ダイナソー・パイル・アップ @ 渋谷クラブクアトロ

もう何度もフェスで来日しているので意外だがこれが初の単独来日。これが楽しいライヴだった。

全13曲、70分余。まことにもって簡潔で率直で、どこにも無駄のない見事なライヴだった。一切緩みも休みもない。速射砲のようなロックンロールが次々と放たれて、ダラダラする間もなく、あっという間にライヴは終わった。間違いなくダイナソー・パイル・アップはバンドとして最高・無敵の状態にある。これがロックンロールのライヴというものだ。外に出たらまだ8時半前。夜がたっぷり使えて最高じゃないですか。

全13曲のうち最新作『ELEVEN ELEVEN』の楽曲が8曲。新作のプロモーション・ツアーなんだから当然といえば当然だ。だがそれまでの作品がマット・ビッグランドのワンマン録音だったのが、『ELEVEN ELEVEN』は初めて3人のメンバーが録音に参加した、いわば初めてのバンド作品だったのだ。つまり現在のダイナソー・パイル・アップの鉄壁のバンド・サウンドをもっとも生かすことのできるのが『ELEVEN ELEVEN』の楽曲だということ。

スマッシング・パンプキンズやニルヴァーナのような90年代グランジ~オルタナティヴから、情念やルサンチマンを取り去って現代流の機能的でキャッチーなヘヴィ・ロックとして完成度を高めたというか。メロディはポップで、ヴォーカルもメロディを生かすだけの技量がある。コーラスを効果的に生かし、楽曲のフックの作り方、見せ方がうまいので、ヘヴィだが重苦しくならないし、ハードだが耳に痛くない。音楽的方向性にまったく迷いがなく、表現がストレートで合理的だから、カタルシスも得やすい。なにより、既に日本のファンの前では何度もやっているだけに観客との呼吸もばっちりで、アーティストもリラックスしていて楽しそうだ。聴き手に無用な緊張を強いるところがないのもいい。途中に挟まれたギター弾き語りパートもいいアクセントになっていた。

これからアルバムの数を重ねるにつれ、レパートリーの数は増え、必然的に音楽性の幅は広がり、簡潔で短かったライヴ時間は長くなっていくだろう。いわばバンドが成熟し完成していく途中過程だったと、あとになって振り返ればそう捉えられるかもしれない。だがそうであるならこの日のライヴは、ほんの一瞬の「バンドにとっての青春期の輝き」だった可能性が高い。この日の会場にいた観客は、その貴重な目撃者であり併走者だったのである。(小野島大)
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