──似た傾向の曲として“南与野ラプソディー”もありますけど、これはなんでこの内容なんですか?1曲目は「このアルバムをちゃんと聴けよ」っていう選手宣誓というか、まずは背筋を伸ばせというところ(豊島)
豊島 もともと埼玉県の3市合併(現・さいたま市)に反対するというスタンスをとっていて──それはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが好きなので、反体制への憧れから合併にでも反対してみようかな?ということなんですけど。
アサヒ もう合併されたあとにね(笑)。
豊島 そのあともちょくちょくさいたま市の曲は作っていて、久々にアルバムを作れるならまた作りたいっていうのがまずあって。プラス、歌詞でも言ってるんですけど、トップシークレットマンっていうさいたま市の後輩バンドと対バンした時に、3市合併断固反対の曲をやったんですけど、話を聞いてみたら彼らは若すぎて合併のあとに生まれてて。生まれた時から「さいたま市民」の……“戦争を知らない子供たち”みたいな(笑)。「俺は長いこと、一体何を歌ってたんだ?」って衝撃を受けたことがきっかけでした。ボーカルをキャナコさんに歌ってもらおうと思いついてからは、かなりペンが走りましたね。
アサヒ 歌詞が多いんで、今でも大変な思いをして歌ってます(笑)。内容は非常に……重要なことは一個もないんですけど。
──でもなんというか、どの都道府県に住んでいても、立ち位置としてこの南与野みたいな街って心当たりがあると思うんですよね。
豊島 ああ、みんな各々のラプソディーとして、自分だけの駅を思い浮かべたらいいのかもしれない。
──そういう面白い曲もある一方で、さっきも話に出た“暁のウンザウンザを踊る”は、20周年を前にあらためてバンドとしての姿勢を打ち出した曲だと受け取りました。
豊島 アルバムなのでふざけた曲が多くなるのはわかっていたんですけど、僕らもこう見えて音楽を非常に愛してまして、一曲目は「このアルバムをちゃんと聴けよ」っていう選手宣誓というか、まずは背筋を伸ばせというところではありますね。僕らは世界各国のワールドミュージックが好きで、そういう曲を聴いていると、言葉とかはわからなくてもその国がどういう国なのか──特に戦争とかをしていると、どういう想いで作ったのかという感情が歌や楽器から読み取れるような気もしておりまして。そこが音楽のすごいところだなと思うので、そういう気持ちも入れてます。
──“ただそんな日々が続いて”も、今感じてる心情とリンクした曲なのかなと。
豊島 そうですね。“暁のウンザウンザを踊る”ほどスケールが大きくはないんですけど。タイトルの通り、ずっとこればっかりやってきたな、繰り返してばっかりだけど繰り返してることが嬉しいっていう。説明するのは難しいですけど、あまり飾らずに書けているのがいいなと思うし、好きな曲ですね。
──せっかくなので、それぞれのお気に入り曲なんかも聞いてみたいです。
アサヒ “あやかし”をわたしは気に入ってて、歌詞も曲も好きです。これは唯一まだライブでやっていないんですけど……やるんですかね?
豊島 難しいからねえ。“あやかし”は作るのにも時間がかかってずっと練り続けていたし、僕ら的に新しいことにも挑戦してるんで。
──いちばん国籍不明な感じがあります。
豊島 そう。そうなんですよね。今後こういうのをさらにできたらいいなというか、この曲はまだ伸びしろがあるな、まだいけるみたいな感覚も実はちょっとあって。
鬼ヶ島 僕は“クレイジー☆ビート”が個人的に好きです。MVもこれまでと違う感じというか、肩の力が抜けていて。ライブでやっても他の曲とは違う感じの盛り上がり方をするので。“とんでけ鳥”のギターリフはすごくいいなと思ったので、しっかりいいものにしたいという気合があって(豊島)
──ちょっとキラキラした曲ですけど、サビ終わりの《輝いていた》の「た」の一音に哀愁を感じるんですよね。
鬼ヶ島 ああー!
豊島 そうなんですよ。あそこでEマイナーに落ちますからね。メロディが上がったり下がったりしながら、そこまで下がるんだ?っていう。
──あゆみさんはどの曲がお気に入りですか?
でんでけ 僕は“ど~なのアメリカ”がめっちゃ好きです。これは聴いた時から最高だと思いましたね。
豊島 そうなん? どこが?
でんでけ 歌詞。食費や旅費が高いとか、ただアメリカに行った感想だけど、ちょっと泣ける感じで歌うのがいいなと思いました。頭に残るんですけど、歌詞はふざけてて気持ちよくなる、みたいな。たまに勝手に頭の中に流れるんですよ、嫌ですけど(笑)。
──確かに、この曲は耳と頭に残るかも。でもこの曲は配信してる曲ですよね?
豊島 配信してても全然ふざけてますね(笑)。アメリカってやっぱりどこでも景色がいいので、スマホで何撮ってもMVになるからタダで作れるなっていうことで、一回アメリカの曲を作ったんですけど。また1年後に行くことが決まったので続編が作れるぞという感じでした。ちゃんと導入からオチまでスパッときれいに決まったなと思います。
──渉さん自身としてはどうですか、特に思い入れのある曲は。
豊島 やっぱ“とんでけ鳥”ですかね。“あやかし”もそうですけど、“とんでけ鳥”も新しいと思っていて。キャッチーだけど嫌な感じがしないと思いますし、あとはMVもすごくよかったので。監督さんと漫画家の押切蓮介さんにお願いしたんですけど、そのハマりっぷりにひとり感動しまして。しかも押切さんも曲を聴いてかなり前のめりに作ってくれたので、そこも少し特別な気がします。
──和のファンクみたいな印象もありました。
豊島 嬉しいですね、それはすごく。もともとギターリフから曲を作りたい気持ちは結構ありまして、とはいえなかなかいいものが出てこないんですけど、“とんでけ鳥”のギターリフはすごくいいなと思ったので、しっかりいいものにしたいという気合があって。歌詞もアレンジもレコーディングもMVも、全部がバシッと決まったのでよかったなと思います。
アサヒ リフ自体はかなり前からあったけど、いろいろチャレンジしていちばん時間がかかったかもしれないです。
豊島 「こんな展開ではこのリフは使わせてあげられない」みたいな。
──タイトルもリフも、長年温存していたものを投入したんですね。
豊島 そうです。このリフが気に入ってるから、タイトルも長年いちばん好きな言葉にして。
──まさにキャリアの結晶じゃないですか。
豊島 すべてだと思ってもらって構いません(笑)。
──最後に、来年の20周年に向けての心境も聞いておきたいです。
でんでけ まずはいつも「今日のライブで自分の最高を更新できたら」と思ってやっていて、それがたまたま続いてきてるから、このまま続いていけばいいなと思います、怪我せず病気せずに。
アサヒ まだ言えないこともありますけど、「20年です!」っていうこともやれたら嬉しいですね。
豊島 10周年の時はまあまあ騒いだんですけど、15周年は何かやろうと思ったらコロナ禍でそのまま終わっていったからね。せっかく20年やってきてるんで、最近はライブに足を運べてない人とかにも、何か届くようなことがやれたらなとは思います。知ってる人、全員集合!というか、まだ元気にやってますよということを、できるだけたくさんの人に伝えたいなと思います。