【インタビュー】Zeppツアー、そしてドラマ主題歌の新曲“シェイプシフター”。武道館に向かっていく今、This is LASTに訪れた変化の季節とは

This is LASTの楽曲を聴き、ライブを観て、インタビューをするたびに、実は僕にはちょっと引っかかるところがあった。簡単に言えば、バンドとしての理想像や音楽的な理論が先走って、もっとシンプルなところが置いてけぼりになりかけているようなアンバランスさを感じていたのだ。もちろん菊池陽報(Vo・G)が考えに考えを重ねることで前に進んできたミュージシャンであることも知っているのだが、理想や理論を強調してしまうと、彼らのパッションとか人間臭い部分が見えづらくなってしまうんじゃないか、と勝手な心配をしていたのだ。だがそんなこと、当人はとっくに百も承知だったらしい。9月から行われたZeppツアー「Roots」にも、ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の主題歌として書き下ろされた新曲“シェイプシフター”にも、そんなモヤモヤに対する明快な回答があった。来年10月には初の武道館ワンマンも決定。その頃にはひと回りもふた回りも大きくなったLASTに出会えそうな予感がしている。

インタビュー=小川智宏 撮影=川島小鳥


みんなを巻き込めるフロントマン力が求められてることがわかって。人としての力、自分の人間力をどうやってステージに出すかを考え始めていた

──まずはツアー「Roots」、お疲れさまでした! 「お疲れさまでした」というのは定型文ではなくて、実際にファイナルが終わったあと、疲労困憊って感じでしたね(笑)。

はい(笑)。でも、整体したらすぐに治りました。横隔膜の筋肉的な問題だったみたいで。今自分の歌をいろいろ改造していってる中で、体を使えるようになってきたというか、息をいっぱい吸えるようになってきているんですよ。整体師さんがおっしゃってたのは、肺のウォーミングアップを充分にしておかないと筋肉が痙攣して動かなくなっちゃうことがあるから、たぶんそれが起きたんじゃないかと。もう少し慣れが必要なのかなって思います。

──歌を変えようとやってきてたんだね。

去年あたりから歌に悩み出して、そこからいろいろ迷いながらやってました。間違えたこともあったけど、最終的に極めていきたいスタイルが見つかって。で、体が使えるようになってきているぶん、やっぱりダメージがデカい(笑)。今までは全力で歌ってもここまで戻らないことはなかったんですけど、戻るのにちょっと時間がかかりますね。ツアー中は気合だけで──気合だけはうちのバンド強いんで(笑)、気合で乗り越えようとしてました。

──バンドとしてはどんなツアーになりました?

バンドとしてのパフォーマンスやお客さんを巻き込むことに関して、色濃く会話しながらできたツアーでした。夏フェスが始まる前くらいから、どうやってお客さんを巻き込んでいけるのかって──それこそ9月のロッキン(ROCK IN JAPAN FESTIVAL)ではわかりやすく楽しめたから、みんなを巻き込めるフロントマン力が求められてることがわかって。それで、人としての力を意識し始めて、自分の人間力をどうやってステージに出すかを考え始めていたので、その延長線上として、ツアーでもシンプルにお客さんが行きたいと思えるライブをやるにはどうしたらいいのかを考えながら、日々を過ごすようになりました。てる(鹿又輝直/Dr)も同じように考えてたみたいで。

──ファイナルを観て、ちょっとかっこ悪いところも含めた人間臭い部分をさらけ出すようになってる感じがすごくした。で、それがとても魅力的に見えたんですよ。お客さんもきっとそうだったと思う。

気持ちでフルスイングできたなって思えるかどうかを今は大事にしてるんですよね。最近は自分たちの中で考えていることが自然と統一されてきてるから、バンドとして大きく変わったイメージはあんまりなくて。どっちかというと模索中です。将来像として、歌えるロックバンドというか──お客さんも巻き込んで一緒に歌えるライブに可能性があると思ってるんですけど、お客さんは俺の声を聴きに来てるのが大前提としてあることは忘れないようにしないといけない。みんなで歌う瞬間を作ることと、自分の歌をちゃんと届けることのバランスは常に考えなきゃいけないとは思います。

──それはライブを観ていても伝わってきました。巻き込むところはちゃんと巻き込んで、聴かせるところは聴かせるというメリハリを意識しているんだろうなって。

そうですね。たとえば“病んでるくらいがちょうどいいね”の2Aは同期なしで3ピースの音だけになるんですけど、本当はクラップを煽りたい、でも誰も手が空いてないから俺が弾くのをやめてクラップに行くとか、そういう思い切りは増えていきそうだなと思ってて。でも、適当にそれをやりたいわけではないから、ちゃんとみんなで意識を統一して計算をして、じゃあここで戻ってくるねっていうところを作っていくみたいな細かいことをバンドでより話し合うようになりました。

ステージに上がった瞬間には、どんな状況だったとしてもいちばん楽しめる人にしか行けない領域がある

──今回「Roots」というタイトルでツアーをやったのはどういう思いだったんですか?

