アルト・ジェイ @ 渋谷TSUTAYA O-EAST

アルト・ジェイ @ 渋谷TSUTAYA O-EAST - all pics by 岸田哲平all pics by 岸田哲平
リーズ出身のアルト・ジェイは、デビュー当初から各方面の高い評価を得ているバンドだったけれども、昨年9月にリリースされたセカンド・アルバム『ディス・イズ・オール・ユアーズ』は全英1位、全米4位という素晴らしい成績を打ち出している。2012年のフジロック、2013年サマソニに続く今回の来日公演は、日本で初めてのヘッドライナー・ショウだ。タイミングとしては、この1月末にロンドン・O2アリーナ、その後の欧州ラウンドを経由して南米ロラパルーザ、3月末に米国入りしてマディソン・スクウェア・ガーデンのヘッドライナー・ショウ、4月のコーチェラ出演と、連続する大舞台を見据えたステージになる。期待するな、という方が無理な話だ。

今回オープニング・アクトとして登場したのは、ロンドンを拠点に活動している日本人4ピースのBO NINGENだ。シャウト混じりの凶暴な音出し一発から、ポスト・パンク由来の冷徹なヴァイブ、そして暴風圏ギターとリヴァーブを効かせたヴォーカルがフロアを席巻する。右肩上がりに、BO NINGENらしい破天荒なロック性が剥き出しになってゆくのだが、バンド単位でのサウンドの密度とパワーがぐっと底上げされており、爆発力の中に宿されたロマンが鮮やかに伝わってくる。短い時間だったけれども素晴らしい内容だった。翌1/14には、GEZANとの2マンがTSUTAYA O-nestで行われる。

そして、大歓声に迎え入れられたアルト・ジェイの4人が、ステージ下手側からガス(Key/Vo)、ジョー(Vo/G)、サポート・メンバーのキャメロン(Ba/G/etc.)、トム(Dr)という横並びのフォーメーションでパフォーマンスをスタートさせる。音源ではマイリー・サイラス“4×4”のヴォーカルをサンプリングしていた“Hunger of the Pine”だ。ジョーの美しい歌声に、キーボードとギターのフォーキーな旋律が絡み、じわじわと上昇してゆく。キャメロンはサンプリング・パッドを駆使してサウンドを添えていた。“Fitzpleasure”以降は、ジョーとガスによる目眩のするような上質ハーモニー・ワーク、そして豊穣な無国籍グルーヴを描き出しながら、アルト・ジェイの独創的な表現世界をどんどん押し広げてゆく。トムは、ボンゴなど多彩なパーカッションを加えたドラム・セットを表情豊かに打ち鳴らし、音源よりもアップテンポに披露される“Something Good”を支えていた。
アルト・ジェイ @ 渋谷TSUTAYA O-EAST
アルト・ジェイにしては意外なほどブルージーで泥臭いロック・ナンバー“Left Hand Free”は、オーディエンスのクラップを巻き起こして盛り上がる。ガスがこれ見よがしに奏でるオルガン・サウンドが可笑しい。これをシングルとしてリリースしてしまうところも、アルト・ジェイというバンドの面白さだろうか。エクスペリメンタルで先鋭的なのに人懐っこく、音楽的に高度なことばかりやっているのにどこか朴訥としている。不思議とチャーミングなムードを漂わせるバンドだ。2本のギターがエキゾチックな恍惚感を誘う“Dissolve Me”、映像喚起力の高いパフォーマンスでシンガロングを導く“Matilda”と、ギターでも華麗なプレイで貢献するキャメロンのマルチ・プレイヤーぶりがまた見事。オリジナル・メンバーのグウィル在籍時にフジロックで観たときにも思ったが、アルト・ジェイのライヴは驚くほどフィジカルに訴える内容になっている。
アルト・ジェイ @ 渋谷TSUTAYA O-EAST
デビュー・シングルの“Bloodflood”から“Bloodflood pt.2”にかけては、アルバムを跨ぐ2曲が連続でプレイされるという、ライヴならではのスペシャルな一幕。文学的な歌詞世界がじっくりと時間をかけて伝えられてゆく。印象深いアカペラのハーモニーをきっちりと決めるインタールード・トラック(“Ripe & Ruin”として知られるナンバー)なども含めて、このインターネット時代の無国籍フォーク・ミュージックとでも呼ぶべき楽曲群は、一体どのような着想と過程を経て生み出されるものなのだろうか。オーガニックとエレクトロニックががっちりと手を取り合い、たまにはミスもして笑いながら仕切り直しつつ、MCも控え目に曲また曲と、ひたすら人肌のエクスペリメンタル・ポップに語らせるパフォーマンスが続いた。
アルト・ジェイ @ 渋谷TSUTAYA O-EAST
個人的にこの夜のハイライトとなったのは、ジョーが自らアルペジオを奏でて歌い出す“Warm Foothills”だ。音源ではコナー・オバースト、リアン・ラ・ハヴァスらをフィーチャーした楽曲。口笛を絡め、アーシーなメロディが深く交錯して進行するさまが美しい。取り立てて派手ではないけれども、一曲一曲を丹念に編み上げるアルト・ジェイらしさが顕著に表れた一幕だった。そして本編は非ロック的グルーヴを練り上げながらの“The Gospel of John Hurt”で幕を閉じるのだが、アンコールの催促にすぐさま再登場して、新作のボーナス・トラックだった“Lovely Day”を披露。見知らぬ奈良(今回の来日では観光できただろうか)の鹿に思いを馳せ、米国の同性愛法に踏み込むようなテーマを持つ“Nara”と“Leaving Nara”を続けてプレイすると、最後にはあらためて感謝の思いを投げ掛け、フォーク・ステップのアンセム“Breezeblocks”でフィナーレを迎える。
アルト・ジェイ @ 渋谷TSUTAYA O-EAST
無限に広がる想像力が航路を描き出すようにして、アルト・ジェイによるユニヴァーサル視点の高度なポップ・ミュージックは世界へと羽ばたいている。既に今夏の各地のフェス出演までがっつりとスケジュールされたライヴを経て、彼らの評価はより確固たるものになってゆくのだろう。そう予感させて止まない、濃密なステージであった。(小池宏和)

[SETLIST]
1. Hunger of the Pine
2. Fitzpleasure
3. Something Good
4. Left Hand Free
5. Dissolve Me
6. Matilda
7. Bloodflood
8. Bloodflood pt.2
9. ❦ (Ripe & Ruin)
10. Tessllate
11. Every Other Freclke
12. Taro
13. Warm Foothills
14. The Gospel of John Hurt

En1. Lovely Day
En2. Nara
En3. Leaving Nara
En4. Breezeblocks
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