点での究極形になっている気がするんですよね。

鈴木 その通りだと思います。

──そもそも、鈴木さんがバンドという形態を選んだ理由は?

鈴木 たぶん、合奏が好きだったんですよ。小学校のとき、リコーダーとかやるじゃないですか。練習時間とか、結構みんなおしゃべりしたりしてるんですけど、僕は普通に楽しくて、めっちゃリコーダー吹いてたんです。最後、みんなで曲をユニゾンで吹くのをめちゃくちゃ楽しんでたんで。それが行きすぎた結果、こうなってるんやろうなって(笑)。合奏をおもろくし続けた結果が、たぶんこうなってるんやと思います。

──ユニゾンの合奏から、だいぶエクストリームな形に行き着きましたね。

鈴木 デモを作って、メロディを入れて、頭に浮かんだビートを入れて、コードを入れて……でも、その時点ではまだ微妙やなって思うから、いろいろこねくり回したら、こうなるんですよね。何が正解かはわからないんですけど、「今が間違ってるな」みたいなところだけはわかるので。「もう何も間違ってないな」まで頑張って持っていくんですけど……ってしてるうちにこうなっていくんです。ミックスとかに関しても一緒で、「なんか違うな」を「何も違わないな」に持っていこうとしたらこうなってしまうっていう。感性っていうか、価値観っていうか、僕の中での「いい楽曲」の定義に落ち着くんですよね。僕はJ-POPをしたいんです。J-POPをしたいのにこうなってしまってるのも変やなって自分でも思うところはあるんですけど、それが逆によかったりするのかなって。

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