all pics by KAZUHARU IGARASHI あまりにも雄弁で、幸福な音楽がそこにあった。昨年10月にアルバム『LIGHT』でデビューしたSPECIAL OTHERS ACOUSTIC。その8都市ツアーのセミ・ファイナルとなる東京キネマ倶楽部ワンマンである。デビューとはいえ、これが10年以上のキャリアを誇り、2013年にはインストバンドとしては初の武道館ワンマンという偉業まで成し遂げてしまったSPECIAL OTHERSのアコースティック・プロジェクトであることは皆さんご存知の通り。チケットはソールドアウト、往年のファンも多く集ったこの日であったが、本家・スペアザのライヴとはひと味もふた味も違うサウンドの煌めきに、いつまでも身を委ねたくなるようなステージだった。
東京キネマ倶楽部のクラシカルな雰囲気にぴったりな、木製ハンガーラックが数本置かれたステージ。中央にはスペアコのトレードマークである巨大なサボテンが鎮座し、その前にドラム、グロッケン、鍵盤ハーモニカ、数本のギターやベースなどが所狭しと並んでいる。そこに開演時刻を少し回った頃、温かな拍手に迎えられてメンバー登場。それぞれの席についた後、柳下“DAYO”武史(G・B)の流麗なアコースティック・ギターの旋律からスタートしたのは“Marvin”だ。芹澤“REMI”優真(Glockenspiel・Melodion)のグロッケンの音色がキラキラと宙を舞い、幻想的なムードを演出。さらに宮原“TOYIN”良太(Percussions・G)のパーカッションと又吉“SEGUN”優也(Mandolin・B)のエレアコ・ベースが語らうように響きあい、聴き手を優しく包み込んでいく。“Mambo No.5”では一転して躍動感あふれるセッションを展開し、フロアを緩やかに揺さぶる4人。あらゆる重力から解き放たれたような自由度と、すべてを丸ごと抱きしめるような包容力を兼ね備えた音像の広がりに、場内の快楽指数は高まるばかりである。
“Galaxy”では、口と右手で鍵盤ハーモニカを吹き鳴らしながら左手でグロッケンを叩いてメロウな旋律を奏でる芹澤。宮原はベースを弾きながら両足でペダルをキックしてカホンとシンバルを鳴らすという、1人3役(!)の妙技でリズムを刻んでいく。そこに柳下のアコギと又吉のマンドリンの旋律が加わって、壮大なオーケストレーションを形成。およそ4人だけで演奏しているとは思えないサウンドの多彩さには驚かされるばかりだが、“STAR”“LINE”を経ての“halo”がまた素晴らしかった。清冽なドラミングと情感あふれるギターフレーズの波に乗り、グロッケンやハーモニカの音色が現れては消えていくアンサンブル。終盤に向けてじわじわ熱量を増していく展開は、四季とともに移ろいゆく山河の風景をダイナミックに描いているようだった。その雄大なサウンドはオーディエンスの心を確かに掴んだようで、曲が終わると同時に沸き起こる拍手喝采! それぞれが高い演奏スキルを誇りながら、あくまで心地よさを追求した音楽としてオーガニックに響きわたるスペアコ・サウンドの奥深い味わいに改めて感じ入る瞬間だった。
アコースティック編成ならではの清涼なアレンジが冴えわたった“BEN”、陽だまりのような音像で場内を包み込んだ“March”を経て、遊び心あふれるセッションから繋げた“LIGHT”で緩やかに高揚。ここで「皆さんこんばんは。SPECIAL OTHERS ACOUSTIC、通称『S.O.A(ソー)』でございます!」と口を開いた芹澤。この日はじめてのMCに突入し、「自分たちの略称は『S.O.A』がいいのか『スペアコ』がいいのか?」という議論をアツく繰り広げていく。こういう人懐っこいメンバーのキャラが全開となるMCタイムも彼らのライヴの醍醐味である。そして本家・スペアザとは別バンドとして継続的に活動していく意思を伝えた後、本編ラストの“Wait for The Sun”へ。ここまで築き上げてきた祝祭感をさらに色濃くするような穏やかでピースフルな音像を場内いっぱいに広げて4人はステージを去った。
アンコールでは、Leyonaに楽曲提供した“ROSEN”をアコースティック・ヴァージョンで披露。最後はオーディエンスとの記念撮影を行って終幕となった。多彩なアコースティック楽器を駆使し、2時間弱にわたって心地よいヴァイブスを届け続けた至高のステージ。そのサウンドの清新さは去ることながら、この日のアクトで明らかになったのは、本家のサイド・プロジェクトとしての一過性のものではない、かなり本気モードなものとしてこのスペアコの活動がある、ということだ。アンコールのMCでは「いつか47都道府県ツアーをスペアコでも行いたい」(芹澤)という嬉しい発言も。現在はスペアコのツアーと並行して本家のエレクトリック・ツアーも開催中だし、こうして両軸での楽曲制作やライヴを重ねることで、彼らの音楽はさらに豊潤で、研ぎ澄まされたものになっていくことだろう。そんな彼らの音楽求道の旅をこれからも見守っていきたい。(齋藤美穂)
■セットリスト
01.Marvin
02.Mambo No.5
03.Galaxy
04.STAR
05.LINE
06.halo
07.BEN
08.March
09.LIGHT
10.Wait for The Sun
(encore)
11.ROSEN