GRAPEVINE@SHIBUYA-AX

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感慨深いライヴだった。過去を懐かしむという意味だけではなくて、グレイプバインの歩んで来た道程、そして未来にまで思いを馳せるような様々な思いが溢れ出し、その意味で重要なライヴでもあった。1999年5月19日にリリースされたセカンド・アルバム『Lifetime』の、15周年を記念するアルバム再現ツアー『IN A LIFETIME』。ちょうど15年にあたる日のSHIBUYA-AX公演はツアー初日(5月末にクローズするAXではバイン最後のライヴ)であり、今後は名古屋(5/21)、大阪(5/22)、札幌(5/28)とスケジュールが組まれているほか、ビルボードライブでは東京(5/30)と大阪(6/4)でそれぞれ2公演ずつの『uP!!!SPECIAL「GRAPEVINE〜IN A LIFETIME PREMIUM〜」』が、また福井では6/8に『HIBIKI HALL ROCK ON!! 2014 SPECIAL GRAPEVINE IN A LIFETIME』と、アニヴァーサリー企画が予定されている。

開演を迎え、ステージ上には西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)、金戸覚(B)、高野勲(Key)らサポート・メンバー含めお馴染みの顔ぶれが登場。最後に姿を見せた田中和将(Vo・G)は、『Lifetime』のジャケット・アートワークにも映っているロゴ入り電光看板を持ち込み、それの電源を入れてショウがスタートする。ささやかながら、がっちりと期待感を増幅させる演出だ。そして突き刺さる“いけすかない”から、ほぼMCもなく、一曲一曲を大切に、噛み締めて味わうようにアルバム収録曲が順にプレイされてゆく。力強さと滑らかさを併せ持つ、盤石のアンサンブル。“いけすかない”の中でだけ「『IN A LIFETIME』へようこそーっ! 最後まで楽しんでいってください!!」と叫ぶように挨拶を投げ掛けていた田中の歌声も、音源に残された若き艶やかさと瑞々しさを彷彿とさせる響き方をしている気がした。とても不思議な感覚だ。元リーダーの西原誠(今回、会場にも足を運んでいたそうだ)が脱退し、現行の5ピースとなって鍛え上げられてきたバインのサウンドなのに、やはり往時にタイムスリップさせる何かがある。

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それにしても、あらためて『Lifetime』は凄いアルバムである。序盤のうちに、“スロウ”から煌めきと灼熱を宿した“SUN”、そして“光について”と連なる、紛れもないロック・クラシックの手応え。分かり合えない心の摩擦と、それでも生きてゆくという諦観が織り込まれた歌の数々が、雄弁なメロディとダイナミックなロック・サウンドに乗せて次々に放たれる。口当たりの良いポップ・ソングかと言えば、決してそんなことはないだろう。そもそも、音楽や歌を求める心は、伝える人/受け止める人しだいでバラバラなものだ。だから世の中には数えきれないほどの音楽や歌があり、今日も生まれ続ける。「分かり合えない」ことが音楽で分かち合われるという奇跡の上に、『Lifetime』の評価や高いセールスは成り立っていた。それは恐らく、バンドにとっても重要な基準・指標となったはずだ。

インタールード的に挟み込まれるインスト“RUBBERGIRL”を経て、ミドルテンポのサイケ感に包まれる《優しくなれたら/愛を誓おう》の歌詞は“Lifework”。そこからアグレッシヴなバンド・グルーヴにエモーションが燃え盛る“25”、そしてカヴァー曲“青い魚”と、濃密な時間が続く。多種多彩な音響美コントロールが、キャリアの深みを感じさせていた。再びファンキー&ソリッドに弾けるインスト“RUGGERGIRL No.8”からのシングル曲“白日”は、インストの勢いがそのまま活かされて傾れ込むようなパフォーマンスだ。だーりーこと西原が残した楽曲“大人(NOBODY NOBODY)”は、どこかとぼけたようにスモーキーなブギーを転がしつつ、現実に大人になったバンドの味わい深さも加味されている。終盤の局面を担う、西川作の名曲“望みの彼方”が披露されると、オーディエンスからは“光について”や“白日”を凌ぐほどの長い拍手が贈られていた。そして最後には、拭えない違和感を抱えながらも力強く足を踏み出すようなグルーヴの“HOPE(軽め)”。15年の時を経ても確かな効力をもたらす、見事な再現ライヴであった。

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この後にもパフォーマンスは続いたのだが、そちらは観てのお楽しみと言うことで、演奏曲に触れることは差し控えたい。MCらしいMCもなく、一曲一曲にすべてを語らせるような『Lifetime』再現とは打って変わり、田中は堰を切ったように喋りまくっていた。その中では、ツアー・グッズの煎餅に触れて「グレイプバインと一緒に歳を取ってるファンの歯が、試されてる」といった冗談混じりの言葉も飛び出す。人の間にある、思いのズレや温度差を容赦なく暴いてしまうバインのロックは、すべての人にとって口当たりの良い表現ではなかったかもしれない。しかし実は、いつの日か身を救うワクチンのように、機能することもあるのではないか。音楽や歌は、そういう働きをもたらすことが往々にしてあるから、奥が深く、一筋縄ではいかないのだ。レーベル移籍(と同時に新たなマネージメント契約も。詳細はこちらのニュース記事を→http://ro69.jp/news/detail/102182)についても発表され、グレイプバインの過去と現在、未来を繋ぐ大切なステージであった。機会に恵まれた方は、ぜひそんな『Lifetime』再現ライヴを、じっくりと見届けて欲しい。(小池宏和)
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