LOUD PARK 15 @ さいたまスーパーアリーナ

記念すべき第10回目を迎えたヘヴィメタルの祭典ラウドパーク、今年は、さいたまスーパーアリーナでは初の2日間3ステージの構成となり、アニバーサリーに相応しい充実のラインナップが顔を揃えて開催された。

1日目でまず個人的に注目したアクトは、これが初来日となるフランスの俊英ゴジラ。タイトルをフランソワ・トリュフォーの映画『野生の少年』からとっていることでも一筋縄でいかない感じの最新アルバム『ランファン・ソヴァージュ』(2012)は、ピッチフォークやガーディアンなどの非メタル系も含めた海外メディアでも高く評価された。その演奏は予想以上にタイトで、重厚かつ複雑な楽曲をレコード以上にダイナミックに、そしてどこかエレガントに再現していて素晴らしい。バンド名がバンド名だけに、これを機に日本でもいっそう人気を高めていくことは間違いないだろう。

続いて隣のアルティメット・ステージは、何故こんな早い時間にやるのか理解できないくらい豪華メンツが参加したオールスター・プロジェクトのメタル・アリージェンス。この日のメンバーはメガデスのデイヴ・エレフソン、スレイヤーのゲイリー・ホルト、アンスラックスのチャーリー・ベナンテ、テスタメントのアレックス・スコルニック、デス・エンジェルのマーク・オセグエダを中心に、ゲストもバンバン呼び込みながら、アイアン・メイデンの“ラスチャイルド”や“誇り高き戦い”、ブラック・サバスの“ヘヴン・アンド・ヘル”などメタルの名曲カバーを連発。ラストはメタリカの“シーク・アンド・デストロイ”をブッ放して、いきなりの大団円ムードに面食らうほど。クロージング・アクトとして打ち上げ大会を担ってもらってもいいのではないかと思った。

次にビッグ・ロック・ステージに登場したオール・ザット・リメインズは、東日本大震災の当日に都内でライヴを敢行したことでも知られるスプリングフィールド出身のバンド。マサチューセッツ界隈には、コンヴァージやキルスウィッチ・エンゲイジなどユニークなメタル・バンドが大勢いるが、このバンドもかなりの個性派だ。シンガーのフィリップ・ラボンテは、いつものように緑のTシャツに短パン、キャップというカジュアルな服装だが、グロールやスクリームを自在に操る見事な歌いっぷり。トラディショナル・グリップでスティックを持ってパワフルに叩きまくるドラマーのジェイソン・コスタや、ミスフィッツのTシャツを着た新ベーシストなどが鳴らすサウンドは、自分には妙にしっくりくるところがあって、この日も思いっきり堪能できた。

「パンク・アズ・ファック」と書かれたTシャツや、ハンチングをひっかけた風体にも表れているように、メタルというよりもワイルドなハード・ロックを聴かせるスウェーデンのバックヤード・ベイビーズは、2009年の活動停止から復活を果たしての来日。ラウドパークではこの手のバンドが中盤を務めることも多いが、特にアウェイ感はなく、どのアクトもアリーナ前方エリアは大勢の人が詰めかけ一様に盛り上がりを見せる。演奏終了後にシド・ヴィシャスの“マイ・ウェイ”が流れたのは、おそらくバンド自身の選曲ではなさそうだが、とにかくこの時、長い間メタルとパンクの間にイメージしていた溝がゆったりとしたグラデーションになったような感覚を覚えた。

ここで、初期スラッシュ・メタル・シーンを切り開いたベイエリア・クランチの重鎮テスタメントが早くも登場。この後のアンスラックスもそうだが、大御所と呼ばれる存在が中盤から登場してしまうのも、今年のラインナップの厚みを実証している。ヴォーカル/リフ/ドラミングなど、どのスタイルもフォロワーに継承され続けている「これぞスラッシュ」というサウンドは、オリジンならではの迫力を持ち、同時に単なる古典には収まらないエネルギーが溢ちていた。それを大きなオバサンみたいな風情のチャック・ビリーが、フレディ・マーキュリーのように短い持ち手のついたマイクで延々とエアギターしながらニコニコと先導していく光景は、また不思議な安心感を与えてくれる。

