「『誕生会』なので――今日生まれたということで、初めて聴くと思いますけど、よろしくお願いします!」(福岡晃子)
本日6月27日に発売された、チャットモンチーのラストアルバム『誕生』。そのリリースを記念して渋谷WWW Xにて開催された「チャットモンチー『誕生』リリースイベント誕生会」には、新作を心待ちにしていたオーディエンスが多数集結した。
チャットモンチーの「完結」=活動終了までのライブの機会はこの「誕生会」と、7月4日(水)の日本武道館ワンマンライブ「CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~」、そして7月21日(土)・22日(日)に地元・徳島で行われる自身主催フェス「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018 ~みな、おいでなしてよ!~」を残すのみ、ということもあり、開演前の場内には期待と緊張感が入り混じった独特の空気感が漂っている。
が、前説で登場した橋本絵莉子&福岡晃子の「したことないよ、渋谷で誕生会とか」(橋本)、「でも一回、えっちゃん誕生日当日に渋谷でライブやった時あるよな?」(福岡)、「……ありました、やっぱり(笑)。2回目でした!」(橋本)といったトークがフロアを沸かせ、会場の空気を一気に解きほぐしていく。
今年3月のトリビュート盤『CHATMONCHY Tribute ~My CHATMONCHY~』に一般公募から選出され参加した2組のアーティストをゲストに招いて行われたこの日の「誕生会」。
チャットモンチーの前説に続いて登場したのは、昨年10月に結成されたばかりの男女ユニット「月の満ちかけ」。作詞も手掛ける熊谷あすみのエアリーなボーカルと、作編曲・今井カズヤの澄んだピアノの音像が、サポートバンドの響きと相俟って晴れやかな多幸感を描き出していく。8月リリース(7月7日(土)配信リリース)のアルバムから披露した“月の満ちかけ”、“まぼろし”に続いて、『My CHATMONCHY』にも収録されていた“小さなキラキラ”のカバーへ。「この曲を、本人の前で演奏できるなんて光栄ですが……緊張してます!」と言いつつ、チャットの楽曲を熊谷&今井のふたりで静謐な音風景へと編み上げてみせた。最後、フルート&フリューゲルホルンも含めた計7人編成での“ホームタウン”が、ひときわ豊潤な音空間を生み出していった。
続いては神戸発3ピース「ペペッターズ」。中西幸宏(B・Cho)&國乘 豪(Dr・Cho)が繰り出すファンキーなビート感と、広村康平(G・Vo)のねじれたコードワークが織り成す、クールでポップでミステリアスなサウンドスケープ。ファニーな中に獰猛さをも秘めた歌とアンサンブルで、“マーティン”、“Nagarl”、“louve”と1曲ごとにオーディエンスをぐいぐいと惹きつけていく。
「これだけチャットモンチーが好きな方々、チャットファンが集まった光景を目の当たりにして――僕もチャットファンなので、みんなマイメンだなあって(笑)」(広村)と会場を和ませつつ、同じくトリビュート盤に収録された、スロウ&メロウなソウルバージョンの“こころとあたま”を披露。最後の“PLOT”まで、ポップの異次元に迷い込んだようなストレンジなワクワク感でフロアを満たしてみせた。
そしてチャットモンチー。“CHATMONCHY MECHA”がSEで流れる中、スタンバイを終えた「メカ編成」のふたりが奏でたのは“たったさっきから3000年までの話”。《あなたがかなりおじいさんになる頃/どんな日本なのでしょう》と凛とした歌声を響かせる橋本。途中までキーボードを奏でていた福岡は、後半にはドラムとキーボードを同時に演奏して、ハイブリッドな質感の音像に生々しい躍動感を宿らせていく。
続く“the key”では、キーボード&コーラスの福岡に対し、橋本はバリトンギター(通常のギターよりも低い音域の出るギター)を構え、静かな楽曲世界の中に歌の透明感とゴリッとした弦の響きのコントラストを描き出していく――といった具合に、1曲ごとに担当楽器と役割を変えながら楽曲とアンサンブルにアプローチしていく図はもちろんのこと、それがもはや当然のように血肉化されているふたりの佇まいに、改めて驚きと感激を禁じ得なかった。
