amazarashi@豊洲PIT

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とても不思議な音楽体験だった。いや、映像体験と言うべきだろうか。最先端の3D映像を駆使することで、生きることの意味や矛盾が生々しく表現されたステージ。それは、これまでも音と映像の融合で独自の世界観を築き上げてきたamazarashiが、新たな表現の領域に踏み込んだことを力強く告げるほどの衝撃性に溢れていた。ここでは、メジャーデビュー5周年を記念して開催された、amazarashi初の3Dライヴ「amazarashi 5th anniversary live 3D edition」の模様をレポートしたい。

amazarashi@豊洲PIT
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3Dメガネを装着したオーディエンスが見つめるステージに、SEなしで現れた秋田ひろむ(Vo・G)&豊川真奈美(Key)と、3人のサポートメンバー。エッジの立ったサウンドで唐突に“後期衝動”をスタートさせると、ステージ前面を覆う紗幕にタイポグラフィーやアニメーションを駆使した3D映像が投影される。あたかも手に触れられるかの距離で渦巻く映像と照明に圧倒されているうちに、2曲目“季節は次々死んでいく”へ。この頃になると少し冷静に3D映像を眺められるようになり、秋田ひろむの凛々しいヴォーカルと、豊川の叙情的なピアノの旋律をじっくり堪能できるようになる。続く“ヒガシズム”では、人間の愚かさや己の存在価値を綴った歌詞が紗幕から浮かび上がる中、重たいビートのグルーヴが渦巻き、場内をディープな世界へと連れ去っていった。

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その後も、ほぼ全編3D映像を交えながら、初期から最新の楽曲を万遍なく配置したセットリストでライヴは進行。ワンルームの映像とともにメラメラと燃え盛る3Dの映像が投影され、壮絶な光景を描き出した“ワンルーム叙事詩”。「デビューから5周年。初めてライヴをやったのが中学2年生ぐらいでした」という前振りのもと、宇宙規模の映像とともにロマンチックな情景が浮かび上がった“14歳”。豊かな文学性に裏打ちされた詩世界が、3Dの映像によってグッと近い距離感とリアリティを持って胸に迫ってくるさまには、息を呑むしかなかった。シンプルな照明の下でエモーショナルな歌心を届けた“名前”など、随所で挟み込まれる3D映像なしのパフォーマンスも、彼らの楽曲そのものが持つ吸引力を浮き彫りにするシークエンスとして、絶妙なアクセントになっていた。

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そして――躍動感ある映像と光がハイスピードで駆け巡った8月19日リリースの最新シングル“スピードと摩擦”で、ライヴはひとつの山場を迎えた。静謐なギターのイントロで幕を開け、硬質なピアノの旋律やリフやビートが徐々に絡み合いながらスリリングな幻影を描き出していくこの曲。スピーディーに放たれる言葉のひとつひとつも鮮烈な輝きを放っており、情報量が多いながらもタイトに引き締まったその音像は、amazarashiの最新型を提示するだけのダイナミズムに満ちていた。

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「ライヴ会場が大きくなるたびに、CDリリースするたびに、『ようやくここまで来たな』と思うと同時に、『ここが限界かな』と思ったりします。そういうのも含めて、全部いつでも捨てられるようにやらなきゃダメなんだろうなと思っています」――そんな導入から、1stフルアルバム『千年幸福論』のブックレットに掲載された短編小説『しらふ』の一節のポエトリーリーディングを始めた秋田ひろむ。ここでも語られた現実世界への深い絶望感が、amazarashiの音楽を支える原動力になっている。本当に大切なものを掴み取るために、世の中にはびこる醜悪から目を逸らさずに、心の叫びをエモーショナルに歌い上げる。先述した“スピードと摩擦”の覚醒感はその極地のように思えたし、「夜の向こうに答えはあるのか!?」という絶叫から雪崩込んだラストの“スターライト”の眩いサウンドが、絶望を抱えながらも前に進んでいこうとする迷いのない意思を力強く表明しているように思えた。

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いつも通りアンコールはなかったが、本編のみで十分に完結した(というより、アンコールがあると逆に蛇足に思えてしまうほどの)世界を確立してみせたのは、amazarashiならでは。3Dという新たな手法に挑んだ実験的なライヴを経て、彼らの表現はさらに無限大の広がりを見せていく。(齋藤 美穂)


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●セットリスト

01. 後期衝動
02. 季節は次々死んでいく
03. ヒガシズム
04. ドブネズミ
05. 風に流離い
06. ワンルーム叙事詩
07. 名前
08. 14歳
09. 冷凍睡眠
10.スピードと摩擦
11. 空っぽの空に潰される
12. 雨男
13. 美しき思い出
~ポエトリーリーディング「しらふ」~
14. ヨクト
15. スターライト
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