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    椎名林檎@NHKホール

    椎名林檎@NHKホール - all pics by 荒井俊哉all pics by 荒井俊哉
    表現者としての覚悟と業と生命力が、どこまでも濃密に美しく鳴り渡った2時間。時に麗しく可憐に、時にワイルドに咲き誇る歌のみならず、そのヴィジュアルや佇まい、凄腕プレイヤー揃いのバンド=MANGARAMAの演奏まで完璧にトータルコーディネートして織り上げる至上のポップアートが、そこには確かにあった。昨年末にさいたまスーパーアリーナ2公演/大阪城ホール2公演/マリンメッセ福岡という規模で行われたアリーナツアー「椎名林檎 林檎博'14 -年女の逆襲-」から約1年、全国18公演にわたって開催中の椎名林檎のホールツアー「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」、その東京公演:NHKホール2DAYSの2日目。まだツアー序盤のためセットリストや演出の詳細は割愛、ここでは一部楽曲に触れるに留めさせていただくが、ライヴ全編どこを取っても決定的瞬間ばかりの稀代の名演だった。

    椎名林檎@NHKホール
    椎名林檎@NHKホール
    ツアータイトルにも挙げられた「彼奴等」こと玉田豊夢(Dr)/鳥越啓介(B)/ヒイズミマサユ機(Key)/浮雲(G・Vo)/名越由貴夫(G)/村田陽一(Trombone)/西村浩二(Trumpet)/山本拓夫(Sax・Flute)という強力ラインナップを擁したバンド「MANGARAMA」とともに舞台に登場した椎名林檎。この上なくドラマチック&ミステリアスな歌謡世界をロック/ジャズ/ソウル/ファンク/クラシックなど幅広いサウンド越しに繰り広げる彼女の音楽性が、その卓越したプレイアビリティのみならず、「ヴォーカリストとバックバンド」という構図では割り切れないスリリングな関係性によって新たな息吹を得て、鮮烈なポップ感とヴァイタリティをもってホール狭しと放射されていく。場面ごとに行われる衣装替えも、多彩なアイデアが盛り込まれた映像も、すべてが一丸となって、凛とした「椎名林檎の世界」を作り上げていく。

    椎名林檎@NHKホール
    椎名林檎@NHKホール
    浮雲との絶妙のデュエットを聞かせた“長く短い祭”、スクエアなビートに時折ジャジーなスウィング感を交えてみせた“神様、仏様”、ひときわ気高く響いたロックバラード“至上の人生”……といった2015年リリースの楽曲群、さらに“NIPPON”をはじめ最新アルバム『日出処』の収録曲はもちろんのこと、昨年のアリーナツアー「林檎博'14 -年女の逆襲-」では盛り込まれていなかった初期アルバム2作品『無罪モラトリアム』『勝訴ストリップ』の楽曲も披露。《頬を刺す朝の山手通り》と“罪と罰”のイントロのフレーズを歌い上げた瞬間、客席に思わず驚きと感激の声が広がっていたし、彼女自身がギターを構えて流れ込んだ“警告”がパワフルなブラスロックとしてホールに轟くと、熱気に満ちた客席の温度がよりいっそう高まっていく。

    椎名林檎@NHKホール
    椎名林檎@NHKホール
    加えて、“群青日和”など東京事変の楽曲群、SMAP“華麗なる逆襲”や石川さゆり“名うての泥棒猫”といった他アーティストへの提供楽曲のセルフカヴァーのみならず、「ご存知の方は一緒に歌ってください」と呼びかけて歌ったのは、彼女自身「Deyonna」名義でヴォーカル参加したレキシ“きらきら武士”。ユーモアあふれるディスコファンクナンバーを浮雲とのWヴォーカルで歌う姿に応えて、オーディエンスの手旗が激しく振れる。椎名林檎という表現者が生み出してきたもの――日本の音楽史を刷新してきたその巨大な才能すべてが、時間を越えてひとつの華麗なるエンターテインメントへと昇華されていくような展開に、祝祭感と戦慄が同時に襲ってくるような高揚感を覚えずにはいられなかった。

    椎名林檎@NHKホール
    ほぼMCもなくシビアかつストイックに駆け抜けた本編とは一転、アンコールではヒイズミ/玉田らメンバーをいじったりいじり返されたりする微笑ましい一幕も。観る者の張りつめた心の琴線を激しく掻き乱すハイクオリティなアクトを、彼女自身が全力で謳歌していることが、そんな姿からもありありと窺えた。ツアーはこれでまだ6本目。椎名林檎×MANGARAMAの音像はどこまで昇り詰めていくのか。そして、彼女はツアーのその先に何を描き出すのか。今から楽しみで仕方がない。(高橋智樹)
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