バトルス @ EX THEATER ROPPONGI

新作『ラ・ディ・ダ・ディ』を引っさげての極東ツアー。前日には彼らとも縁が深いはずのスティーヴ・アルビニのシェラックの来日公演もおこなわれ、インディー原理主義者の頑固一徹の「鋼鉄の音」にシビれまくって、こっちの気分はむやみと高揚している。どうやらバトルスのメンバーも見に行ったらしい。

海外でも評価が高い神戸の女性3人組ZZZ'sがまずは登場。サポート抜擢はバトルス自らの指名だそうだが、初期PiLを思わせるダークでねじ曲がったオルタナティヴ・グルーヴはかなりの聞き物だった。もう少し聴きたいと思わせるタイミングで終わるのも良い。

場が適度に温まり、例によってクラッシュ・シンバルがステージ真ん中のとんでもなく高い位置にセッティングされると、いよいよバトルスの出番だ。

まずはデイヴ・コノプカが登場、例によってルーパーを使って細かいフレーズを積み重ねながらループを展開させていく。続いてイアン・ウィリアムスが繊細かつ大胆な手つきで音を折り重ね、複雑な模様を作り出す。最後に登場したジョン・スタニアーのドラムが、力業としか言いようがないソリッドでダイナミックで骨太なビートを振り下ろすと、爆発的な高揚感が脳天を突き上げ、バンド全体のギアが3段ぐらいあがったような凄まじいグルーヴが会場全体を圧倒的な強度と振幅でドライヴし揺らしていった。めちゃくちゃかっこいい。めちゃくちゃスリリング。こういう演出、過去の来日公演でありましたっけ?

ルーパーを使ってリアルタイムで音を重ねてサウンドを構築していくやり方は、いまや珍しくもないが、その多くはひ弱なお遊戯の域を出ない。だがバトルスはジョンという傑出したドラマーを中心に据え、バンドの核としてシンボリックに際立たせることで、その演奏には他の凡百とはまったく次元の異なる逞しい肉体性が付与された。強靭そのもののグルーヴは過去のどのバトルス公演よりもフィジカルであり、ダンサブルだった。超満員のEXシアターは狂乱の渦である。

そしてルーパーによるリアルタイム構築の精密さ、大胆さは、完成度は、今回のバトルス公演である種の頂に達した感がある。そこではギターやベースは感情表現のための楽器というより、思いついたアイディアの入力装置に過ぎない。その入力装置から入力された信号が生きもののようにうねり、絡み合い、緩急強弱をつけメリハリたっぷりに上下し、予測のつかない猛烈な速度で膨大な数のジグソー・パズルのピースを正確に埋めていく。その手際の良さ、鮮やかさは、ポップの新しい快感原則、新たなツボを開拓したかのようで、まさに驚異。言葉にならない感嘆の声しか出ない。これはもはやエクスペリメンタルというよりも、職人の手練れの技であり完成された「芸」といえるかもしれない。それはポップの新しい形であり、今後ルーパーを使おうとするアーティストたちにとって、バトルスが乗り越え打ち壊すべき巨大な「壁」になったことをも意味している。

約70分という短い時間だったが、この凝縮した密度の濃さこそバトルス。前日のシェラック同様、大満足で帰途についたのだった。(小野島大)
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