「さあ、始まるぞ! ジジイもババアもガキどもも、かかってくるんだろうな!」……意気揚々と呼びかける難波章浩(Vo・B)の言葉に、そして開演前から感激クライマックス状態の横山健(G・Vo)&恒岡章(Dr)の表情に、汗と熱気に煙るO-EASTのフロアが魂の大歓声に包まれていく――そう、Hi-STANDARDの新しい歴史が、まさにここから「始まる」のだ。
2011年の「AIR JAM 2011」での再始動以降のライブ活動も、実に16年ぶりの新曲リリースとなったシングル『ANOTHER STARTING LINE』のサプライズリリースも、バンドの「復活」を強烈に印象づけるものではあった。が、10月4日についに発売されたニューアルバム『The Gift』を携え、全国ツアー「THE GIFT TOUR 2017」が開幕――インディーズパンクの「伝説」だったバンドが、格段に鍛え抜かれたタフな爆音越しに「今」を震わせ、まっすぐ「未来」を指し示していく風景は奇跡そのものだった。
この日のゲストアクトとして登場したのは、PIZZA OF DEATH RECORDSのレーベルメイトだったHAWAIIAN6。特に、横山と交流がもうすぐ30年になるというHATANO(Dr)の感極まりっぷりは並大抵のものではない。
10月4日にリリースされたばかりのニューアルバム『Beyond The Reach』から繰り出した“Bleed”などの最新楽曲群に加え、“MAGIC”、“PROMISE”など歴代アンセムを惜しみなく連射しながら、「ダメだ! もう今日ダメだ。リハから涙が止まらないなんてダメだろ!」と目を潤ませ、「震災があった時とかさ、音楽シーンがつまんなくなった時とか、『こんな時にハイスタがいてくれたらなあ』とか死ぬほど思ったけど……今日から始まるんだよな、ハイスタが!」と突き上げる言葉はそのまま、この場に集まったキッズの想いを何よりリアルに象徴するものだった。
そして、いよいよHi-STANDARD! いきなり最新作『The Gift』のオープニングを飾るナンバー“All Generations”で幕を開け、超満員のキッズの情熱を片っ端から燃え上がらせると、間髪入れずに畳み掛けた“Summer Of Love”でフロアが激しく波打ち、怒濤のシンガロングが巻き起こり、クラウドサーファーが次々と舞台を目指していく。
アルバム&ツアーという形で「ハイスタの歴史が再び動き出した」という喜びももちろんだが、この日のフロアを何より強烈に揺り動かしていた原動力は他でもない、難波/横山/恒岡の3人が轟かせるアンサンブルとビートの破格の強度とダイナミズムであり、この場にいる誰ひとり振り落とすことなくパンクロック祝祭空間へ導くメロディとサウンドのタフな包容力だった。
セットリストからもおわかりの通り、“Dear My Friends”、“Lonely”、“Standing Still”など活動休止前のパンク・マスターピースの数々をがっつり盛り込んだ2時間弱のステージの中に、“The Gift”、“Going Crazy”をはじめアルバム『The Gift』の半分以上の楽曲を盛り込んでみせた意欲的なアクト。「新作と昔のとが混じると、焦るわー!」(難波)と照れくさそうな笑顔を見せながらも、当の新曲をツアーで、しかもライブハウスで炸裂させることに、舞台上のメンバー3人自身が誰よりも高揚している様子が明快に伝わってきて、思わず嬉しくなる。
今日が誕生日という観客2名に向け、♪Happy birthday, dear お前〜とギターを弾きながら横山が歌って一面の合唱を呼び起こしたかと思うと、続く “Time To Crow”ではその2名をステージに招いてコーラスパートを委ねてみせる。
特別にファイティングポーズをとっているわけでもないのに、その佇まいはどこまでも強靭な闘志とアイデンティティに貫かれていて、しかもフレンドリーで、開放的な空気感に満ちてもいる――最高のバンドだけが描き出せる「パンクロックの理想郷」と呼ぶべき場所が、そこには確かにあった。そして、それは取りも直さず、熱狂の中を激走してきた2000年までの歩みを3人が対象化し、克服し、「その先」へと進む不屈の覚悟を決めたからに他ならない。