お次は、いよいよ「スラッシュ四天王」の一角を担うアンスラックス。この段階でアリーナは後方のフロアまで埋まっており、ステージ前方あたりだけではなくスタジアム全体が盛り上がっている。オーディエンスの熱に応えるかのように、バンドも“マッドハウス”、“アンチソーシャル”、“インディアンズ”といった代表曲を連射につぐ連射。正直に言うとジョン・ブッシュが歌っていた時代にも好きな作品が多い人間としては、そこから1曲もないのが少しだけ寂しかったりもするのだが、大好きな“ガット・ザ・タイム”も聴けたし、現時点での最新アルバム『ワーシップ・ミュージック』(2011)の曲も良かったので不満はない。そしてチャーリー・ベナンテは本当に良いドラマーだなと、今更のように実感し直した。

フィンランド出身のチルドレン・オブ・ボドムは、ヴォーカル/ギターのアレキシ・ライホが漂わせるクールネスと対照的な、キーボードのヤンネ・ウィルマンのかわいらしい佇まいに、いつもほのぼのしてしまう。ヤンネは「オマネキイタダキ、アリガトゴザイマス」と日本語でMCしたり、今年からツアー・ギタリストを担当しているのが自分の兄弟であることを嬉しそうに報告したり、ステージ前方に出てきてドラムスティックをまわしていたが落としてしまい「やっべ」という表情を見せたりと期待に応えつつ(?)、もちろん流麗な鍵盤プレイでも本領発揮。どっしりとしたドラムで爆走するメロディック・デス・メタルは、捻くれた感触のある音楽性のアンスラックスを観た直後だったこともあり、「まさに王道!」を突き進む印象をますます強くした。

そして、前回に引き続き2年連続の出演となるアーチ・エネミー。稀代の女性メタル・シンガーだったアンジェラ・ゴソウの後を継いだアリッサ・ホワイト・グラズの日本でのお披露目公演となった昨年のステージでは、堂々たるステージングにいきなり魅了させられてしまったが、あれから1年、すでに彼女は完璧に女王としての風格を身に纏っていた。その素晴らしさは、バンド20周年ということで設けられた、初代ヴォーカリストのヨハン・リーヴァと、アルマゲドンとして翌日に出演した元メンバーのクリストファー・アモットが客演するというスペシャル・コーナーの最中も、つい「アリッサをもっと見たいのにな……」とか思ってしまったほど。去年アーチ・エネミー(およびアマランスとバトル・ビースト)を観て以来、「メタルは女性進出によって、さらに発展する大きな可能性を持っている」と強く実感するようになった自分にとって、彼女はまさにヘヴィメタルの希望の象徴だ。

初日のトリを飾ったスレイヤーは、一昨年にギタリストのジェフ・ハンネマンが亡くなってからの初めてのアルバム『リペントレス』を完成させての来日。ジェフの代わりを務めるゲイリー・ホルト、デイヴ・ロンバードの穴を埋めるポール・ボスタフとともに、ケリー・キングとトム・アラヤはいつも通りの帝王っぷりを見せつけた。もはやスラッシュ・メタル・バンドは山ほどいて、その発展系も数多あるが、スレイヤーほど純粋にスラッシュを極め切ったバンドは他にいないだろう。彼らの到達したレベルから鳴らされるその巨大な音像は、なんというか次元をひとつ越えてエクスペリメンタル・ミュージックのようにさえ感じられる。ラストに演奏されたマスターピース“エンジェル・オブ・デス”は、作者であるハンネマンへの敬意を表して、後方に「ハンネマン/スティル・レイニング」と記されたバックドロップが掲げられたが、それは生前のジェフが自らのギターにあしらっていたハイネケン・ビールの商品ラベルを模したものになっていた。


