電気グルーヴ@LIQUIDROOM ebisu

電気グルーヴ@LIQUIDROOM ebisu
結成25周年の電気グルーヴが、リキッドルームの移転10周年企画ライヴに出演するというダブル・アニヴァーサリーの一夜だが、さすがにそこは電気グルーヴ。ただアニヴァーサリーを祝ってハッピーなまま終わる、という内容にはならない。いや、結果的には超楽しかったしカッコ良かったけど、無軌道ロングMC連発で爆笑させたりモヤモヤさせたり、往年の名曲だけには留まらない選曲の遊び心も込められていて、一筋縄ではいかない電気の厄介さを楽しみ尽くすようなステージになった。

この日のオープニング・アクトを務めたのは、石野卓球が日課のネットサーフィンで発見し自ら声を掛けたという23歳のシンガー・ソングライター、町あかりである。「みなさんこんばんは~!」と発せられる第一声からして、声の張りと物怖じしない肝の据わり方がビシビシ感じられたのだが、ピコピコハンマーを振りかざして歌う“もぐらたたきのような人”がもう、自作のチープなエレクトロ・トラックに昭和歌謡テイストこってりのメロディ、そして中毒性の高いフックも盛り込まれてオーディエンスのハートを射止めてしまう。サブカル・アーティストと呼ぶには余りにも堂々とした歌声に小節を効かせ、“のっぴきならない事情”、“さっきも聞いたわその話”といったナンバーでは、「正直」は難しくておもしろい、というテーマをどキャッチーなパフォーマンスに仕立て上げてゆく。衣装も手縫いというDIY感と、そこで浮き彫りになる地力の高さで大ウケであった。後に卓球は「すごいでしょ! あのポンチャック感ね!」と語っていたが、まさにそれ。この日、彼女の物販でCDは完売してしまったそうだ。

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そして「こんにちは、電気グルーヴです」のお馴染み電子音ヴォイスと共にステージの幕が開くと、石野卓球、ピエール瀧、サポートのagraphこと牛尾憲輔が揃って25周年ロゴがプリントされたシャツ姿で待ち構えている。のっけから扇動的なシンセ・フレーズを飛ばしまくってブレイクを組み込む“Hello! Mr. Monkey Magic Orchestra”が「HEY!!」と合いの手を誘い、粘り気のあるボトムがアグレッシヴなダンス性を牽引しつつ“SHAME”以降は近年のシングル曲を連打。《すべての者にハラキリを! すみれの花にカマキリを!》と熱の籠った声で押韻を決める瀧は螳螂拳の構えも繰り出していたが、今回は全編に渡って瀧のヴォーカルが絶好調だった。妖しくバレアリックなサウンドの広がりで包み込む“モノノケダンス”に続いては、“Missing Beatz”で卓球も前線に躍り出てダンスを披露しつつ瀧との掛け合いヴォーカルを届けてくる。序盤から《今の絶頂感 つまり全能感》というフレーズそのままの熱狂を生み出してしまっていた。

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「リキッドルームが移転から10周年ね。今日まさに、7月14日にオープンしたらしいよ!(卓球)」「その前は亀戸にありました(瀧 ※本当は新宿です)」「今のが、瀧の面白さのMAXです。これぐらいの方が儲かるんだよ(卓球)」といった調子で、トラックが鳴っていないところでも飛ばしまくる2人。「フェスとかだと、喋れないじゃん。今日はメガ盛り。こだまの森。20周年のときに喋り過ぎて、客にドン引きされたけど」と言いながら、今回は何かと瀧について「面白い雰囲気だけでテレビ出てるじゃん! しかも音楽やってるって安全圏でさ。これからはそういうとこを暴いてくって決めた!」といった風に、やたら活き活きと悪態をつきまくる卓球である。一方、モノマネの無茶ぶりにも応えながら瀧は大人の対応を見せていたが、そんな無軌道MCの勢いがそのままナンセンスな言葉遊びの応酬へと連なるような“どんだけ the ジャイアント”からは、『YELLOW』期の楽曲群を立て続けに放つ。ダークなレイヴ感に彩られる“ア.キ.メ.フ.ラ.イ.”を経ての“The Words”と、ここまでの選曲はつまり電気25周年の中でも、LIQUIDROOM ebisuの10年と共に歩んで来た楽曲たち、というところだろうか。