今まで1本1本のライブをがむしゃらにやってきたんですけど、Zeppツアーに入る前にひと息置いて考えたんです。で、「ちょっと待てよ、俺たちは(Zeppツアーという)すごいことをするんだ」って思って。上の人たちを見ると、アリーナツアーやドームツアーをやってて、俺たちも負けないようにとにかくそこを目指して頑張っているんですけど、ギターを始めてバンド始めて、それこそZeppにライブを観に行って「ここでライブやれるようになったらすごいな」って話していたときのことをいろいろ思い出して、すごいことなんだというのを改めてちゃんと理解しないとなって思ったんです。僕は基本的に自信がないので、戦い続けていく姿勢でがむしゃらにやりすぎた結果、バンドを始めた頃の純粋な気持ちを忘れてたなって。だから今回のツアーは1回それを全部忘れて、あの頃の陽報少年に戻りたいなっていう気持ちを持って、「Roots」というタイトルにしました。

──そういう気持ちでツアーをやることで、何かを取り戻せた感じはあった?

とても純粋な気持ちでやれましたね。Zepp Hanedaは8本目で、ツアーを重ねた経験がちょっと出ちゃったから、セットリストを急遽変更したんです。肝が据わることも大事だけど、Zeppに立ててることに対して自分のルーツや純粋な気持ちをぶつけたいんだよなって思っちゃって。

──「純粋さ」というのはキーワードだよね。1本1本のライブにすべてを注いできたと思うけど、あきくんは常に広い地図の中で現在地を見ているようなタイプでもあって、冷静に現状を認識しているところもあるじゃないですか。それも大事なことだけど、今回はそうじゃなかった。

そうです。本当にあの瞬間瞬間をずっと生き続けたいって思ってたので。だからライブの中でちょっと不思議な感覚というか、瞬間瞬間を長く感じるときがあったんです。ビートの感じ方がいつもと違ったり。それが面白くて。

──それって、集中していたっていうことですよね。スポーツ選手でいう「ゾーン」ってやつ。

はい。最近、ステージを降りると、「今の自分でいてもいいのかな」みたいにいろんなことに対する心配症を発揮してしまって、考えたり歌の修正だったりを続けていて。でも、ステージに上がった瞬間には、どんな状況だったとしてもいちばん楽しめる人にしか行けない領域があるなって思って、それをより意識しながらライブするようにはなってきてますね。考えに考えたうえでステージに立てば、体は覚えてるんですよ、考え続けてやってきたことを。その向こう側にある感覚は、ちょっと言葉にはできないんですけど。

──剣道の達人とかの「無の境地」っていうのに近いのかも。

確かに。自分が今、その考えに至れているなと思っていたら、てるも似たような考えをちょっと持っていたんですよね。別にそれについて話したことはなかったし、性格は全然似てないんですけど、考え方の行き着く先が結構似てて。限られた人にしか入れないその領域がわかったので、そこに入るために今試行錯誤しています。

バンドはアリーナで演奏する想定でやってるんです。そこに向かっていく途中だから、武道館は本当に通過点としてしか考えてない

──そして、そのツアーファイナルのHanedaで来年10月15日に初の日本武道館ワンマンを開催することを発表して。バンドマンにとって一生で一度の経験なわけですけど、どうでした?

その一生に一度の経験を忘れてました(笑)。

──「忘れてた」って言って慌てて発表してたね(笑)。

とにかくあの日は瞬間を生きるんだって思いすぎて。あのあと“カスミソウ”だったんですけど、俺はそこでみんなの感情を見ながら、俺が歌ったほうがいいのか、みんなで歌ったほうがいいのかみたいなことを考えてたら、武道館を発表することを忘れちゃってたんです。

──ははは。武道館っていう大きな目標が1個、来年に向けてはできたわけですけど、そこに対する気持ちはどうですか?

バンドはもうアリーナを目指してやってるというか、自分たちがアリーナで演奏する想定でやってるんです。そこに向かっていく途中だから、武道館は本当に通過点としてしか考えてない。でも、いざ発表したらその途端に実感がなくなったというか、「本当にやるのか」みたいな感じになって。気合は入ってるんですけど、まだちょっと実感がないですね。いきなりふわふわし出して。

──まあ、その前に長いライブハウスツアー(「This is LAST one man live tour 2026」)もあるから、まさに一つひとつ全力を尽くしていく中で実感が湧いてくるのかもしれないね。

そうですね。ロングツアーをやるたびにThis is LASTはすごく大きな変化をしてきたので、今の状態でツアーに入ったら、バンドがどれだけ変わるかなって。もしかしたらまた別人くらい変わるかもなって、自分たちに期待してます。

──まさにバンドとしてもここから「シェイプシフト」していくという──。

話のシェイプシフトが天才すぎますね(笑)。

──(笑)新曲“シェイプシフター”はツアーファイナルで初披露していましたが、この曲も今話してくれたような気持ちの変化が結果的に出たような気がしていて。自分としてはどうですか?