一夜明けた2日目。初日はメイン・アリーナの2ステージにずっと張り付いていたが、この日はその外側にあるコミュニティ・アリーナという空間に設置された第3のステージを中心に観ることにする。エクストリーム・ステージと名付けられた(※初日はキングダム・ステージだった)そこは、デスメタル/グラインド・コアの最重要バンドが次々に登場し、激ヤバい空間となること必至だからだ。

元アーチ・エネミーのクリストファー・アモットが再始動させたアルマゲドンによる溌剌とした演奏をしばし見やってから、地下に降りていくようにして辿り着いたエクストリーム・ステージは、なんと高い位置にある広々とした天窓から外光が差し込む不思議な空間。当日は曇天だったが、それでも場内は柔らかい太陽の光で明るく照らし出されている。舞台に向かって右側の奥はクロークのスペースも兼ねているので、お客さんの荷物を入れたビニール袋がうず高く積み上げられた様子は、なんとも不思議な雰囲気を生み出していた。ここで死と暗黒の世界が繰り広げられるのかと驚かずにはいられなかったが、トップバッターを務めたオビチュアリーは、周囲のムード以上にまず音響面で苦戦している感じを受けた。

どうも落ち着かないので一瞬ビッグ・ロック・ステージに戻ると、元祖メタル・クイーン浜田麻里が熱唱していて、麗しい容姿のみならず、シャウトの力強さにも衰えを一切感じさせない美魔女っぷりに驚愕。近年メタルにアプローチするアイドルも多くなったけれど、この領域に至るまで続けられれば凄いと思う。SOLDIER OF FORTUNEとしても出演したラウドネスの高崎晃がゲストで登場しての共演も盛り上がったが、個人的にはそれ以前にバック・バンドのギタリストの上手さにすっかり感心してしまった(※終演後に会ったNEW BREEDのドラマーのMARKさんから、DIMESIONの増崎孝司氏だと教えてもらいました)。

続いてエクストリーム・ステージでは、怪人アバス・ドゥーム・オカルタが結成した新バンド=アバスが明るい地下世界で大奮闘。コープス・ペイントを施したメンバー(ドラマーはデヴィルマスク装着)の熱演は環境の落ち着かなさを超え、ぐんぐんオーディエンスを引き込んでいて、そのステージ魂に脱帽させられる。同じ頃、裏のアルティメット・ステージでは、キャメロットのパフォーマンスにアリッサ・ホワイト・グラズが飛び入りし、アーチ・エネミーでは封印しているクリーン・ヴォイスによる見事な歌唱を披露、ファンを感動させていたらしいが、残念ながら見逃してしまった。

その後も、プリティ・メイズがピンク・フロイドの“アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール”をちょこっとカバーしているところをチラ見したりしながら、基本的にはエクストリーム・ステージに引きこもり、ダーク・トランキュリティ、アット・ザ・ゲイツと、メロディック・デス・メタルのパイオニア2組を続けざまに体験。前者はステージ横のスクリーンで曲に合わせた映像を流す演出も面白かった。また後者のセッティングでかなり気合の入ったマイクチェックをしていたが、そのせいか、エクストリーム・ステージの音響もこの頃にはビシッと決まってきて、サウンドのアグレッシヴさが身体の奥までズドンと響くようになる。アット・ザ・ゲイツのステージにダーク・トランキュリティのミカエル・スタンネが飛び入りしたのを見届けたところで、アルティメット・ステージへ移動。

というのも、場内のお客さんたちが着ているTシャツを観察していて、サバトン率の高さに引っかかるものを感じていたからだ。実際グッズ売り場では、サバトンのTシャツは早々にソールドアウト。事前にはノーマークだったのだが、これは何かあるとピンときたのだ。スタンドに着くとまず目に飛び込んできたのは舞台上にドカンと出現した戦車。そして、その前でなぜか寸劇(ショートコント?)のようなことをやっているので思わずひっくり返ってしまった。モヒカン刈りにサングラスをつけた強面シンガーのヨアキムをはじめ、各メンバーが戦闘服を着込んで演奏し、バイキング・メタルの近代版とでもいうような勇ましさ。満場のアリーナも大合唱の熱狂で応え、これには初来日だというバンド側もすっかり感じ入ったようだ。そうしてヨアキムがグラサンを外すと、その鬼軍曹のようなルックスには不釣り合いな優しい瞳が現れ、この瞬間に場内を揺るがしたどよめきは、間違いなく今回のラウドパークのハイライト・シーンのひとつだった。バンドのブレイク・ポイントを目撃できたことは、貴重な体験であり、大きな喜びだ。

