The 1975、ついに覚醒。新作『ネット上の人間関係についての簡単な調査』は、2010年代の『OKコンピューター』となるのか

The 1975、ついに覚醒。新作『ネット上の人間関係についての簡単な調査』は、2010年代の『OKコンピューター』となるのか

The 1975の待望のニュー・アルバム、『ネット上の人間関係についての簡単な調査』がついにリリースされた。前作『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』から約2年ぶりとなる本作は、来年リリース予定の『Notes On A Conditional Form』との2部作になる予定で、この2作品はThe 1975のキャリアにおける「Music For Cars」という「時代」であると彼らは説明している。

ちなみに「Music For Cars」時代とはThe 1975が真の意味で重要なバンドになった、もしくはなろうと努力した時代であるとマシュー・ヒーリーは言っていたが、『ネット上の人間関係〜』はまさに彼らがオンリー・ワンの地位を確立するために、幾多の犠牲を払ってでも混沌の時代を背負う決意の元で生み出された、問題作にして最高傑作なのだ。


ここには歪んだボーカルが孤独の輪郭を捉えていくR&B(“The 1975”)があり、快楽に逃避するバレリアックなトロピカル・ハウス(“TOOTIMETOOTIMETOOTIME”)もある。ジョイ・ディヴィジョンの“Disorder”へのオマージュ(“Give Yourself A Try”)から、世を儚む男のナイービティ寄り添うアコースティック・バラッド(“Be My Mistake”)、さらにはトム・ミッシュやロイル・カーナー周辺と共振するゴスペルをフィーチャーしたジャジー・ソウル(“Sincerity Is Scary”)もある。もちろん彼らのデビュー当時からの十八番であるキャッチーなニューウェイヴ・ポップ(“It’s Not Living (If It’s Not With You)”)も健在だ。


The 1975のポップの適用範囲がさらに拡大&深化しているという点では、本作は『君が寝てる姿が好きなんだ〜』の路線を踏襲した作品には違いない。しかし、最終的に本作を聴き終えた時のブルー・グレーの陰りを帯びた余韻は、前作とは全く異質なものになっている。何故ならエレポップ、エモ、ファンク、アンビエント、シューゲイザーとくるくる表情を変えていった『君が寝てる姿が好きなんだ〜』が彼らのポップ・アクトとしての柔軟性の賜物だったとしたら、本作のバラエティとはむしろ、躁鬱的な混乱と分裂の結果であるからだ。


そう、本作は端的に言って混乱し、分裂した個人と世界を活写した作品であり、そんな本作の躁鬱の構造は歌詞においてより顕著に現れている。例えば、「試してみようよ」と歌うポジティブなメッセージ・ソングかと思いきや、マシューが自分たちのファンである10代の少年少女に対して「俺みたいな失敗作になるな」と警告する“Give Yourself A Try”。彼の言う「失敗」とは、ヘロイン中毒に苦しみ、どん底を見た自身の2年間を率直に示したものだ。

また、ヘロインに溺れ、ポップ・スターの驕慢を演じてきた自分への痛烈な嫌悪が綴られた“Love It If We Made It”は、そうして彼のようにソーシャルとパーソナルで人格を演じ分けることが当たり前となった時代の空疎と虚しさをも体現している。リル・ピープを追悼し、トランプ米大統領の誕生によって撒かれた不寛容と憎悪の種を糾弾しながらも、その一方では「俗受け狙いのリベラル」をも皮肉る“Love It If We Made It”は、本作中で最も具体的な現行のポリティカル・イシューが詰め込まれたナンバーだ。こうしてマシュー個人の問題と社会の問題が歩み寄り、渾然となっている点が本作のリアリティを産んでいるのだ。

マシュー個人の問題がドラッグ禍やポップ・スターを演じる中で喪失した自我だったとしたら、「僕のアドバイスには一つも従ってはいけない。変わることのない未来の自分に手紙を書くんだ。インターネットに自分の時間を食い潰させてはいけない」(“How To Draw / Petrichor”)と歌われるように、本作で描かれる社会問題の大きな要素がインターネットであり、インターネットが引き起こすデジタル・エイジの精神摩耗であることは明らかだ。まさにデジタル・エイジを謳歌し、ウェブ上のヴァイラルを味方につけてのし上がってきた時代の寵児であるThe 1975が、自分たちに最も身近で避けては通れない問題と改めて向き合った意味は限りなく大きい。


ちなみに、幽玄のフォークトロニカがいつしか神経質に痙攣するブレイクビーツに塗れていく“How To Draw / Petrichor”は、レディオヘッドを彷彿させるナンバーだ。また、インターネットを唯一の友とした孤独な男の破滅を白々しいほど快活なスポークンワーズで告げる“The Man Who Married A Robot / Love Theme”を聴いて、『OKコンピューター』の“Fitter Happier”を連想せずにいるのは難しい。“Surrounded By Heads And Bodies”のスパニッシュなアルペジオに、“Paranoid Android”を見出す人もいるかもしれない。「サード・アルバムはバンドにとって最も重要な分岐点」であると語ったマシューが、その最たる例として挙げていたのが『OKコンピューター』であったことを思えば、彼らのサード・アルバムである本作が、『OKコンピューター』をロール・モデルとしたことは想像に難くないだろう。

加速する移動手段、情報処理の中で思考停止し、自分を見失っていく様を描いたレディオヘッドの『OKコンピューター』は、まさにミレニアム・エイジを先取りした予言でもあった。そしてThe 1975の本作は、21年前の予言が現実化した現在に生きる彼らが自分と自分たちの世代に向けて鳴らすアポカリプスであり、その混沌たる現実から目を逸らさないという決意によって、なけなしの希望をも孕んでいる作品だ。トレンディなポップ・ロック・バンドとして大成功を収めてきたThe 1975の、鮮やかにしてシリアスな覚醒作なのだ。(粉川しの)

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