●セットリスト
1. LA DOLCE VITA
2. 黄昏のダンス
3. ACTRESS
4. 空色の部屋
5. 三毛猫シェリー
6. 四角い箱にいた頃
7. ジャンプ(新曲)
8. サンサーラ(新曲)
9. 新月とコヨーテ(新曲)
10. 黒うさぎ
11. KISS OR KILL
12. ハイエナ
13. FAKE
14. EPILOGUE
(アンコール)
EN1. 孤独を抱きしめ空を仰ごう
EN2. まだ間に合うから
全力で走り転げ、顔を上げた先に見つける野花のような美しさと逞しさ。シンガーソングライターlukiによる約4ヶ月ぶりのワンマンライブは、「真冬の夜の夢」という公演タイトルのもと、人生の悲喜劇を映し出す新旧の楽曲たちが彩るステージになった。まずは今春にリリースされた素晴らしいアルバム『ACTRESS』から上質なシティポップ風のダンスチューン“LA DOLCE VITA”が、空虚な街の風景を色づかせるように披露される。舞い上がるメロディに導かれ、四肢を大きく揺り動かして歌うlukiである。
甘美な愛の時間を描く“黄昏のダンス”では、lukiが得意とするブルースハープの音色も、曲調に寄り添って滑らかな響きになる。前々日・前日の陽気にびっくりした、と「真冬の夜の夢」の公演タイトルについて語り出す彼女は、深い悲しみを抱え込んだまま今も活躍し続けるウディ・アレンの作風について楽しそうに語り、爪弾かれるアコギのフレーズの隙間から切々とした願いを立ち上らせる“ACTRESS”へと繋いでいった。ライブサポートのメンバーは、luki作品のアレンジャーでもある円山天使(G)、山本哲也(Key・G)、張替智広(Dr)という盤石の顔ぶれだ。
開放感に満ちたメロディのオルタナロックチューン“空色の部屋”のあと、lukiは自然のエネルギーを摂取したい思いから野草を食べる、という以前のライブでも語られていた話題を提供するのだが、これがとある強力な毒性を持った野草だったことを告白。調理法が良かったためか幸運にも大事には至らなかったそうだが、笑いのネタとしてもシュール過ぎるので今後はマジで控えていただきたい。自然つながりで動物の名前に由来する楽曲群も盛り込んでゆくことを告げ、猫耳を装着した“三毛猫シェリー”ではフワフワとした酩酊オルタナポップを歌い上げる。ジャズドラムンベースの同期を絡めた“四角い箱にいた頃”では、バンドの躍動感が急激に上昇していった。
多作家で知られるlukiだが、今回のライブでも3曲の新曲が用意されていた。「人間関係でも、相手のことは変えられないけど、自分と未来は変えられる」という思いが込められた新曲“ジャンプ”は、風通しの良いメロディと歌詞が触れる者の背中を押すナンバーだ。不運に捉われたときもジタバタしない方が良い、という思いをサンスクリット語の輪廻転成から汲み取る“サンサーラ”は、ダンサブルに展開する楽しげな曲調。さらに占星術で言うところの水星逆行、アンラッキーな時期がちょうど終わる頃であることを告げてからの“新月とコヨーテ”は、辛抱強い心持ちが込められた美曲であった。3曲とも、lukiの博識な着想と、カエターノ・ヴェローゾを思わせるMPBアレンジに支えられた豊穣なポップチューンになっている。
“黒うさぎ”から“KISS OR KILL”、そして“ハイエナ”と繋ぐ流れは、ハイブリッドにして獰猛なロックサウンドが剥き出しのエモーションを運ぶ一幕。そしてアルバム『ACTRESS』のテーマの一端を担っていたと思われる“FAKE”へと向かうとき、luki は「恋愛のときは相手に合わせるタイプで、いつもボロが出る。それが良いところでもあり、悪いところでもあります」という奥ゆかしい、人間臭い思いを口にしていた。そして本編フィナーレは“EPILOGUE”。「終わりは始まり、の歌です」と思いの焦点を確認するように告げてから、彼女は歌い、壮大なアウトロにブルースハープのフレーズを染み込ませるのだった。
アンコールに応えると、ウルトラマラソンに挑み続けるランナーとしての彼女のテーマ曲とも言える“孤独を抱きしめ空を仰ごう”を、円山が奏でるアコギ伴奏とともに披露する。来る12月16日(日)には「第3回沖縄100Kウルトラマラソン」に出場予定ということで、「なんとかベストタイムを出したいと思います」と熱意を露わにしていた。精神と肉体を極限まで追い込むような彼女のライフスタイルと表現に、圧倒されてしまうことはままある。しかしそこには、そんな彼女だからこそ見える喜びや幸福の風景があるのかも知れない。
いや、それはもはや約束ですらなくて、lukiはいつでもそんな極限の希望を追いかけているのだ。最終ナンバー“まだ間に合うから”のメッセージに触れながら、そんなことを思った。次回ワンマンは2019年3月29日(金)、ホームグラウンドと呼ぶべきShibuya LUSH。彼女はそこで、走り続ける人生の新たな土産話を聞かせてくれるのだろう。(小池宏和)