デビュー5周年イヤーを祝うべく、今年は対バンツアーやシングルコレクションのリリースなどスペシャルな企画が目白押しだった阿部真央。そのラストを飾るのがこの武道館公演ということで、この日はSOLD OUTの大盛況。開演前からホール内のどこからともなく「あべま!」コールが沸き起こり、会場に集まったファンの温度も尋常じゃない高まりをみせている。そして定刻を5分ほど過ぎた頃、暗転した場内にSEが鳴り響いてバンドメンバーとともに阿部真央が登場。最新シングル“Believe in yourself”でライヴの口火を切ると、力強くも重厚なバンドサウンドに乗って、阿部真央の伸びやかでハリのある歌声が武道館の隅々まで届いていく。そのまま“ふりぃ”へ繋げると、歌い出しの一声が発せられるなり客席から沸き起こる大歓声。パワフルな歌声とオーディエンスのコールがひとつになり、武道館の天井を突き抜けんばかりの高揚感に彩られていく。一転して静謐なアコギの音色で幕を開けた“貴方の恋人になりたいのです”では、切ない恋心をしっとりと歌い上げるあべま。初っ端から静動自在のヴォーカルを響かせ歌い手としてのポテンシャルの高さを見せつけていく彼女であったが、その後のMCでは「この日をずっと待っていました。おちゃらける余裕がないくらい感動しています!」と素の表情で初の大舞台に立った感動を露にするのだった。
そんな彼女の想いが極限まで溢れ出したのが、“それぞれ歩き出そう”。10月22日にリリース予定のこの曲は、映画『小野寺の弟・小野寺の姉』の主題歌として書き下ろしたもの。映画の世界に自らの母親との関係を重ね合わせたということで、「湿っぽくはなりたくないんだけど……」と前置きしながら女手ひとつで自らを育ててくれた母親への思いを明かしていく。そして両脇のビジョンに歌詞が映し出される中で楽曲を披露。《今までの事思い返すと 涙滲むのはどうして?/キレイなだけじゃ語れない 足跡を胸にまたそれぞれ歩き出そう》というシリアスな歌が、軽快で温かなサウンドと相まって会場を包み込んでいくさまは、とても感動的だった。あべま自身も感極まったのか、曲の終盤には彼女の瞳に光るものが。しかし微塵も声を震わせることなく、最後まで笑顔で歌い切ったところにも彼女の強さと美学が感じられて、また良かった。
「涙を吹き飛ばそうぜ!」とスタートした“loving DARLING”からはクライマックスへ向けて怒涛の攻勢。会場一丸のハイジャンプとシンガロングを導いた“世界はまだ君を知らない”、腕を高々と突き上げて闘志あふれる歌声を響かせた“戦いは終わらない”、アッパーなバンドサウンドとともにパワフルな歌声を直球で届けた“伝えたいこと”などをノンストップで連打して容赦なくギアを上げていく。20曲目の“モットー。”では、今まさにライヴがスタートしたかと思えるような瑞々しくも抜けのよいヴォーカルが炸裂。お茶目におどけながらのギターソロも披露して、この場で歌える喜びを全身で爆発させていく。今年は午年、24歳の年女ということで、馬のひづめのマークを今回のイベントロゴにしたと言う彼女。「次に阿部真央のアニバーサリーイヤーと午年が重なるのは、私が84歳になったときの65周年記念なんです。なのでそれまで歌い続けられるよう頑張ります!」というMCで客席を沸かせると、本編ラストを飾ったのは“ロンリー”。ハンドマイクを客席に向けての大合唱を導いて、弾けるような歓喜に彩られたステージを豪快に締め括った。
5周年を迎えた喜びが、終始エネルギッシュな歌声とともに弾けたアクト。随所で感慨深いシーンもあったけど、それを軽く凌駕するような底抜けの明るさで3時間のステージを走り切ったところに、阿部真央というアーティストの不屈の精神を感じ取ることができた。歌の力で現実を乗り越え、己の弱さをも克服しようとする阿部真央。そんな彼女の歌声に、聴き手をひとり残らずポジティヴな未来に向かわせるような破格の強さと優しさが宿っているのは当然のように思える。それをビビッドに痛感させてくれる一夜だった。ダブル・アンコールでは来年3月から23公演におよぶ全国ツアーを開催することも発表された。この日をひとつの節目として、10年、15年と更なる歴史を刻んでいく阿部真央の軌跡を、今後も楽しみに見守っていきたい。(齋藤美穂)
■セットリスト
01.Believe in yourself
02.ふりぃ
03.貴方の恋人になりたいのです
04.19歳の唄
05.マージナルマン
06.貴方が好きな私
07.15の言葉
08.キレイな唄
09.Don't leave me
10.morning
11.always
12.for ロンリー
13.それぞれ歩き出そう
14.loving DARLING
15.世界はまだ君を知らない
16.want you DARLING
17.戦いは終わらない
18.いつの日も
19.伝えたいこと
20.モットー。
21.ロンリー
(encore)
22.モンロー
23.I wanna see you
(encore 2)
24.ストーカーの唄〜3丁目、貴方の家〜
25.母の唄