The 1975 @ EX THEATER ROPPONGI

この曲が一曲目だったらいいなと予想していた、というか、今一番「ライヴで聴きたい」と思っていた曲から始まった。そう、この日のライヴは、発売を来月に控えたアルバム『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』(なんて素敵なタイトル!)に収録され、すでに先行でMVも公開されている“Love Me”からスタート。皆この瞬間を待ちわびていたのだ。のっけから会場は異様なほどのヒートアップぶり。70年代のファンクネスも80年代の華やかさも90年代のオルタナ感も、すべてを受け継いで、2016年の今鳴らされる音。やはりこの曲は凄い! 予想以上のグルーヴ感に会場中が揺れる。The 1975第二章の幕開けともいえる、強烈な色彩を放つような音が鳴り響く。

約1年ぶりとなったThe 1975の来日公演、チケットはソールドアウト。会場のEX THEATER ROPPONGIは超満員で、フロアは立錐の余地もない。ステージセットはいたってシンプルだが、その分、照明がとても効果的に楽曲を彩る。シャワーのように降り注ぐ複数のスポットライトと長方形に組まれた3つのライトが、鮮やかな原色の景色を見せてくれたり、時にはモノクロームのシャドウを浮かび上がらせたりと、それぞれの楽曲ごとにイマジネーションが膨らむような美しいライティングを見せてくれた。

アルバム『The 1975』の中でも高い人気を誇る“Settle Down”のポップなギターのイントロが鳴り響くと一際大きな歓声が湧く。そして前回と比べても、その演奏は格段に心地好さが増していた。音響の良さに定評のある会場だから、というだけではない。メンバーそれぞれの演奏力、リズムのメリハリ、間の生み出し方がどんどん洗練されてきているのだ。特にジョージのドラムは20代の若手バンドとは思えないほど成熟している。

中盤、“You”のエンディングでアダムが美しいギターリフを反復させながらフィードバックノイズにつなげ、そこにサックスの音が絡んでくる。そのまま自然な流れでアンビエントなインタールードとして“HNSCC”が奏でられ、そして“Menswear”へと続く静かで美しい時間。この流れが、ポップ・ミュージックの普遍性の中に実験的なアプローチを無理なく共存させるThe 1975の非凡さを見事に表していた。そして、「レディース&ジェントルマン! また帰って来られて嬉しいよ!」ととびきりの笑顔を向けてくれたマシュー。「新しいアルバムを作ったんだ。俺たちの真のファンであるキミたちのために演奏するよ」と、新曲“A Change Of Heart”を披露する。ギターの一音一音がはじけるような多幸感を感じさせ、伸びやかなヴォーカルにコーラスワークも美しいこの曲は、これまでのバンド・サウンドの延長にありながら、明らかにひとつ殻を破ったような、圧倒的なスケールを感じさせた。続いて力強いドラムが響くと、再び新曲の“She’s American”。ファンキーなギターは、ナイル・ロジャースを思わせるほど抜群のタイム感を醸し出す。バンドのさらなる躍動をはっきりと感じさせる演奏だった。この後マシューは「(今回は)この場所で今夜一度きりのライヴだけど、スペシャルなショウにするよ。だから、携帯電話は下ろして、みんなの美しい顔を見せてくれないか」と語りかけ、前回のライヴと同じく、スマホでの撮影に熱が入ってしまうファンをやさしく諌める。そんな言葉選びもファンのハートをくすぐるのだ。そして、ワイングラス片手に歌ったり、アンプに腰掛けてタバコを吸ったりする姿が、この年齢でこれほど様になってしまうアーティストも珍しい。そのカリスマ性はライヴを重ねるごとに色濃くなっていく。

“Falling for you”で聴かせるファルセット、“Somebody Else”のややハスキーな中音域と、マシューの声の魅力を存分に堪能できるセットで後半が進んでいく中、「次も新曲を。この曲は俺たちのバンドを変えていく一曲になると思う」と言うと、間髪入れずに“The Sound”を歌い始め、会場中が歓喜の声を上げる。ポジティヴな予感に満ちたこの曲は、まさにこれからのThe 1975を表している。ブレイクで「みんな、思いっきりダンスして!」と語りかけ、「1、2、3、4!」のカウントの後、クリアなギターソロが響き渡る中で、客席はフロア最後方まで大きくジャンプ。そして本編最後の“Girls”では、会場中がとても気持ち良さそうにシンガロング。この光景は本当に美しかった。

「1975! 1975!」とアンコールを求めるコールが響く中、そういえばまだあの曲も!あのキラーチューンもやってないじゃないか!と、ふと我に返る。あまりにも内容が良すぎて、「あの曲はまだかな」とか「あの曲をやってほしい」とか考える余裕もなかったのだ。アンコール1曲目は徐々に熱を帯びていくエモーショナルなスローナンバー“Medicine”。そして「2013年のアルバムからこの曲を!」と“Chocolate”へ! 会場中《That’s what she said》と声を合わせて歌うタイミングもバッチリで、みんな歌詞の記憶が完璧! 思わず「サイコー!」とマシューから日本語も飛び出す。最後に「ありがとう東京! またサマーソニックで帰ってくるから。最後にもう1曲行くよ、いい?」と、繰り出されたのはもちろん“SEX”。ハンドクラップとシンガロング、ダンスとジャンプ、会場中に本気の名残惜しさが充満する。ギターのシークエンスとフィードバックノイズを置きみやげに、約1時間半のショウは終了。新曲“UGH!”も聴きたかったけれど、これは次回のサマソニまでお預けということで。とにかく、The 1975の驚くべき進化を目の当たりにした素晴らしいライヴだった。新しいアルバムがリリースされたら、さらに多くのファンのハートを鷲掴みにすることだろう。8月のサマーソニックでの来日がすでに待ち遠しい。(杉浦美恵)


SETLIST
01. Love Me
02. Heart Out
03. Settle Down
04. So Far (It's Alright)
05. The City
06. You
07. HNSCC
08. Menswear
09. A Change Of Heart
10. She’s American
11. Me
12. Fallingforyou
13. Somebody Else
14. The Sound
15. Robbers
16. Girls

En1. Medicine
En2. Chocolate
En3. Sex
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