ビリー・ジョエル @ 東京ドーム

ビリー・ジョエル
初来日から30年、今年が50代の最後、というお題目の、東京ドーム1回きりの来日公演。2年前に来たばっかりだが、スタンドまでいっぱい。そのほぼすべてが、いわゆる「80年代育ち」の30代後半〜40代。私もですが。で、19時にオンタイムで客電が落ちて、1曲目、“STRANGER”のイントロの口笛が鳴り響いたところから(でもビジョン観たら、口はマイクに寄ってなかったのでシンセとかで弾いたのかも)、アンコールのラスト、21曲目が“PIANO MAN”でしめくくられるまで、みんな大満足。よくなかった瞬間、片時たりともなし。の、2時間だった。

下のセットリストの通り、洋楽大御所人気ベテラン・アーティストの責務をまっとうするかのような、怒濤のヒットパレード、代表曲の連打。唯一残念だったのは、個人的に大好きなアルバム『AN INNOCENT MAN』からは、比較的地味なラスト曲“KEEPING THE FAITH”1曲しかやらなかったことだけ。ヒット曲いっぱい入ってるアルバムなのに。

思い出した。その1枚前の『THE NYLON CURTAIN』という傑作があって、これは当時のアメリカの社会状況にシリアスに向き合って作った作品だったんだけど、そしたらどーんとセールスが下がった。で、その次に、楽しくてある種能天気に、ポップなオールディーズ方向にふり切って『AN INNOCENT MAN』を作ったら、バカ売れしてセールスが戻って、そのことでビリー・ジョエルは激しく落ち込んだ。というような記事を、当時なんかで読んだ記憶がある。そのせいかな。

なお、『THE NYLON CURTAIN』からは、“ALLENTOWN”と“PRESSURE”をやってくれました。これも大好きなアルバムなので、よしとします。ちなみに、17曲目の“HIGHWAY TO HELL”は、あの、AC/DCの“HIGHWAY TO HELL”です。ビリーは、ジャイアンツの帽子をかぶってギタリストに徹し、代わりに、なんかローディーの、太目のおじさんが歌っていました。でも、声がそっくりで、かなりの完成度でした。あまりの唐突さに笑いました。

それにしても。芸のない感想で申し訳ないが、ライブ・パフォーマーとして、驚くほどすばらしい。“HONESTY”みたいな歌い上げるタイプの曲で特に顕著だが、声量や声域が衰えて、当時の感じを再現できなかったりする局面が、全っ然ない。あの声で、あのアレンジで、あの歌い方で、せいいっぱい、でも「必死」みたいな感じじゃなくて、楽しむ余裕みたいなものも感じさせながら、1曲1曲を、丁寧に形にしていく。で、バンドも、変に当時のアレンジをいじっちゃったりせず、そのまんま、こちらも丁寧に再現していく。いい声。いい音(東京ドームってこんなに音よかったっけ? と思うほど)。そして、たまらなく、いい曲。当然、(後半ギターに持ち替えてた以外は)ピアノに向かいっぱなしだからアクションはないし、簡素極まりないステージ・セットだけど、ステージ両サイドの画面と、照明だけでいいです。充分です。あといらないです。というような、豊かな音たちが、ドームを包み続ける。

しかし、なんでこんなに声が老けないんだろう。一時期は、ほとんど引退していた人なのに。というか、今だってある意味、現役とは言いがたいとこもあるのに。とにかく、明らかに鍛えているというか、自分のこのコンディションを維持するための努力を、日々重ねていないと、こんなの無理だと思う。43歳なのにすごい身体しているマーク・コールマンみたいな。と、総合格闘技好きにしかわからない喩えをしたくなるほどでした。「老いてなお」みたいな感じじゃない。「老いてない」感じ。見た目は明らかに老いてるのに。

アンコールでは一人で登場し、空手の型みたいなポーズをしたのち、ピアノに向かって“さくらさくら”を弾いたと思ったら、バンドと共に“ONLY THE GOOD DIE YOUNG”へ突入。次は同じくピアノで“上を向いて歩こう”をひとしきり弾いてから、“PIANO MAN”の、あのハーモニカのイントロへ。鳥肌立ちました。

この人、また何度も来日すると思う。で、その度にファンは「次もまた来よう」と思うと思う。つまり、誰もがっかりさせないと思う。すばらしい。次は、今回やらなかった、去年出た13年ぶりの新曲“ALL MY LIFE”も聴きたいです。(兵庫慎司)


1.THE STRANGER
2.ANGRY YOUNG MAN
3.MY LIFE
4.THE ENTERTAINER
5.JUST THE WAY YOU ARE
6.ZANZIBAR
7.NEW YORK STATE OF MIND
8.ALLENTOWN
9.HONESTY
10.MOVIN’ OUT(ANTHONY’S SONG)
11.PRESSURE
12.DON’T ASK ME WHY
13.KEEPING THE FAITH
14.SHE’S ALWAYS A WOMAN
15.THE RIVER OF DREAMS
16.HIGHWAY TO HELL
17.WE DIDN’T START THE FIRE
18.IT’S STILL ROCK AND ROLL TO ME
19.YOU MAY BE RIGHT

アンコール
20.ONLY THE GOOD DIE YOUNG
21.PIANO MAN