阿部真央@日本武道館

阿部真央@日本武道館
「この5年間いろんな事があって、もうダメなんじゃないか?と何度も思いました。正直、5年間もアーティストを続けられないと思っていた。でも皆さんがいるから頑張れました。もうね、嫌なことも死ぬほどあったけど、こうして皆に会えると全部チャラ!! これからも頑張っていくので宜しくお願いします 」というダブル・アンコールでのMCにオーディエンスから温かな拍手が送られる。客席を見わたす阿部真央の顔には、これ以上ないくらいキラキラ輝く笑みが零れていた――デビュー5周年を迎えた阿部真央による初の日本武道館公演。そんなスペシャルな一夜に相応しい、歓喜と感動にあふれたライヴの模様をレポートする。

デビュー5周年イヤーを祝うべく、今年は対バンツアーやシングルコレクションのリリースなどスペシャルな企画が目白押しだった阿部真央。そのラストを飾るのがこの武道館公演ということで、この日はSOLD OUTの大盛況。開演前からホール内のどこからともなく「あべま!」コールが沸き起こり、会場に集まったファンの温度も尋常じゃない高まりをみせている。そして定刻を5分ほど過ぎた頃、暗転した場内にSEが鳴り響いてバンドメンバーとともに阿部真央が登場。最新シングル“Believe in yourself”でライヴの口火を切ると、力強くも重厚なバンドサウンドに乗って、阿部真央の伸びやかでハリのある歌声が武道館の隅々まで届いていく。そのまま“ふりぃ”へ繋げると、歌い出しの一声が発せられるなり客席から沸き起こる大歓声。パワフルな歌声とオーディエンスのコールがひとつになり、武道館の天井を突き抜けんばかりの高揚感に彩られていく。一転して静謐なアコギの音色で幕を開けた“貴方の恋人になりたいのです”では、切ない恋心をしっとりと歌い上げるあべま。初っ端から静動自在のヴォーカルを響かせ歌い手としてのポテンシャルの高さを見せつけていく彼女であったが、その後のMCでは「この日をずっと待っていました。おちゃらける余裕がないくらい感動しています!」と素の表情で初の大舞台に立った感動を露にするのだった。

阿部真央@日本武道館
その後も『シングルコレクション19-24』 の楽曲を軸にキャリア総括のセットリストを展開。客席中のタオルが振り回された“マージナルマン”や“15の言葉”など初期のレアな楽曲も飛び出して、イントロが鳴るたびにオーディエンスの大歓声が沸き起こるというハイライト的なシーンが続いていく。中でも圧巻だったのが、ピアノ伴奏のみのアコースティック編成で披露された“Don't leave me”と、阿部真央ひとりがステージに残って弾き語りをした“morning”。奥深い低音ボイスがみるみるうちに切迫感を増していき、喉も張り裂けんばかりの絶唱へと変貌していくさまには、心にうごめく激情をつぶさに表現しようとするような阿部真央の熱い気概を感じ取ることができた。椅子に腰かけて歌った“always”でも、その穏やかなサウンドスケープとは裏腹に、切実なまでのエモーションを湛えた歌の密度に驚かされる。スリリングな激情も慈愛に満ちた優しさも、聴き手ひとりひとりの心の奥をダイレクトに揺さぶるような芯の強さでもって放つことができるのは、ひとえに彼女の「伝えたい」という想いの強さが成せる技なのだと思った。

そんな彼女の想いが極限まで溢れ出したのが、“それぞれ歩き出そう”。10月22日にリリース予定のこの曲は、映画『小野寺の弟・小野寺の姉』の主題歌として書き下ろしたもの。映画の世界に自らの母親との関係を重ね合わせたということで、「湿っぽくはなりたくないんだけど……」と前置きしながら女手ひとつで自らを育ててくれた母親への思いを明かしていく。そして両脇のビジョンに歌詞が映し出される中で楽曲を披露。《今までの事思い返すと 涙滲むのはどうして?/キレイなだけじゃ語れない 足跡を胸にまたそれぞれ歩き出そう》というシリアスな歌が、軽快で温かなサウンドと相まって会場を包み込んでいくさまは、とても感動的だった。あべま自身も感極まったのか、曲の終盤には彼女の瞳に光るものが。しかし微塵も声を震わせることなく、最後まで笑顔で歌い切ったところにも彼女の強さと美学が感じられて、また良かった。

