椎名林檎@横浜 大さん橋ホール

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昨年の『班大会』『党大会』に引き続き、デビュー15周年の一環として企画されたライヴ。他アーティストへの提供曲をセルフ・カヴァーしたアルバム『逆輸入 ~港湾局~』のリリース・タイミングである5/26及び27には横浜で『ちょっとしたレコ発2014 ~横浜港へ逆輸入~』が、そしてニュー・シングル『NIPPON』のリリース(6/11)を目前に控えた6/5及び6/6には大阪で『ちょっとしたレコ発2014 ~大阪港へ逆輸入~』が、それぞれ行われる。ステージ上の椎名林檎が語ったところによれば、公演タイトルはファンからの要望の声に含まれていたフレーズをそのまま拝借したのだそうだ。今回レポートをお届けするのは横浜公演の2日目の模様であり、WOWOWでの生中継も行われた。会場は、「くじらのせなか」の愛称で親しまれている横浜大さん橋の、突端に位置する多目的ホールである。横浜港を一望しつつ会場に足を踏み入れる、そんな粋な計らいが、高揚感をもたらしてくれた。以下本文は、演奏曲の表記などを含める内容なので、大阪公演を楽しみにしている方は閲覧にご注意を。
椎名林檎@横浜 大さん橋ホール
まず今回のバンド・メンバーは、椎名林檎(Vo・G)、林正樹(Piano)、鳥越啓介(B)、みどりん(Dr)、佐藤芳明(Accordion)という顔ぶれ。時折シンセ機材も使用されるものの、この5人のジャジーなアコースティック・アンサンブルが基本となっている。白いスーツ姿のバンド・メンバー、そして白いロング・チャイナドレス姿が艶やかな椎名林檎が揃って登場し、パフォーマンスがスタートだ。1998年5月27日にシングル『幸福論』でデビューした椎名林檎は、この序盤のうちに「いらっしゃいませ。本日で、16年目のキャリアが重なってきた、ということでございます」と挨拶し、板張りのフロアに椅子が並べられたフロアからは「おめでとー!!」 と声が上がる。「今日は、どこまでユルくやれるか、という挑戦でございます」と林檎が語るとおり、無駄な力みもなく、凄腕バンドの演奏を遊び尽くす、という趣のステージになっていった。
椎名林檎@横浜 大さん橋ホール

ステージ上のリラクシンなヴァイブと遊び心は、選曲からもひしひしと伝わってきた。『逆輸入 ~港湾局~』のナンバーを中心にプレイするのかと思いきや、往年のアルバム曲やシングルのカップリング曲、更には東京事変のレパートリーもふんだんに配した、椎名林檎作品を広く見渡すセット・リストなのである。大掛かりな演出もなく、照明も効果的ではあるが光量や動きは控えめで、さらりと披露される驚きの楽曲に酔いしれるばかりの時間が育まれる。それこそ横浜・中区あたりのジャズ・バーにふらっと入ったら、なんかとんでもないバンドが演奏していたみたいな、そういうムードが立ち籠めてゆくのである。マーチというかジンタというか、そんな賑々しいアレンジにアコーディオンの旋律が情感を呼び込む“母国情緒”は、『ドラゴンクエスト』のテーマ曲へと移行して各メンバーのソロが盛り込まれる。めちゃくちゃ楽しい。

つまり、林檎が語ったように「ちょっとした」感を全力で狙っているライヴなのであって、実際にやっていることは全然ちょっとしてないのだ。凄いのだ。スウィンギン・グルーヴが爆走を始める“喧嘩上等”は、ニルヴァーナの“Smells Like Teen Spirit”という林檎のルーツにリレーし、鳥越のボウイング奏法ベースがあわや狂気にタッチしそうになる。かと思えば、佐藤のアコーディオンによる甘いイントロに導かれた“愛妻家の朝食”は温かくオーディエンスを包み込み、林檎自身がアコギを抱えて披露する“とりこし苦労”はレトロなソウル歌謡フレイヴァーがホール内を満たしていった。ニュー・シングル『NIPPON』に収録されている、今回のバンド=八九三のために書き下ろしたというカップリング曲“逆さに数えて”もプレイされる。
椎名林檎@横浜 大さん橋ホール

『逆輸入 ~港湾局~』収録曲などの提供曲セルフ・カヴァーでは、音源での大友良英ビッグ・バンド・アレンジを5人で華やかに再現してしまうような“主演の女”、栗山千明への提供曲“青春の瞬き”はビットチューン風エレクトロニカの同期を交えてプレイされ、ともさかりえへの提供曲は『逆輸入 ~港湾局~』に収められた“カプチーノ”のみならず、深みのあるアンサンブルで歌のエモーションを増幅させる“少女ロボット”も披露された。林檎が一旦ステージから捌けてお色直しを行っている間に、バンドの4人でインスト曲“望遠鏡の外の景色”を届けてくれるのも嬉しい。ビビッドに跳ね回る林のピアノをここで目一杯堪能し、ステージ全編に渡ってこの凄腕バンドの演奏をタイトかつキャッチーに纏め上げていたみどりんのドラムスは、最高の一語に尽きるものだった。
椎名林檎@横浜 大さん橋ホール

そして、シャンソンやジプシー・スウィング、ボッサ風ラテン・ジャズに灼熱のサンバ・グルーヴといっためくるめくアレンジの曲調を、ときに愛らしく、ときに優雅に、ときに荒ぶるヴォーカルで乗りこなしていった椎名林檎。今回の公演では、桟橋が揺れやすいことに配慮してオーディエンスが椅子から立ち上がることは禁止されていたのだが、もうそういうプレイなんじゃないかというぐらい堪えるのが大変だ。そこに「東芝EMIガールズにおける私の相方、宇多田ヒカル嬢が、結婚しました。このやり場のない胸の高鳴りを、今ここで共有して頂けませんか?」と投下される“traveling”のカヴァー。林檎一流の祝福に、割れんばかりの大喝采が巻き起こったのは言うまでもないだろう。かつて一夜限りで結成された大型ユニットを振り返り、何より「椎名林檎作品」という切り口で自由に軽やかに、全力で音楽を遊び尽くす一夜。『党大会』のクラッシーなアニヴァーサリー感とはひと味違う、なんとも贅沢で楽しい、記念日ライヴであった。(小池宏和)

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