そのままビッグ・ロック・ステージのディジー・ミズ・リジーを観ていたら、バキバキ+ドカドカ+グオーという音の洪水にずっと晒され続けていたせいか、他のバンドに比べてメタル要素の少ないタイトな演奏とビューティフルな歌があまりにも心地よくホッとして、そのまま全編を見届けてしまった。たまたまなのか何なのか今回「久々の復帰」組が多かったが、このバンドも昨年の暮に再結成したばかり。来年には20年ぶりのニュー・アルバムと単独再来日も決定しているようで、引き続き注目したい。

慌てて地下世界に戻ると、さすがに日も暮れて暗くなったエクストリーム・ステージでは、ナパーム・デスが熱演中。毎度お馴染みの超短い曲も含めつつ、長いキャリアで築き上げた一筋縄ではいかない音楽性で、グラインド・コアの長老としての威信を見せつける。ラウドパークには2009年以来の出演で、筆者はこのイベントで観たのは初めてになるが、ライヴハウスでなく大規模会場でもそのサウンドは十分に説得力を発揮しているのに感心した。

メイン・アリーナでは、ドラゴンフォースからハロウィンという、パワー・メタル・ファンにはこたえられないステージが続くが、自分はじっとカーカス待機。過去に2度ラウドパークで観て、その強烈さにノックアウトされた経験から、個人的にはここがクライマックスになるのは間違いないと確信していた。メタルのフェスは全体的に楽しい、時にほのぼのしたムードさえ漂うものだったりするが、カーカスが舞台上に現れると、スーッと空気が変わるのを感じる。ジェフ・ウォーカーの「ここにいていいのか? ハロウィン観なくていいのか?」みたいなMCにも表れているように、彼らは独特の超越感を放っており、それが殺気のようなものにまで結びついている。2日間みっちり観てきてけっこう疲れていたにもかかわらず、体内を熱いものが駆け巡るのを感じ、余力を振り絞って暴れまくった。

というわけで、2日間の幕を飾る大トリのメガデスは、個人的には会場全体を覆う最高潮の盛り上がりを眺めやりながらのチルアウト・タイムな感じになったのだが、気難し屋として名高いデイヴ・ムステインが、いつにも増してにこやかな表情に見えたのが印象深かった。1曲目の“ハンガー18”にはじまり、“スウェッティング・ブレッツ”や“狂乱のシンフォニー”などは不滅のスタンダードな輝きを失っていないし、終盤の”ピース・セルズ”から“ホリー・ウォーズ~”の流れはインテレクチュアル・スラッシュの真髄を見せていたと思う。これまでなんとなく、高度な楽曲も勿体つけずスラスラと演奏してしまうバンドというイメージを抱いていたが、新しいドラムに迎えたのがラム・オブ・ゴッドのクリス・アドラーなためか、少しタメが効いた感じに聴こえたのも自分には好ましい変化で、まもなく発売される新作も期待したい。

例年にも増して多くの名場面を目撃できた、さらに内容の濃いイベントとなった今年のラウドパークを通じて感じたのは、いったん細分化したジャンルが「ラウドな音楽」という一点で再集約したようなイメージだった。会場には、黒地におどろおどろしい絵がのった定番のメタルTシャツをぺらんと羽織っただけでなく、ちょっとアイドルちっくな可愛いらしい衣装の若い女の子(少女まで!)も目につき、少しファン層にも変化が起きているように思う。その理由について思い当たるところはあるものの、そうした考察についてはまた機会をあらためたい。(鈴木喜之)
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