月の満ちかけ&ペペッターズのライブを観て、「自分らが知られてない時にやってたライブのことをすごい思い出しました」と感慨深げな橋本。「もう、尖り散らしてたからね(笑)。えっちゃん、『ありがとう』に心こもってなかったもんな?」と続ける福岡に、「はあ、正直に言えば(笑)。今はもう全然そんなことないけど」と橋本が答え、会場一面に大爆笑が広がっていく。
だが、次の“裸足の街のスター”に移る前、「こういう機会もあとちょっとと思うと、変な感じしますけど……頑張ります」とつぶやくように語る橋本の言葉に、フロアは一瞬息を呑んだような静けさに包まれる。
バンド生活を振り返るような福岡作詞の“裸足の街のスター”(橋本:Vo・Per・Melodica/福岡:B・Cho)に続いて、「次は、くみこん(元ドラマー:高橋久美子)が書いてくれた歌詞の曲をやります」というMCから“砂鉄”へ(橋本:Vo・G/福岡:Key・Cho)。《同じクラスだったら 友達にはなってないだろうな》と《別の星に生まれていても 僕らは出会ったのだろうね》のフレーズが、いきなりバンドの「同志」として始まった橋本・福岡・高橋の関係性が、橋本の歌越しにリアルに浮かび上がってくる。
最後はDJみそしるとMCごはんをゲストに迎えての“クッキング・ララ”を、時に福岡が手にしたシンセベースを奏でながら、時に3MCスタイルで軽快な歌とラップを響かせながら、朗らかな開放感と祝祭感を生み出していった。
「『完結』という言葉を言ってから本格的に作ったアルバムだったので。みなさんの顔を思い浮かべながら、でもやっぱり挑戦――最後まで一歩でも前進したいという気持ちで、こういうアルバムを作りました」
アンコールでアルバム『誕生』について語る福岡の言葉に、フロアから惜しみない拍手が沸き起こる。そして、「聞いたところによると、まだもうひとりゲストが……」という橋本の言葉に続けて呼び込まれたのは、チャットモンチーの長年の盟友=Base Ball Bear・小出祐介。シークレットゲストが人目についてはマズいと思ってバックステージで8時間待った、と明かして笑いを誘いつつ、「とても素敵な『誕生会』ですね!」と弁舌爽やかにフロアを盛り上げていく。
小出「あっこには、うちに来てもらってたりしてるけど……」
橋本「えっ!?」
福岡「家ちゃうよ?」
小出「家じゃないよ(笑)。Base Ball Bearで歌ってもらったりしてるけど、チャットモンチー側に俺が来ることは今までなかったし」
橋本「ああ〜」
そんなくだけたトークの合間に、「最初の頃はチャットモンチーのことを『好き』って言いたいけど、認めたくなかった。でも、『若若男女(サマーツアー)』とかで一緒にやるようになって、『こんなにいいバンドなんだな』って思って。それから10何年ずっと、一緒に戦いながらも、僕はチャットモンチーをリスペクトしてきましたよ」という小出の虚飾なき言葉から、ほぼ同時期にメジャーデビューを飾った「同期」ならではの感情が窺えた。
「誕生会」のフィナーレとして橋本・福岡・小出の3人でカラオケスタイルで披露したのは、アナログ盤『たったさっきから3000年までの話』のカップリングに収録された“恋の煙(同期ver.)”。「いやあ、大人の『誕生会』だったわ。最後、スナックみたいになってた(笑)」という福岡の感想に、フロアがどっと沸き返る。
最後は小出&DJみそしるとMCごはんのゲスト2人も含めて観客とともに記念撮影。ラストアルバムであると同時に、ふたりの新たな「始まり」の1枚でもある『誕生』の門出を祝う、最高の「誕生会」だった。(高橋智樹)
●セットリスト
月の満ちかけ
01.月の満ちかけ
02.まぼろし
03.小さなキラキラ[チャットモンチー カバー]
04.ホームタウン
ペペッターズ
01.マーティン
02.Nagarl
03.louve
04.こころとあたま[チャットモンチー カバー]
05.PLOT
チャットモンチー
SE CHATMONCHY MECHA
01.たったさっきから3000年までの話
02.the key
03.裸足の街のスター
04.砂鉄
05.クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん
En.恋の煙(同期ver.) with 小出祐介(Base Ball Bear)