「涙を吹き飛ばそうぜ!」とスタートした“loving DARLING”からはクライマックスへ向けて怒涛の攻勢。会場一丸のハイジャンプとシンガロングを導いた“世界はまだ君を知らない”、腕を高々と突き上げて闘志あふれる歌声を響かせた“戦いは終わらない”、アッパーなバンドサウンドとともにパワフルな歌声を直球で届けた“伝えたいこと”などをノンストップで連打して容赦なくギアを上げていく。20曲目の“モットー。”では、今まさにライヴがスタートしたかと思えるような瑞々しくも抜けのよいヴォーカルが炸裂。お茶目におどけながらのギターソロも披露して、この場で歌える喜びを全身で爆発させていく。今年は午年、24歳の年女ということで、馬のひづめのマークを今回のイベントロゴにしたと言う彼女。「次に阿部真央のアニバーサリーイヤーと午年が重なるのは、私が84歳になったときの65周年記念なんです。なのでそれまで歌い続けられるよう頑張ります!」というMCで客席を沸かせると、本編ラストを飾ったのは“ロンリー”。ハンドマイクを客席に向けての大合唱を導いて、弾けるような歓喜に彩られたステージを豪快に締め括った。

阿部真央@日本武道館
阿部真央がステージを去った直後から「あべま!」コールに包まれた武道館。しばらくすると「History of Abe Mao」と釘打った映像がスタートし、過去のライヴ映像が次々と流れていく。そして2010年3月9日、地元・大分で行われたライヴでのMCシーンへと映像が切り替わり、今まで自分のことが嫌いで仕方なかったこと、自分を嫌いな自分から卒業したくて歌を歌ってきたことを切々と語った阿部真央が「この曲を聴いてください」と告げたところで映像が終了すると……パッとライトが点灯したステージに現れたのは、真っ赤なチャイナドレス姿のあべま! “モンロー”“I wanna see you”の2曲を披露して、キュートな魅力を振り撒いてステージを去る。それでも鳴りやまない拍手に応えてダブル・アンコールにひとりで現れると、“ストーカーの唄〜3丁目、貴方の家〜”を弾き語りで披露。冒頭に挙げたMCでありったけの感謝と決意を伝え、「武道館でこの曲が歌えるとは、母親も驚いていると思います」というラストMCから“母の唄”をしっとりと歌い上げ、約3時間に及んだステージは大団円を迎えた。

5周年を迎えた喜びが、終始エネルギッシュな歌声とともに弾けたアクト。随所で感慨深いシーンもあったけど、それを軽く凌駕するような底抜けの明るさで3時間のステージを走り切ったところに、阿部真央というアーティストの不屈の精神を感じ取ることができた。歌の力で現実を乗り越え、己の弱さをも克服しようとする阿部真央。そんな彼女の歌声に、聴き手をひとり残らずポジティヴな未来に向かわせるような破格の強さと優しさが宿っているのは当然のように思える。それをビビッドに痛感させてくれる一夜だった。ダブル・アンコールでは来年3月から23公演におよぶ全国ツアーを開催することも発表された。この日をひとつの節目として、10年、15年と更なる歴史を刻んでいく阿部真央の軌跡を、今後も楽しみに見守っていきたい。(齋藤美穂)

■セットリスト

01.Believe in yourself
02.ふりぃ
03.貴方の恋人になりたいのです
04.19歳の唄
05.マージナルマン
06.貴方が好きな私
07.15の言葉
08.キレイな唄
09.Don't leave me
10.morning
11.always
12.for ロンリー
13.それぞれ歩き出そう
14.loving DARLING
15.世界はまだ君を知らない
16.want you DARLING
17.戦いは終わらない
18.いつの日も
19.伝えたいこと
20.モットー。
21.ロンリー

(encore)
22.モンロー
23.I wanna see you

(encore 2)
24.ストーカーの唄〜3丁目、貴方の家〜
25.母の唄
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