真夏のWOW@新木場STUDIO COAST

7月の第3月曜日(祝日)である海の日に、2年連続で開催を迎えたRIP SLYMEオーガナイズの企画イヴェント「真夏のWOW」。後にRYO-Zがステージ上で語っていたところによれば、「統計的に降水確率が低い! 万が一雨が降っても、屋内の巨大なステージ!」ということで、屋内にはARENAとISLAND、さんさんと夏の陽光が降り注ぐプールサイドにはWATERという大小3つのステージが同時稼働し、万全の体勢で真っ昼間からのパーティが繰り広げられる。音楽ジャンルと世代を越えた出演ラインナップが、結成20周年(現メンバーが揃うのは1998年)のリップと次々にコラボを果たすさまも、実にスペシャルで楽しい1日であった。本稿では、ARENAの模様を中心にレポートしていきたい。

開演時間を迎え、ARENAのステージで繰り広げられたのはTEAM G-SHOCKによるブレイキングとBMXのパフォーマンスだ。アップリフティングなトラックと煽りMCが響き渡る中、ダンス・チームのTHE FLOORRIORZとBMXライダーの内野洋平、北山努らがアクロバティックな技を披露してくれる。一方、WATERステージに赴くと、揃いのシャツで登場したアスタラビスタの面々が、小ぶりなステージにキュートなTEMPURA KIDZも招き入れてワイワイと“13日の金曜日”を放つ飛ばしっぷり。その後にもこちらのエリアには、DJ FUMIYAやILMARIといったリップDJsに加え、DJ Kyoko、JEDI、BACK TO SCHOOL、SONPUB、DJ MAAR、HABANERO POSSEらが出演。JEDIが“スーダラ節”ダブを投下した後に姿を見せた2年連続出演のPESは、ギター弾き語り+トラックで風通しの良い歌を奏でていた。

ARENAにライヴ・アクト出演を果たしたAPOTHEKE(アポテケ)は、ベルリンで結成されたというゲイ・ポップ/アート・ユニットで、滑らかなダンス・チューンがオーディエンスを惹き付ける。とりわけヴォーカリスト=Shingoの、シルキーでソウルフルな、性別も軽く飛び越えてゆくような歌声が素晴らしい。ゲストも含めて妖艶でセクシーなダンサー陣がパフォーマンスに華を添えていたが、シルバーのコスチュームに身を包んでいたダンサーが仮面を外すと、そこにはなんとRIP SLYME・SUの姿が。ラップも加えてオーディエンスの興奮を更に掻き立てるのだった。しかし、開場時間前からスタジオコーストの外に長蛇の列を成していた来場者の入場が滞ってしまい、この辺りまでのアクトを見逃してしまった人が多かった様子は何とも残念だった。ドイツ語で薬局を意味するという名前のAPOTHEKEは、今後より多くの人に触れて欲しいアクトである。

この日最初のバンド出演となったのはOKAMOTO’S。どこまでもストレートなロックンロールなのに、“SEXY BODY”に始まって“ラブソング”なども披露されるパフォーマンスは見事な瞬発力と適応力を発揮して「真夏のWOW」のフロアを沸かせてゆく。リップの結成20周年や、先日40歳の誕生日を迎えたRYO-Zに触れて“HAPPY BIRTHDAY”をプレゼントし、“Walk This Way”カヴァーが“楽園ベイベー”のサビに連なるという技ありメドレーも最高だ。そして最後にはリップ全員をステージに迎え入れ、8/27にリリース予定のコラボレーション・アルバム『VXV』収録の“Wanna?”をライヴ初披露。オカモトショウ(Vo)含めての6本マイク・リレーが炸裂した。

続いては、ジャパニーズ・ヒップ・ホップを独自のスタンスで支え続けて来たスチャダラパーが登場。BOSE(MC)、ANI(MC)、SHINCO(DJ)の3人に、ロボ宙(MC)も加わったステージである。肩の力が抜けたスチャ唯一無二のヴァイブを振り撒きながら“Under the Sun”を切り出し、「RIP SLYMEがここまで育て上げたお客さんね。やりやすい。昔はSay,Ho!とか無かったからね。でも、リップも若手だと思ってたら、今や全然若くないっていうね(笑)」と語るBOSE。近作“スチャダラメモ”では一転、ファットなビートに乗せてバッサリと世相を斬り、「次にやる曲は、今年で20周年なんですよ。古びてんのか古びてないのか……心のベスト10第一位は、こんな曲だった!」と繰り出されるのはもちろん“今夜はブギー・バック(smooth rap)”だ。そしてダメ押しとばかりに、「真夏のWOW」にも相応しい“サマージャム’95”が、EVISBEATS feat. 田我流“ゆれる”のジャジーなテイストをフィーチャーする形で届けられる。最高だ。

