──クリープハイプのシーンの中の立ち位置は実は何も変わってないし、それに対する尾崎くんの分析も昔から同じで。以前はその分析の結果をマイナス評価して、それに対する焦りとかいら立ちを語ってたけど、どこからか、一種の自信っていうか、受け入れる感じに変わった時期があって。実際、届かないよと思ってた楽曲たちが、ちゃんと届くべきところには届いてる。“キケンナアソビ”もそうだし、“ナイトオンザプラネット”も。そういう世界観に変わったのが──あ、世界観って言っちゃった(笑)。別に「今」っていうものに当ててない。自分が想像しうる未来までちゃんと見据えて、
そこまで届くぐらいのものを作れたら、絶対あとで後悔しない
(笑)。あと2回まで大丈夫なんで。
──(笑)。そういうふうに、変わった感じがするよね。
すぐにめくるくじ引きみたいな感覚で曲を作らされそうになってた時期があったんですけど、たぶん違うなと思って。世間の人って、そんなにわかってないと思ったんですよね。なんとなく気づいてたけど、確信に変わって。だったら、遅くなっても気づいてもらった時に後悔しないように、時間の流れを計算して。今ってほんとにわからないじゃないですか。80年代のシティポップがめっちゃ聴かれたりするし。確かにいいんですよ。聴かれるだけのものだなあと思う。当時の人は、そういうふうに作ってたと思うんですよね。別に「今」っていうものに当ててないっていうか。自分が想像しうる未来までちゃんと見据えて、そこまで届くぐらいのものを作れたら、絶対あとで後悔しないし。それでもし間違ったとしても、別に誰かに迷惑かけるわけじゃないし(笑)。5年、10年経ってやっとピントが合うようなものを出せたらなと。今だったらやれると思うので。
──曲の話ももうちょっと聞きたいんだけど、この曲はまず、“ざらめき”っていうタイトルがもう超いい発明。この詞の世界や音楽性を表すと同時に、シューゲイザー的な、ノイズなんだけど、きらめきなんだよなっていう独特の感じを“ざらめき”っていう言葉で表してくれて。ありがとうって。
ありがとうございます(笑)。結構迷ったんですけどね。最後の歌詞が《きらめき》で終わってるので、なんかできないかなあと思って。いつもやるんですけど、「あ」から順番に当てはめて(笑)。で、“ざらめき”かなあと。
──これは発明だよ。いろんな音楽聴く時に、「ざらめき系だよね」って言えるもん。さすが言葉の人だなって。
ざらめき系、出てきてほしいな。
──まさに最初のギターサウンドが、この曲の音楽性を表してて。でも堂々としたロックビートで。自信に満ちてるバンドサウンド。
リズムは結構気にしました。最初は4つ打ちだったんですけど、ちょっとベタだなと思って。打ち込みでいろいろ考えてたんですけど、やっぱりシンプルにいったほうがいいと思って、あの感じに落ち着いて。かなりいろんなリズム、テンポを試してました。あとは時間も、ギリギリ4分にいかないようにしたりとか。細かいところは客観視して、でも、デビューしたてのバンドがディレクターに言われるようなことは全部無視して、ちゃんと堂々とするっていう。あとはやっぱり、言葉、歌詞なんですよね。メロディと歌詞のバランス。“ナイトオンザプラネット”のサビを作った時の感じっていうか、はみ出てないんだけど、普段のAメロを書くようなテンションなんだけど、ちゃんとサビとしてのメロディっていうギリギリのところで、これはすごくいいなあと思って。いちばん最後のサビだけ、後半ちょっと上げるんですけど、最初は全部のサビでそうなってたんですよ。でもこれはもうちょっと我慢しようって、最後一回だけにして。うっかり出したものを冷ますっていう作業もすごくしました。かといって冷ましすぎても地味になりすぎちゃうんで、そのバランスも結構考えてます。
──歌詞に関しては、《熱帯魚》と《マーメイド》っていうメタファーが絡んで出てきたり、《ダサい恋》と、《一周して流行る》っていう、これを音楽のリバイバルと絡めているのとか。
はい。
──尾崎くん独特の、文学的な効果を最大に使って、密室的な世界をめちゃくちゃうまく作ってる感じがあったんだけど。これはどんなふうに出てきたの?
夏の夜の感じ、寝苦しい感じは出したいなと思ってて。クリープハイプらしい夏──夏のB面みたいなテーマがあったので、どうしたらそうなるかっていうので、なんとなく最初の4行が出てきて。何を思い出してるかなって考えた時に、過去の自分の恋愛とか、リバイバルしてヒットする感じも自分の中にあったので、そこに当てはめたり。健全に悩みながら作りましたね。それも含めて、あ、めちゃくちゃ曲作ってんなと思って。出てこない焦りももちろんあったんですけど、そういうことにも喜びながら作ってました。このタイミングでこういうふうに作るって、きっと健康的だろうなあって思いながら。自分が今まで身につけてきた、やり口。テクニックとは言いたくないんですけど(笑)。そういうやり口を確かめながら、振り返りながら作っていって。実際は焦ってるんですけど、どこかで俯瞰して、そういう自分を眺めて安心もしながら作りましたね。
──ウォン・カーウァイ的な最初のイメージと、すえた匂いのする恋愛みたいなものを閉塞感の中で描いていて、それがまるで熱帯魚が泳ぐ水槽の中みたいな、閉じられてるけどキラキラしていて。でもこの曲の主人公は、《黙って見てないでなんか言って》って叫んでる。
見ている側が見られてるっていうのは、まさにライブしてて思うんですよ。この人たちは俺らを見てる認識だけど、俺もこの人たちをめっちゃ見てるっていう。特に今回のツアーは、いつも以上にお客さんを見てたので、見に来てるようで見られに来てもいるよなあって。そこに対する恥ずかしさに、子どもの頃から自覚的だったんですよ。ライブでみんなは最前列に行きたいって思うかもしれないけど、絶対行きたくないと思ってたんですよね。見られるじゃんと思って。ステージと客席で分断されてるとは思ってなかったんです。で、実際上がってみて、やっぱり続いてるのを確かめたし。面白いですよね。今では自分が曲を作ってそういうことを歌ってる。でもまあ、アルバムから半年以上経って1曲ポーンって出すのがこれってのも、しびれますけどね。
──しびれる。最高だよ(笑)。
ははは。ふてぶてしくて。
ヘア&メイク=AKIRA KADOKURA スタイリング=入山浩章
クリープハイプ・尾崎世界観のインタビュー全文は発売『ROCKIN'ON JAPAN』2025年9月号に掲載!
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