「『AIR JAM 2011』で活動を再開してからしばらくの間はさ、新曲もなくて。なんだか、昔の自分たちにぶら下がってるようで、結構つらい思いを俺たちしてたのよ。たぶん、このふたりも同じ気持ちだったと思うんだよな」と横山。「『大人になってもいいじゃんね!』っていうモデルっつうか、俺たちはそんな感じになれたらいいな。ねえ? 『おっさんになってもいい感じじゃね?』って思われてえな、これから!」と難波。その言葉のひとつひとつが、楽曲とともに熱い歓喜の雄叫びを湧き上がらせていく。
「健くんが超歌うようになってから、ほんと助かるわ!」(難波)のMCに続けて、難波のベースライン&横山ボーカルで“My Girl”へ流れ込む……といった場面からも、それぞれの道を歩んだ3人が再びHi-STANDARDとして結集した実感が改めて濃密に滲んでくる。
“My Heart Feels So Free”の後で「『ああ、こんな幸せがあるんだ』とか楽しいと思えたらさ、こんなクソみたいな世の中でも楽しくなれると思うよ。自由だと思ったら自由だよ。自由じゃないと思ったら自由じゃない。自由でいろよな!」という難波の言葉を挟んで“Free”へ……といった展開のひとつひとつにも、時代を生き時代に発信するパンクロックのアティテュードが確かに宿っていたこの日のアクト。
“Starry Night”でさらなるシンガロングの輪を生み出し、「輝けっかっちゅう話だよ! 輝けんのか!」(難波)のコールとともに“Stay Gold”でキッズを激情のカオスへと叩き込む。「次の曲は、新しいテーマソング! なあ難ちゃん?」(横山)と“Another Starting Line”で眩しいくらいの多幸感を生み出し、本編最後の“Fighting Fists, Angry Soul”へ――さまざまな感情が爆風の如く体と心を吹き抜けた、圧巻のアクトだった。
アンコールを求める手拍子に応えて再び3人が登場。フロアから上がる「もう死んでもいい!」という言葉に、「死んじゃダメだ!(笑)。俺ら、まだまだやるから」と横山。新作曲“Can I Be Kind To You”を皮切りに立て続けに響かせていった“Teenagers Are All Assholes”、“Brand New Sunset”に、割れんばかりのシンガロングが吹き荒れる――。
すべての音が止み、握手とハグを交わす難波&横山。演奏を讃え合いながらフロアへダイブする横山&恒岡。あまりにも最高の、「時代の幕開け」の一夜だった。
なんとチケットの総応募数が40万通に達したという今ツアーはまだまだ始まったばかり。ファイナルは12月14日・さいたまスーパーアリーナ!(高橋智樹)
●セットリスト
HAWAIIAN6
1.THE LIGHTNING
2.BURN
3.JUSTICE
4.BRAND NEW DAWN
5.BLEED
6.MAGIC
7.TINY SOUL
8.A LOVE SONG
9.I BELIEVE
10.ETERNAL WISH, TWINKLE STAR
11.PROMISE
12.LIGHT AND SHADOW
Hi-STANDARD
1.All Generations
2.Summer Of Love
3.Close To Me
4.This Is Love
5.The Gift
6.Dear My Friends
7.Lonely
8.Time To Crow
9.Standing Still
10.Going Crazy
11.Pacific Sun
12.My First Kiss
13.We’re All Grown Up
14.Cabbage Surfin’
15.New Life
16.My Girl
17.Pink Panther
18.My Heart Feels So Free
19.Free
20.Starry Night
21.Stay Gold
22.Another Starting Line
23.Fighting Fists, Angry Soul
(アンコール)
24.Can I Be Kind To You
25.Teenagers Are All Assholes
26.Brand New Sunset
終演後ブログ
※記事初出時、内容に誤りがありました。訂正してお詫びします。