電気グルーヴ@LIQUIDROOM ebisu
「今年は25周年という金儲けを思いついて……」と、今秋の新ツアー「塗糞祭」開催について告知する卓球(詳細はこちらのニュース記事を→http://ro69.jp/news/detail/105752)。「今回のタイトルは一番いいよ。これまで(のツアー・タイトル)は、『うんこわしづかみ』とか、ちょっと牧歌的だったなと思って。今回は深みがあって、祭だからちょっと神聖な、宗教的な感じが」と、変なところで熱弁を振るう。そして「同じメロディでやってきた周年の曲があって、今回はハッテン場的な要素が(笑)。男同士でやってきたみたいな感じで」と披露される“25周年のうた”は、歴代のアー写やアートワークのシンボルを用いたVと共に、《すでに四つん這い》(筆者聴き取り)といった濃いめのフレーズが飛び交うナンバーだった。その直後、ふいに瀧の独壇場と化すステージでは、『アナと雪の女王』(吹替版)で彼が演じていたキャラクター=オラフによる劇中歌“あこがれの夏”を熱唱。agraphが背後から瀧の腹に手を回し、横隔膜を揺さぶるようにして(実際の効果のほどは知れないが)ヴィブラートを効かせる。続いて人生の“俺が畳だ! 殿様だ!”もタテに弾けるアップリフティングなビートで届けられるなど、瀧のショウ・タイムが続いた。

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先に触れたように瀧もターゲットにされていたのだが「夏はフェスにも出るけど、ここに来てるやつは来ないで! どうせ、いつもと同じ曲、とか文句言うんだろ!」「4人ぐらいしか分かってないんだろ! それで結構だよ。こちとら高めでやってんだよ。高め恭子だよ!」といったふうに、オーディエンスもひっくるめて嬉々とした無差別乱射を続ける卓球である。結局、その流れ弾も半分ぐらいは瀧にヒットしてしまうので、「なんか今日、生け贄感がすごい」「お前、ぜんぶ俺に八つ当たりしてるだろ」と瀧もエネルギーの削られっぷりを嘆いていた。そんな調子で爆笑MCが長々と続き楽曲の間が空いてしまったのだが、“エキゾティカ”からシンセのレイヤーが凄まじい“Oyster (私は牡蠣になりたい)”、そして“スマイルレス スマイル”に“Nothing’s Gonna Change”とドラマティックに訴えかけるナンバーの数々でがっちりとオーディエンスを再燃させてしまうさまは圧巻だった。“モテたくて・・・”に「モテたくて、耳が聴こえないフリですよ! モテたくて、STAP細胞ですよ! モテたくて、ディズニー映画ですよーっ!!」と自爆覚悟のフレーズを持ち込む瀧は、最後にも“ジャンボタニシ”のシュールなテクノ演歌熱唱を繰り広げて見せた。

アンコールに応えても、「じゃあ、ありがとうございました! みんな美容師だと思うけど! 美容師ナイト(この日は月曜日だったので)」「EDMっていうのが流行ってるんだって。江戸前?」「25年やって、音楽性の不一致で解散とかありえねえだろ!」と好き勝手に喋りまくる卓球だったが、ここで放たれるのはブロステップもかくや、というサービス精神旺盛なアレンジで華々しく踊らせる“富士山”(『Missing Beatz』のカップリングに収められていたヴァージョンに近い)だ。なんだかんだで、いやその強烈な批評精神があればこそ、笑いと共に最高のサウンドを届けてくれる電気グルーヴだった。この25周年イヤー、あちらこちらで大暴れを見せてくれそうだ。(小池宏和)

■セットリスト

01.Hello! Mr. Monkey Magic Orchestra
02.SHAME
03.SHAMEFUL
04.モノノケダンス
05.Missing Beatz
06.どんだけ the ジャイアント
07.ア.キ.メ.フ.ラ.イ.
08.The Words
09.25周年のうた
10.あこがれの夏
11.俺が畳だ! 殿様だ!
12.Pang Pang Pang
13.エキゾティカ
14.Oyster (私は牡蠣になりたい)
15.Upside Down
16.スマイルレス スマイル
17.Nothing’s Gonna Change
18.モテたくて・・・
19.ジャンボタニシ

(encore)
20.富士山
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