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帝国喫茶が本作で私たちに投げかけてくるのは、人生の「瞬間」。メロディメーカーの3人それぞれが作った曲が並び、ここには3人が生きてきた20数年分のストーリーや思想の欠片が詰まっていて、その音像が音という意味だけでなく、物語として、表現として立体的に表れる。“季節すら追い抜いて”で歌う《海岸線目指して》《ただ気づいたら走っていた》青春も、《あのコンビニまで歩こうか》(“君が月”)と歌う日常も、《俺を殺してくれ》と《あの子が大好き》(“clashtriker”)を並べる狂気も、《ラブソングがほらあふれてる/それじゃ愛は世界にあふれてる?》(“ラブソング”)で問う哲学性も――季節、時間、場所、感情、思考――そんな生きている時々を切り取った疾走感が迸る。きっとこのバンドと同世代のリスナーにとっては、毎日を並走してくれる1枚なのだと思う。その若いスピード感に懐かしさを感じながら、私は20代の刹那を思い出す。短編映画を連続で観たような充実感が残る、帝国喫茶の生き様が詰まった1枚だ。(前田侑希)(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年11月号より抜粋)
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