トニー・ヴィスコンティ and ウッディー・ウッドマンジー @ ビルボードライブ東京

1970年にリリースされたデヴィッド・ボウイの3枚目のアルバム『世界を売った男』は、当時ライヴでプレイされることが非常に少なかった作品だ。そこで45年を経た今、ボウイの初期の傑作であり、ボウイ初の「ロック・バンド・アルバム」だったこの一枚を改めてライヴで再現してみようじゃないかという試みが、今回のトニー・ヴィスコンティ and ウッディー・ウッドマンジーのステージである。

ご存知トニー・ヴィスコンティは『スペース・オディティ』以来長きにわたってボウイのプロデューサーを努めてきたレジェンドで、最新作『ザ・ネクスト・デイ』(2013)もヴィスコンティの手によるもの。『世界を売った男』ではプロデュースと共にベースも弾いている。一方のウッディー・ウッドマンジーは当時のボウイのバック・バンドだったハイプ(後のスパイダーズ・フロム・マーズ)にミック・ロンソンらと共にドラマーとして加入、つまり『世界を売った男』のオリジナル・メンバーと呼ぶべき彼らを中心としたのが、今回の再現プロジェクトである。他メンバーも豪華だ。ヘヴン17のグレン・グレゴリー、元ジェネレーションXのジェームズ・スティーヴンソン、そしてコーラスはなんとミック・ロンソンとヴィスコンティの娘さん2人が担当。トータル9人の大所帯バンドだ。

そしてこの9人が繰り出す音の分厚さ、特に3本のギターが荒々しくもうねり絡まり合う様がセクシーで、グラム前夜の作品だった本作の雰囲気を伝えるものになっていた。オープニングの“円軌道の幅”のいきなりのヘヴィ・ノイズは、ビルボード東京のシックな雰囲気を激変させるもので、事実この日のライヴはディナー・ショウ形式とは思えないほどの熱い盛り上がりとなった。“オール・ザ・マッドマン”のトランシーなアコギの響きは無茶苦茶ハイファイ、“ブラック・カントリー・ロック”のねちっこいブルーズ、ファンクのグルーヴは、バンド・アルバムたる『世界を売った男』の真髄を垣間見せるパフォーマンスだった。

ヴォーカルのグレン・グレゴリーはマッチョな体型にダブルのスーツ、頭はスキンヘッドとかなりいかついヴィジュアルの人で、ボウイのイメージからは遠くかけ離れているのだが、ボウイの雰囲気に似せようとして似ない罪深さを想像すると、むしろこのくらい別人のほうがすんなり受け入れられるから面白い。その代わりヴォーカルは文句無しで、“ランニング・ガン・ブルース”のコーラスとのハモリは最高だった。一方のトニー・ヴィスコンティは見事な銀髪に襟を立てた白シャツもダンディで、さすがはボウイの相棒!といった風貌の御仁だ。

“セイヴィア・マシン”はプログレ的ダイナミズムで複雑に展開していくアンサンブルが圧巻で、バンド・アルバムの生っぽさと共に、こんなにも緻密な構成をも兼ね備えていた作品であったことに改めて驚かされる。ラストの“スーパーメン”もウッドマンジーの凄まじい手数のドラミングに何度も何度も煽られ、昂揚のレヴェルを上げていくパフォーマンスで、思わずヴィスコンティが「ワン・モア・タイム!」と叫び、アウトロを2度リピートする白熱っぷり。「45年前より今のほうが僕らはずっと上手い」とヴィスコンティも言っていたけれど、ぎっちり詰まった筋肉を感じさせるバンドのプレイヤヴィリティによって、今回のライヴは『世界を売った男』のリリース当時の音をリアリスティックに再現すると言うよりも、思いっきり2015年の環境に合わせてアップデートしてきた、「リマスタリング・ライヴ」とでも呼ぶべき内容のものだったと思う。プロデューサーとして『ザ・ネクスト・デイ』までボウイと共に時を重ねてきたヴィスコンティがイニチアシヴを握ったこの日のライヴが、そういう進化形のものになったのも当然かもしれない。

そして後半戦、「ここからは私たちのボウイのフェイヴァリット・ナンバーをやるよ」とヴィスコンティが言って始まったのがいきなりの“ファイヴ・イヤーズ”!正直、以降のボウイ・ベスト・ヒット・メドレーは、前半の『世界を売った男』再現の音響的ストイシズムとは全く別物のサービス・セットだった。なにしろ“ファイヴ・イヤーズ”以降も“月世界の白日夢”、“ジギー・スターダスト”、“ユー・プリティ・シングス”、“チェンジズ”、“ロックンロールの自殺者”、“タイム”、“サフラゲット・シティ”と続き、これをやられて、ボウイに限りなく近い声で歌われて盛り上がらずにいられるか!という反則のセットリストだったのである。ラストの超絶ロックンロールなプレイだった“サフラゲット・シティ”では思わず立ち上がる観客も続出だった。『世界を売った男』の再現という歴史的意義のある試みから、ステージ上の9人とオーディエンスが共にデヴィッド・ボウイの偉大さを噛み締め、祝福するスペシャル・イヴェントへ。この日のライヴはそんなふたつの顔を持ち、二度美味しいものだったのだ。(粉川しの)
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