メンバー4人がそれぞれ「帝国喫茶で表現すべきもの」に向き合い、そこで描かれた12曲の物語は帝国喫茶というバンド自体の物語であり、ひとりの人間として誰もが感じ取る「光」の物語でもある。それは「生活」の中にある光への気づきであったり、他者との関係性の中で生まれる光の話だ。昨年7月からの3ヶ月連続楽曲リリースに端を発し、彼らの描く物語はよりビビッドに聴き手に届くものとなった。この重要作をバンドは今どう捉えているのか。メンバー4人に語ってもらった。
インタビュー=杉浦美恵
──昔から定説として、バンドのアルバムは1枚目は衝動に満ちた勢いのある作品が多くて、2ndは音楽性の広がる充実作、そして3rdアルバムではバンドの本質がはっきりと見えて評価が定まる──ということがよく言われたりしますが、帝国喫茶の3rdアルバムはまさしく、バンドとして伝えたいことの本質がしっかりと表れた作品になったのではないかと思います。自分は理想を追い求めすぎるがゆえにそれが叶わないと動けなくなってしまうこともあって。だから“なんとなく”には自分も救われた感覚がありましたね(杉浦)
疋田耀(B) いろいろ模索してきた中で、今回の3rdアルバムは「到達点だ」と思えるアルバムになりました。現時点での到達点でもあるし、1stや2ndも含め、これまで出してきた音がすべて聴こえてくるような集大成的な作品がこの『ストーリー・オブ・マイ・ライト』かなと思いますね。
杉崎拓斗(Dr) 言っていただいたようにまさにセオリー通りだと思うんですけど、「これが帝国喫茶だ」とすごくしっくりきたアルバムになりました。1stは自分たちから出てきたものをひたすら形にした1枚で、2ndの頃から僕たちは積極的にライブをしたり、お客さんとの向き合い方を考えるようになって、そこからさらに研ぎ澄まされたのが今作で。
アクリ(G) 12曲がそれぞれにやさしくて、あたたかい光のような曲が集まったなと。明るくてポップな曲が多いけど、それだけじゃなくメッセージ性のある、深みのある曲たちが揃ったアルバムになったと思います。
──まず、昨年7月からの3ヶ月連続リリースがこのアルバムへの布石になっていたと思いますが。
杉浦祐輝(G・Vo) 僕らはバンド内に3人のソングライターがいて、それをわかりやすく伝えるためにも、それぞれが書いた曲を1曲ずつリリースしていきました。
──最初は杉崎さん作の“なんとなく”でしたよね。日常の中で誰もが少しずつ「光」のほうを見ていけば、世の中はもっとよくなるんじゃないかという希望を感じさせる曲でした。
杉崎 そうですね。この“なんとなく”を作る前まで、僕の作る曲は物語性を重視して、架空のストーリーを頭の中に広げていくというやり方が多かったんです。でも帝国喫茶が今何を伝えたいかと考えていたら、自ずと自分が何を伝えたいかということに行き着いて。なのでこの曲はもう、純粋に僕が普段から大事にしたいと思っていることをこれまでにないくらいはっきりと書いた曲です。弱いところとかダメなところは誰にでもあって、そこを直そうと皆もがいているけど、まさに自分自身がその時そうだったんです。だから最初は、自分を救いたいという気持ちから書き始めて。弱い部分を直そうとして苦しむんじゃなくて、それも含めて自分を認めて愛してあげることが大事なんだと、自分にかけてあげたい言葉を歌詞にしていきましたね。自分だけじゃなく、世の中には同じように悩んでいる人もたくさんいると思うし、そういう人たちにも同じように言葉をかけてあげたいなと思って完成させました。
──杉崎さんの中で、そういう思いから曲を書いたのは“なんとなく”が初めてだった?
