5月27日、横浜アリーナ。いうまでもなく超満員。日常がネガティヴなイメージに侵されていくメタファー的なアニメーションからライヴはスタートし、やはりアルバム『REFLECTION {NAKED}』の冒頭を飾る“fantasy”が披露される。生々しいバンドサウンドに、自由に伸びやかに響く桜井のメロディ。「ゴミ箱に捨てたファンタジーをもう一度拾い集めてみる」というメッセージ。アルバムが発売された今となってはこの曲にある新鮮で爆発的なパワーと、一周回ったうえで発されるストレートなメッセージこそがアルバムの肝になっていることがわかるが、素晴らしいのはこのライヴの段階でも「そうであること」をしっかりと楽曲の力のみで伝えていた、ということだ。何かの説明があったわけでもない。ただただ楽曲が「この響きこそ、今のMr.Childrenなんだ」と、「これが今やるべきことだ」と言っている。楽曲が鳴らされた瞬間にそれが共有される。メロディの素晴らしさや楽曲的な完成度はもちろんだが、この「思い」の強さこそが、ミスチルを24年間にわたってサバイヴさせてきた何かだったのだろうと思う。
そこから歌われたのはアルバムからの4曲、“Melody”“FIGHT CLUB”“斜陽”“I Can Make It”だった。オーディエンスがどうしていたかというと、ただ初めての言葉を受け取る、初めてのメロディを感じる、美しい光の演出を見るーーまさにライヴでしかない時間を重ねていく。一曲一曲が終わるたびに新しいリアクションが起こり、それぞれの中で新しい化学反応が起こっていく。メンバーの演奏もまただからこそ生々しく響き渡る。おかしな言い方になるが、本当に「バンド」だった。ギターの運指音まで聞こえて来るような、そんな近さだった。
「次はみんな知っている曲を。なるべく近くで」というMCを受けて、センターステージで歌われたのは“口笛”。「1番をみなさんが歌うバージョン、ハナから私が歌うバージョンなど、いろんなバージョンがあります」と桜井は語りつつ、曲が始まり、結局自分が歌う。会場も笑顔に包まれる。最高にアットホームな空気のなか(そういえば、ライヴ冒頭桜井は『横アリはもはやホームグラウンドだ』と語っていた)、すべての観客の心を彩るセンチメンタルなあのメロディが染み渡っていく。続いて、“HANABI”“口がすべって”を挟み、ライヴは後半戦へ進んでいく。
再び、『REFLECTION』の楽曲が披露される。静かに心の有り様が綴られるバラード“蜘蛛の糸”、桜井が点描される映像演出が素晴らしかった“REM”、巨大モニターに映された顔のない白ドレスの女性と桜井が踊る“WALTZ”。次々と歌われる新曲が導いていく圧倒的な歌の力が空間を満たしていく。“放たれる”“進化論”ではこれぞミスチルという展開感溢れるメロディが解放されていく。「歌われること」を待っていたようなメロディだと感じる。その解放のダイナミズムが曲にこめられた「希望」のメッセージを強く伝えてくる。
「これが僕たちの新しい足音」というひと言からの“足音 〜Be Strong”。そして、本編のラストは“幻聴”だった。王道をいくミスチル楽曲だ。もちろん新曲であるこの曲だが、どこからどう聴いても王道であることがよくわかる。それはこの曲にある「一歩一歩確実に進む。そんなイメージを忘れずに」というメッセージ自体がミスチルの王道であり、その思いの結晶がまさに一番強い状態で飛び込んでくるから、なのだと思う。ラストにリフレインがあるのだが、なんと、巨大な合唱が起こる。
最後は再びライヴ冒頭の映像に戻り、日常がメタファーとして描かれる。鬱蒼とした日々を破るような力強いギターのストローク。駆け上がっていくような桜井の声。「さあいこう、常識という壁を越え」「相変わらず僕はノックし続ける」——曲のタイトルは“未完”。そう、こうしてトライアルを重ね、オーディエンスの心をノックし続ける、そのシンプルなコミュニケーションに全身全霊を捧げ続けること、これがMr.Childrenの生き様なのだと思う。すごいライヴだったが、これまででもっともミスチルのことが「わかった」ライヴでもあったと思う。素晴らしいライヴだった。
この日のライヴレポはさらにロングにして、JAPAN8月号(6月30日発売)に掲載します。ぜひ読んでもらいたいです。(小栁大輔)