『夕日信仰ヒガシズム』のツアーよりも前の2014年9月、amazarashiはインディーズ期のアーティスト名表記を用いて〈あまざらし プレミアムライブ 千分の一夜物語 スターライト〉を行った。この4月には、そのアンコール公演を2ヵ所でそれぞれ開催。ここでは東京・中野サンプラザでの模様をレポートしたい。4/29の大阪・森ノ宮ピロティーホール公演を控えているため、セットリストの記載は割愛するけれども、これまでのamazarashi楽曲がストリングス含むアコースティックアレンジで新たな命が吹き込まれ、秋田ひろむによって朗読される「スターライト」の物語が普遍的な公演テーマを描き出す。それはとても哀しく美しい、そして、生きることの鮮烈な感動を何度でも呼び起こすステージであった。
ライヴは美しい星空に星座が浮かび上がるCGアニメーションを背景に、宮沢賢治の作詞・作曲“星めぐりの歌”が流れて幕を開ける。現在、〈あまざらし 千分の一夜物語 スターライト〉特設サイト上では、「スターライト」の5章・各前後編から成るストーリーが公開されており、これまでにも秋田ひろむが影響の大きさをひしひしと感じさせてきた宮沢賢治の、名作『銀河鉄道の夜』のモチーフが何度もオーバーラップするストーリーだ。この日、流麗かつふくよかなアコースティックアレンジで披露された“季節は次々死んでいく”のテーマとも交わりながら、ステージの要所要所で朗読されるストーリーの各章は《夜の向こうに何があるのか、トマーゾはそれが知りたかった。》というフレーズの反復によって進行することになる。
空っぽの額縁の静止画像だけを背景に、画家と恋人の歩む生涯をじっくりとドラマティックなアレンジで描き出した“無題”。《僕らが信じる真実は 誰かの創作かもしれない/僕らが見てるこの世界は 誰かの悪意かもしれない》と、豊かなストーリーテリングを武器に現実世界に挑む“古いSF映画”。秋田ひろむのアコースティックギターと豊川真奈美のピアノのみで切り出された“ドブネズミ”には、あたかもロックの原体験を振り返るかのようにザ・ブルーハーツ“リンダリンダ”の歌詞の一部が挿入される。今の季節にぴったりな“さくら”も素晴らしかった。
過去のamazarashiライヴにおいて重要な役割を担っていたアニメーション映像は、オープニング以外ほとんど使用されない。紗幕と背景の2層プロジェクターに幻想的な模様を描くライティング、持ち込まれる20ものメトロノーム、そして揺らめくトーチといった演出を効果的に用いるのみなのだが、歌と楽曲、そして紡がれる言葉は、強烈な情景喚起力をもって、生きる痛みや流れる時間を描き出してゆくのである。豊穣なアコースティックアレンジで生まれ変わった名曲たちは、まさに積み重ねられる記憶や、刻一刻と変化する情景、そして夜の向こうに踏み出そうとする意志そのものの形であった。
5/13には、今回のプロジェクトをパッケージ化したアコースティックアルバム『あまざらし 千分の一夜物語 スターライト』(初回盤には2014年9月のステージを収めたDVDも収録)がリリースされる。amazarashiの楽曲が生まれ変わる、ということがどういうことなのか、秋田ひろむ渾身のストーリーテリングと共に、ぜひ味わって欲しい。(小池宏和)