杉崎 そうですね。ここまで自分の思いを歌詞にしたことはなかったかもしれない。“なんとなく”は、僕の人生を懸けて普段からずっと大事にしてたり、常々思っていることを曲にしています。
杉浦 杉崎から“なんとなく”を受け取った時、そこに書かれていることは確実に自分の中にもある気持ちだったんですけど、それは隠してきた、蓋をしてきた部分なんですよね。僕の中では、バンドとかアーティストは弱い部分は見せない、理想を突きつけるみたいなイメージがわりと強くあって。なので自分の中で「歌えるかな」みたいな葛藤もありました。でも自分は理想を追い求めすぎるがゆえにそれが叶わないと動けなくなってしまうこともあって。だからこの曲には自分も救われた感覚がありましたね。帝国喫茶が表現しているのは人間として大事にしたい部分だし、それを歌っていくバンドなんだと強く思えた、思考の転機になった曲でもありました。
──その次は杉浦さんが作った“会いたいんだよ”がリリースされて。ダサくても恥ずかしくても「ちゃんと生きたい」と願う、それを曲として送るからそれが伝わってほしいなって思っていました(疋田)
杉浦 いつも自分が思っていることを曲にするんですけど、それが究極まで行き着いた曲でしたね。人はどうしたってわかり合えないけど、それでも一緒にいたいと思える人を思い描いて、そういう強い思いを歌いたくて書きました。杉崎の“なんとなく”を聴いた時も、最初は自分の中にない感情だと思ったけど「わかりたい」と思って向き合ったらちゃんと深く理解できた。今までの自分の歌は「わかり合いたいけどわかり合えない」というところで終わってたけど、この曲では「会いたい」というところまで行き着いたんだなあって思いました。
──レコーディング前とかプリプロ時に、それぞれが作ってきた曲の意味や意図を、作者が解説しあったりするものですか?
杉浦 僕自身はあんまりしないですけど、ふたりの曲をもらって、ほんまにわからない部分は聞くようにしています。でもなるべく聞かないようにしてるかな。この曲で言ってることを理解するために努力することが僕の役割だと思っているし、帝国喫茶っていうものを表現するいちばん前に立つ人間として、誰よりも曲のことをちゃんと理解して歌いたいと思っているので、「ほんまにわからん」って思うまでは自分で考える。で、ここの歌詞がどうしてもわからないっていう時は、逆にそこが自分にはまだ見えてない部分なわけで、表現する人間としての伸びしろだと思うんですよね。だからそうして自分の理解が広がっていくというのも、ふたりの曲を歌う楽しみだったりします。
──続く“光を迎えに行こう”が疋田さん作で、この曲はアルバムのテーマに直結しましたよね。今作の1曲目にもなりました。
疋田 自分は曲を書いたりする時に、考え込んで体調を崩してしまったりすることが多いんですよ。だからそんな時こそ「ちゃんと生活する」ということが大事だなと。すごく情けないことですけど、みんなが普通にできてることも僕はなかなかできなかったりするんです。外に出る時なんかも寝癖のまま出歩いてしまうし。だからちゃんと生活することで、いい日を送れたなと思える日を増やしていきたいなという思いから書いた曲でした。ダサくても恥ずかしくても「ちゃんと生きたい」と願う、それを曲として送るからそれが伝わってほしいなって思っていました。
杉浦 疋田は曲を作っていく中で、生活のいろんなことができなくなっていくって言ってましたけど、普段からそういうのは丸見えな感じなので(笑)。でもだから出てきた曲なんやなって思いました。「ちゃんとしよう」っていう姿勢は普段から見ているし、たとえばカバンに物を直すことひとつとっても、いちいちちゃんとやってるから。ほんまはできひんからこその意識だし、それも自分にはないものだなあって思ったんですよ。自分はカバンの中身ぐちゃぐちゃやし(笑)。でもやっぱ嘘はつけないから、この曲を歌い始めた頃から自分でも1個1個、目の前のことを丁寧にやっていくっていうことを意識し始めて。このふたりの曲は、今目の前の生活とか、身近なことを大事にしていくという曲だと思ったんです。身近なところにある光、輝き、そういうのをちゃんと感じていく姿勢が、ある意味自分には足りてないなあと思ったんですよ。そういう部分が自分にもあったほうがいいなあと思って、僕も日記を書くようになったり。そうやって帝国喫茶の曲を表現するために自分自身を寄せていく、毎日の生き方を少し変えてみるみたいなことをしたのは、ふたりの曲がきっかけでした。
──それだけふたりの曲を理解したいという思いが強かったんですね。