そんなスチャのヒップ・ホップ・マナーに感化されたような熱いステージを繰り広げたのは、RIP SLYMEにとってFUNKY GRAMMAR UNIT (FG)の先輩格でもあるRHYMESTERだ。“The Choice Is Yours”の迸るメッセージから“付和Ride On”で辺り一面を跳ね上がらせるオープニングを経て、宇多丸は「FGは一番商業的に成功したグループで。昔は、ポップだって結構叩かれたんだけど、どっちが強かったのかってことですよ!」と声を上げる。RYO-Zからのリクエスト(3コーラス目で泣くらしい)という“POP LIFE”やライムス流のサマーチューン“フラッシュバック、夏。”を披露した後には、“Wack Wack Rhythm Island”と“肉体関係 part 2”というコラボ・ナンバーをメドレー気味に放ち(《からみ合う2匹のアナコンダ》が《アナと雪の女王!》になっているところも抜け目ない)、「RHYMESTERの曲だけど、日本のヒップ・ホップやってる奴みんなが、俺の曲だって思ったらしいんですよ」と告げながら感涙の“ONCE AGAIN”でフィニッシュしてみせるのだった。

2組目のバンド・アクトにしてARENAトリ前の出演を飾ったのは、デビュー25周年の真心ブラザーズ。YO-KINGと桜井秀俊、サポートには岡部晴彦(B)と伊藤大地(Dr)という直近ツアー同様の4ピース編成で、まさに触れる者を吹き飛ばすような“突風”から“高い空”とファンキーな高速回転ロックンロールを放ちまくる。桜井と岡部によるリフのコンビネーションが豪快な“マイ リズム”までを披露すると、「カッコ良くてすみません!(YO-KING)」「僕はギターを弾いている人間で、ラップする音楽に疎いんですが、聴いていると無条件に盛り上がります。素敵なイヴェントに呼んで頂いてありがとうございます!(桜井)」「……ラップ、やってなかった?(YO-KING)」といった調子で、あわやMC Saku登場かという流れに。“I’M SO GREAT!”で駆け抜けた後には、「リップが夏フェスに呼んでくれたってことは、あの曲をやれってことですよ!」と4人で豊穣なグルーヴを構築する“ENDLESS SUMMER NUDE”が喝采を誘い、時間の余裕を見ながら“どか~ん”も詰め込んで最後は“愛”という、真心のロック・グルーヴ・サイドを見せつけるショウであった。

ISLANDステージの1日は、DJ uttori、TEMPURA KIDZのDJ P→★、Little Glee Monster、ガングロキッズ、バクバクドキン、西村ひよこちゃんといった顔ぶれが華やかに賑わし、ARENAには再度、TEAM G-SHOCKの面々が大勢のオーディエンスを前にパフォーマンスを繰り広げて嬌声を浴びる。いよいよ最高潮というところに堂々登場したのは、もちろんRIP SLYMEである。《Wonderful time~♪》というILMARIのスウィートなフレーズが聴こえたのも束の間、初っ端の“楽園ベイベー”はダブステップ黎明期を思い出させる荒削りで暴力的なアレンジ。続いてレーザーが迸る中での“Good Times”からテーマ曲“真夏のWOW”という、いきなりトップ・ギアのカチ上げ方である。「二十歳はふりそでーしょん、四十路はやさぐれーしょん!」「すっごい古い曲とか、聴いたことあってもそのヴァージョンは知らない、っていう曲もやるかも知れない!」というRYO-Zの言葉どおり、ここでステージにYO-KINGを迎えて披露されるのはメジャー・デビュー・アルバム収録の“光る音”である。史上2度目の生コラボとなったそうだ。

「みんなちょいちょい、(場内でプレゼントされていた)風船、飛ばすよね〜。ゴム? きら~い」といったSUの軽い下ネタも繰り出されつつ、“AH! YEAH!”や“ジャングルフィーバー”ではトリッキーなハンド・クラップを難なく打ち鳴らして食らいついてゆくオーディエンスである。“レッツゴー7~8匹”でフィーチャーされるのは当然スチャダラパーであり、6MC+2DJの賑々しいパフォーマンスが披露される。その後もリップの面々は「みんな水分補給とってる?」「生命保険入ってる?」といった言葉遊びも絶好調の状態で感謝の言葉を投げ掛け、揃いのステップを踏むディスコ・ポップ“SLY”からヤクルト「ミルージュ」のCM曲“いつまでも”と楽曲を届けていった。「みんな知ってる? 乳酸菌って、生きてるんだよ! これで俺たちも、健康的にステージを去ることが出来ます……ええ〜っ、じゃなくて!?」「イエーッ!!」というオーディエンスとの掛け合いも決まり、本編ラストは“熱帯夜”でこってりと締め括られるのだった。

更にアンコールでは、「みんな疲れてるし、最後にメロウなやつをやる……と思ったでしょ。すっごい激しいやつ、やっちゃっていいですかー!!」と、これまた凶悪なアレンジの“Super Shooter”から“HOTTER THAN JULY”へと連なるミックス、そして壮観なタオル回しの光景を巻き起こす“JOINT”のSONPUBによるリミックスという、どこまでもサディスティックにアゲ倒すリップのステージであった。ジャパニーズ・ヒップ・ホップの歴史を繋ぎ、何度でもジャンルの壁を飛び越えるリップは、同時に、全力で自由気ままな遊びを極め続けるリップでもあった。RYO-Zは最後に「また来年も会いましょう!」と告げていたので、次回『真夏のWOW』開催を心待ちにしていて欲しい。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする