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    ACIDMAN@Zepp Tokyo

    ACIDMAN@Zepp Tokyo - all pics by 藤井拓all pics by 藤井拓
    ACIDMANにとって初の試みとなった、ファン投票によりセット・リストを決定する『ACIDMAN LIVE TOUR “ANTHOLOGY”』の開催。5/22の仙台Rensaを皮切りに全国6公演のスケジュールで進められて来た同ツアーは、Zepp Tokyoのファイナルへと漕ぎ着けた。大木伸夫(Vo・G)が「今回は、あっという間だったなあ。6本しかやらなかったんですよ」と名残惜しそうに言葉を漏らすと、オーディエンスから「もっとやれー!」と声が飛ぶような、親密なライヴ空間がそこにはあった。投票という形で多くのファンの思いをまっすぐに受け止め、生命の神秘や真理の裏側にまで思いを馳せるようなACIDMANナンバーが次々に繰り出されるのだから、もちろん濃密な内容ではあったし、バンドのヴォルテージもオーディエンスのレスポンスも尋常ではなかった。けれどもその実、とても風通しが良い雰囲気のライヴでもあったのだ。それほど、ファンがACIDMANの楽曲へと寄せる理解・愛情の深さが、肌の感触として伝わって来る一夜であった。

    オープニングSEの“最後の国(Introduction)”に満場のハンド・クラップが折り重なり、そこに大木伸夫、佐藤雅俊(B)、浦山一悟(Dr)が登場する。投票の上位30曲の中から更に厳選して決定したというセットリスト、その1曲目は、大木が爪弾くイントロのギター・フレーズが物語の幕開けを運ぶ“Stay on Land”だ。「今日という日は2度と来ません。戻ってきません。だから一分一秒を大切に楽しみましょう! 最後までよろしく!」と大木が挨拶を投げ掛け、続いて一悟の威勢の良い4カウントに導かれるのは、大木の言葉を裏付けるような“式日”である。オーディエンスが曲間を繋ぎ止めるように手を打ち鳴らし、ノンストップで大木のディレイ・リフとサトマの動き回るベース・ラインが交錯する“migration 1064”、まだ止まらない、ACIDMANらしく静と動のコントラストを一息に駆け抜ける“スロウレイン”で、世界に生の意味を吹き込んでみせた。

    ACIDMAN@Zepp Tokyo
    今回のツアーの趣旨をあらためて説明しながら、「俺たちのアイデアでも何でもなくて、俺たちの友達でもあるTHE BACK HORNの『マニアックヘブン』をパクリです(笑)」とぶっちゃけトークを浴びせかける大木。楽しんだもん勝ちだよ、と念を押すように告げると、そんな楽しく軽やかなMCからも瞬く間に再び鮮烈な爆音の中へと飛び込んでゆく。“id-イド-”から“River”、そして“プラタナス”と、アルバム『and world』の収録曲が固め撃ちされる中、咆哮を挙げるような歌声がオーディエンスのOIコールを自然発生させていた。10年前のシングル収録曲“静かなる嘘と調和”を披露して懐かしんだかと思えば、「もうひとつ、アルバムに入っていない曲でして、懐かしいどころかライヴでやったことのない曲です。見事にランクインしました」と冒険的なグルーヴで爆走する“コーダ”へ。投票にかけるファンの熱意も最高なら、演奏するのが楽しくて仕方がない、とばかりに暴れ太鼓を繰り出す一悟の姿も最高だ。