杉浦 音楽は全部そうだと思うんですけど、どうしても自分の生活が出ちゃうと思うので。ふたりの曲をちゃんと歌うには、生き方をそうしないとあかんなと思ってやっていきました。けど、ふたりの書く曲をちゃんと歌うために生活からちゃんとしようっていうのは、今までと真逆のことをやるみたいなことだったので、できない自分と向き合うことの連続だったんです。でも、「こうなっていきたい。でもそうなれていない」っていう時に、ふたりの書いた曲にまた救われるというか。「そのままでいい」って言ってくれてるような気がして。頑張って近づこうとして挫折してまた助けられて、みたいな。「みっともないけど大事にしていこう」っていうことを、ふたりの曲は言っていたから。そうやってより深くふたりの曲も帝国喫茶のことも理解できていく感じがありました。
──アルバムのタイトルやコンセプトが見えたのはどの段階でした?“ビフォア・サンライズ”は勇気のいる歌詞でした。でもそれくらいの覚悟ができたなっていうのと、やっぱりバンドって夢とかロマンだと思うので、そこはずっと大事にしていきたい(杉崎)
杉浦 全12曲が出てからですね。アルバムタイトルをどうしようか悩んでいた時に。
杉崎 それぞれが帝国喫茶に向き合って、メンバー同士も向き合ってきた中で、自然とひとつの方向に定まってきたのかなと思います。
アクリ 日常に寄り添った曲たちだと思うし、その日常の中にある思いが3人それぞれのストーリーとして描かれていて、その中に私たちの「光」があるなあって。
杉浦 アルバムはいつもそういう作り方です。4人でツアーを回ってスタジオに入って、ずっと同じ景色を見ている中で、それぞれの視点で曲を書いたとしても、それは帝国喫茶が歌いたいことになっていくんだと思っています。やっぱり僕が「同じ感覚を持っている」と思って誘ったメンバーたちだから。
──そのタイトルやテーマを受けて、アクリさんがアートワークを手がけるということですね。
アクリ そうですね。1作目と2作目はわりとわーっと描いたんですけど、今回はタイトルが決まってからどういうものにしようかとメンバーと話し合って。暗めの背景に輝いている本がふわふわと浮かんでいるんですけど、12曲の物語があって、その物語を開いてくれた皆さんに光が灯るように、皆さんの心に寄り添えるようになってほしいという思いで描きました。いろんな物語があって、それが1枚のアルバムになっているというイメージでしたね。
──アルバム最後の“ビフォア・サンライズ”は杉崎さんの作詞・作曲ですが、これは帝国喫茶がこの4人で歩んでいくという、とてもポジティブで力強い曲になりましたね。
杉崎 まさにバンドと向き合っていく中で感じていることを曲にしました。
──曲が進むにつれてテンポが変化していく構成ですが、曲を作った段階からイメージしていたものですか?
杉崎 そうですね。いろんな面がある、いろんな楽曲があるというのが帝国喫茶らしさのひとつだと思うので、1曲の中でもいろんなストーリーがあるということを表したくて、テンポを何段階も変えていきました。まずはバンドの中の一個人、僕だけじゃなくメンバー一人ひとりのことを思い描いて、その個人が4人集まって初めてこのバンドなんだというのを2つ目のブロックで描いています。そこからじゃあバンドとしてひとつの塊になったとき、今度は帝国喫茶としてお客さんにどう向き合うかというので、それがいちばん表れるのがライブなんですよね。なのでライブ感の強いアレンジと演奏にして、それをギュッとひとつの曲にしました。
──ほんとにライブで聴くのが楽しみになる曲です。
疋田 ライブに来てくれるお客さんにも、一人ひとりがしっかり持っている「光」を再確認してもらえるのが“ビフォア・サンライズ”だと思います。夜明け前、何かが起きる瞬間のこのわくわくする感じ、キラッと光る場所に向かっていくぞというのが、《僕らフォーピースバンド》と歌う歌詞にも表れていて。
──そこに続く《燃えつきるまで輝き続ける光》という歌詞などは、バンドとして非常に強い決意の表明だと感じられました。
杉崎 そうですね。結構勇気のいる歌詞でした。でもそれくらいの覚悟ができたなっていうのと、やっぱりバンドって夢とかロマンだと思うので、そこはずっと大事にしていきたいなと思ってます。
──逃げずに、はぐらかさずに書いた曲だという気がします。
杉浦 最初に聴いた時、今いちばん必要な曲だなあと思って。ライブでは杉崎は後ろのほうからすべてを見ているんですよね。メンバーとお客さんが全部見える唯一の人間。バンドが何をしてお客さんがどう反応するかっていうのをすべて見てる人が書いた曲だから、4人がひとつにまとまってひとつのメッセージを伝えていくのが帝国喫茶だということがちゃんと1曲に表現されてるんですよね。「バンドやろうぜ」ってほんとに「なんとなく」誘ったところから始まって、今こうした覚悟を持った曲をこのアルバムの最後に書いてくれたことがボーカルとして嬉しいし、この曲ができて“なんとなく”も説得力が増したというか。タクティのソングライターとしての成長もすごく感じるし、これから歌っていくのが楽しみな曲です。ちゃんと伝えていかなきゃいけない曲だなと思っています。