この曲はもうやり尽くしました。タイアップのお話をいただいて、第1稿からこの形になるまでに、それこそ何回もシェイプシフトしてるんですよ。いろいろな変化をしてここに行き着いているのでアイデアや気持ちを最後の最後までできる限り盛りに盛って、そこから削られて残ったみたいな感じで、大変難産な子でした。


──最終的に完成したこの曲には、今まで以上に菊池陽報という人が出ている感じがするんですよね。

ドラマサイドのテーマとして、「変わりたい人の背中を押していきたい」っていうのがあって、そこに対して自分なりのテーマを持とうと思って書いたんです。ちょうど自分の変化についてすごく悩んで考えている時期だったので、自分の心が変われば未来が変わっていくということに対して、希望を持てたらいいなって。だから、ちょうど自分のそのときの悩みとリンクしてたこともあるとは思います。そこから、音楽的な理論でどうやって表現するか、歌詞として表現するかを考え始めました。

“シェイプシフター”は、いろいろなものに変化する妖怪の名前から取ったんですけど、変化することを楽しめる存在っていいなと思って。変わっていくことに対しての葛藤とか恐怖があったりするのは当たり前で、でも楽しいって思ってほしい

──サウンド的にはソウルっぽい雰囲気もあるけど、このグルーヴィな感じは今までやってこなかったですね。

やってなかったですね。これもドラマサイドとの会話があったからこそ行き着いた先でした。自分ひとりで作ってたら、絶対この形は作れなかったなって思います。ギリギリまで大丈夫か?って思ってたんですけど、最終的にはすごくいいものになって。今までになかった出会いと、出会った人からもらった今まではなかった言葉が、この曲が生まれるきっかけになったと思います。

──そういう意味ではすごく新鮮ですけど、最近のThis is LASTが曲でやっている実験とは違う感じがします。

確かに、この曲に関しては実験をしてるというより実験を繰り返してきたことの一旦の研究結果みたいな感じです。変わっていくことを3分半の中でどう出せるかを考えましたね。サビの転調はもうちょっと気持ちいい転調があるんですけど、あえてそこではなく遠隔調という、元のキーからするといちばん遠い調に飛んでるんです。変わりたいって思ったときって、変わりたい先が遠く感じるんですよね。それを音楽的にどうやって表現できるかを考えてそうしたんです。

──音楽的にやりたいことと、メッセージとして伝えたいことがすごくいい形で融合しているよね。

本当にいろいろ計算して作ったけど、ちゃんとハートで通しましたね。ハートが乗っかってるのは、すごく大きいかなと思います。

──ハートという意味では、歌詞でも人の不器用な部分だったり、変わりたいけど変われない部分だったりに対してすごく優しい眼差しを向けているじゃないですか。今まではもうちょっと自虐にいっていたようにも思うけど、この曲はそれがない。

そうですね。ポジティブには持っていきたいなって気持ちがありました。あと、“シェイプシフター”というタイトルは、いろいろなものに変化する妖怪の名前から取ったんですけど、自分的には結構遊び心でつけたんですよ。いろんなものに変化することを楽しめる存在っていいなと思って。変わっていくことに対しての葛藤とか恐怖があったりするのは当たり前で、それはついて回ることなんだけど、でも変わっていくことは楽しいって思ってほしい。そっちにフォーカスしてほしいなって思ったんです。

──拳を握りしめて気合全開で「変わるんだ!」みたいな感じじゃない。

そこまでやっちゃったらもう、ゴリゴリバンドしてます。“ディアマイ”みたいな曲を書いてると思う。

──だから、今まではそうしてきたよね。

でも今回は、いろんな観点──音楽的な観点、時代的な観点、メロディの観点、歌詞の観点から見て、ちゃんとハートに行き着くように作れましたね。

──音楽的な挑戦をしていくうえで、This is LASTとしての芯みたいなものが1本通ったような手応えが、この曲にはある気がします。

自分が実験的にいろいろやってきたことが、この曲を皮切りにふんだんに使われそうな気持ちがしてきましたね。それが楽しくなってきてるのもあるんですけど、やりすぎないようにしようとは思ってるんですけどね。あくまでわかりやすい楽曲であるべきだと思うから。

このインタビューの完全版は、発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』12月号に掲載!
【JAPAN最新号】Zeppツアー、そしてドラマ主題歌の新曲“シェイプシフター”。武道館に向かっていく今、This is LASTに訪れた変化の季節とは
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●MV

“シェイプシフター” ライブ映像


●リリース情報

『シェイプシフター』

配信中

●ツアー情報

「This is LAST one man live tour 2026」


「This is LAST one man live at 日本武道館」


提供:株式会社SDR
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部