    そんな一悟が、東京を拠点に活動し始めた頃を振り返り、下北沢GARAGEでの動員記録を打ち出したというエピソードも語りながら披露するのは、デビュー・アルバムに収録された“揺れる球体”である。そして“プリズムの夜”から“OVER”という、ACIDMANの精微でジェントルな演奏力も際立つ楽曲群は、しっかりと中盤戦のハイライトを刻み付けていた。大木は「奇麗なままの心では生きられないけれど、だからこそ人は奇麗なものを求めるんだと思います」「生きとし生けるものはすべて死にます。そんなことを歌っても聴きたくない、という人もいるかもれないし、俺も昔はそうでした。でもそう思うことで、世界が変わるんですよ。毎日がとても愛おしいものになって」と、自らが生み出して来た楽曲群を噛み締めるように語り“季節の灯”へと向かう。それは、なぜ素晴らしい音楽が生み出され、素晴らしい音楽が求められるのか、ということの本質とも密接に関わる話だろう。過去にACIDMANが繰り広げてきた文字通りに生々しいライヴ体験や、「second line」シリーズを引き合いに出すまでもなく、この夜にACIDMANが披露する往年の楽曲群もまた、確かに「生きて」いたのだ。

    ACIDMAN@Zepp Tokyo
    「いやー、大木はいい曲をたくさん書いてきましたねえ」。思わず、といった調子で言葉にする一悟である。学生時代に同じフォークソング部に所属しながら大木とバンドを組まなかったことを振り返り、「でも先見の明がありまして。この男について行きさえすれば、食いっ逸れることはない、と」。更には、大木から頻繁に呑みに誘われてきたことを語りながら「一悟くんのこと、まだよく分かってない部分もあるから、って。仕事のときだと仕事の話ばっかりになっちゃうから、って言ってて。胸アツになりまして……それが、だんだん雑になってくるんですよね。夜中に、駅名と、店の名前だけメールするの、やめてもらえますか?」といったふうに、どうも今回はぶっちゃけネタが多めなMCシーンである。ああだこうだと3人で言い合いながらも、いざ終盤戦に突入すると煌めきと迫力のサウンドスケープを一気に繰り広げてゆく“銀河の街”。そしてミラーボールの光が降り注ぐ中での、昨年新たに立ち上げた事務所の名前の由来ともなった“FREE STAR”へ。ギラッギラのギター・リフから迸る“風、冴ゆる”に続いては入魂の“ある証明”でオーディエンスの大歓声を誘い、本編ラストには“and world”で到達感を振り撒きながら、《「光り在れ」》と祈りを深く染み渡らせるのだった。

    アンコールでは、「ルール違反やってもいいですか?」と4月にリリースしたシングル曲“EVERLIGHT”を切り出し、“ドライド アウト”も挟み込むと、目一杯パンキッシュに弾ける“培養スマッシュパーティー”へ。投票上位30曲にランクインしながら、これまでの日程ではセット・リストに含めることができなかったという“酸化空”については「インディーズ時代のスタッフが、やれ、やれってうるさいんですよ(笑)」と語りつつ披露する。今回の投票に用いられたモバイル・サイト「ACIDMAN MOBILE」では、終演直後に投票結果が発表されることもアナウンスされ、大木は「覗いてみると、面白いですよ。他のバンドの倍ぐらいのコンテンツでやってますからね。楽しくて。そのことを伝えたいがためのツアーでした」と告げると、この日も全23曲を堂々締め括るべくドラマティックに披露されたのは“ALMA”だ。命と意味を吹き込まれた音楽が、命と意味を持つすべての人々によって支えられたステージであった。メンバーも意欲を見せていたけれど、またこの企画に出会えることを楽しみにしていたい。(小池宏和)

    ■セットリスト

    01.Stay on Land
    02.式日
    03.migration 1064
    04.スロウレイン
    05.id-イド-
    06.River
    07.プラタナス
    08.静かなる嘘と調和
    09.コーダ
    10.揺れる球体
    11.プリズムの夜
    12.OVER
    13.季節の灯
    14.銀河の街
    15.FREE STAR
    16.風、冴ゆる
    17.ある証明
    18.and world

    (encore)
    19.EVERLIGHT
    20.ドライド アウト
    21.培養スマッシュパーティー
    22.酸化空
    23.ALMA
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