アクリ イントロがめっちゃ好きなんですよ。そこから3部構成でテンポが変わっていくのもわくわくするし。この曲、レコーディングする前から早くライブでやりたいと思える曲でした。
──この曲だけじゃなく、疋田さんの作った“sha na naなjourney”もそうだし、ライブバンド讃歌というか、帝国喫茶に対してそれぞれが抱く「光」がすごく表れていますよね。そういう思いがそれぞれから自然に出てきているのが興味深いです。聴いてくれる人、ライブに足を運んでくれる人がいたからこそ「届けたい」と思えたし、バンドをひとつにする機会を与えてくれた(杉浦)
杉浦 制作している期間にツアーを2本回れたのも大きくて。お客さんが観に来てくれて、帝国喫茶の音楽を聴いてくれる人がいると実感したからこそ、もっと伝えるためにはって、それぞれが考えて作ってきたんだと思います。それで4人がひとつにまとまらないと伝わらないということに行き着いたんですよね。そこから4人の会話ももっと増えたし、そういうバンドの動きやストーリーも含めて伝わったらいいかなと。
──あと “ハル”なんかも今の帝国喫茶だからこその曲かなと思います。杉崎さんはやっぱり、「杉浦さんが歌う」ということをイメージして作っているような気がして。
杉崎 確かに。自分で歌うなら恥ずかしくて書けなかったかも。
──《「あのね 私、桜の妖精なの」と君が笑った》という1行目にグッと引き込まれるんですよね。
杉浦 でも、タクティはこれまでも物語がしっかりあって、頭の中にあるファンタジーな部分、ロマンチックな部分を表現する曲が多くて、そういう意味では今回もいい曲だなって素直に思いました。そこは自分で言うのもあれですけど、自分にはロマンチックな部分もあるので(笑)、これはむしろ歌いやすいですね。タクティの曲は歌いやすいんですよ。
──ここの杉浦さんの歌唱がすごくいいです。不思議な歌詞なのにその情景がふっと自然に浮かびますよね。
杉崎 そうですね。この情景をいちばん伝えられるのは絵でも文章でもなく、歌だっていう感覚があります。
──素晴らしいアルバムができました。このあと、アルバムを引っ提げてのライブも決まっていますが、どんなツアーにしたいですか?
杉浦 やっぱり「どうやったら届くか」ということを考えて作ったアルバムなので、これがどんな形で受け取ってもらえるかも楽しみです。やっぱり聴いてくれる人、ライブに足を運んでくれる人がいたからこそ「届けたい」と思えたし、バンドをひとつにする機会を与えてくれたわけですし、自分たちが音楽をやる理由をくれたのは、そういう聴いてくれてる人たちがいるからなんですよね。その人たちにライブでお返しできたらいいし、帝国喫茶を知らない人にもちゃんと届くように、もっと突き詰めて「どうやったら伝わるか」を考えていきたいなと思います。
帝国喫茶のインタビューは3月31日発売の『ROCKIN'ON JAPAN』5月号にも掲載!
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●リリース情報
『帝国喫茶Ⅲ ストーリー・オブ・マイ・ライト』
価格:2,750円(税込)/XQFQ-1703
【収録内容】
01.光を迎えに行こう
02.つもる話し
03.sha na naなjourney
04.なんとなく
05.ハル
06.ひとりぼっちの幸せの空へ
07.グッバイ・コメット!
08.東京駅
09.アップオールナイト
10.会いたいんだよ
11.さよならより遠いどこかへ
12.ビフォア・サンライズ
●ライブ・ツアー情報
自主企画「喫茶店の日2025」
2025年4月13日(日)大阪・梅田Shangri-La
開場 16:30/開演 17:00
ワンマンツアー2025「ストーリー・オブ・マイ・ライト」
5月16日(金)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
5月23日(金)茨城・水戸ライトハウス
5月30日(金)北海道・ベッシーホール
6月6日(金)宮城・ROCKATERIA
6月8日(日)東京・LIQUIDROOM
6月15日(日)岡山・CRAZY MAMA 2nd Room
6月22日(日)福岡・DRUM Be-1
6月28日(土)大阪・Music Club JANUS
6月29日(日)大阪・Music Club JANUS
提供:Empire Records
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部