●セットリスト
01.リボルバー
02.our time city
03.最終回
04.顔で虫が死ぬ
05.2月の水槽
06.バッドエンド週末
07.アボカド
08.センチメンタルシスター
09.悲しみはいつもの中
10.ワンルーム
11.往生際(新曲)
12.どうでもよくなる
13.沙希
14.サイケデリックイエスタデイ
15.ベランダ
16.しがないふたり
17.最愛の恋人たち
18.トラック
19.さよならアイデンティティー
20.春の嵐
(アンコール)
EN01.さよならプリズナー
EN02.さよならバイバイ
大阪寝屋川出身のロックバンド・yonigeが、8月13日にバンド史上初となる日本武道館ワンマンライブ「一本」を行った。改修を目前とした日本武道館で「バンド」としてライブ公演を行うのは、この日のyonigeがラスト。バンドにとっての「最初」と、アーティストにとっての目標として掲げられる日本武道館の改修前「最後」が交わったこの日、彼女たちはあくまでもバンドとして、そしてyonigeとして至って「普通」のライブをした。それは平凡という意味ではなく「今までライブハウスで見続けてきた、いつものyonigeのライブだった」という意味だ。想像を超えるような過度な装飾も演出もせずにいつも通り音楽第一で進んでいくそのアクトは、日常と特別を縫い繋ぐような安心感と、この場で聴いたからこその新たな気付きをもたらしてくれた。
開演時間の19時になると、頭上高くに日の丸が掲げられた会場内の客電がふっと落ちる。その明暗の変化を合図にして、牛丸ありさ(Vo・G)、ごっきん(B・Cho)、サポートドラマーである堀江祐乃介、そして新たにサポートギターとして加わった土器大洋の4人が静かにステージに現れ、シンバルの4カウントと共に“リボルバー”で幕を開けた。すると、Aメロで牛丸が早速歌詞を飛ばすハプニングが発生。少し恥ずかしそうにマイクから少し退いた彼女の姿を見て「緊張しているのかな」と思いはしたが、“最終回”や「武道館へようこそ」という挨拶と共に始まった“顔で虫が死ぬ”など、記念的なステージに立っているという緊張感や動揺を感じさせずに淡々と演奏を続けた。
yonigeのライブは、オーディエンスの反応もバラつきがある。いっせーのせで会場一体となったアクションが起こるということが殆どない。ハンズアップをしている人のすぐ隣に、微動だにせずただ一心にステージを観ている人がいたりする。メンバーから「好きに楽しんで」などの投げかけの声もないまま、そういった「馴れ合いの無さ」を自然と生み出せるのはyonigeの魅力の大きなひとつだなと思うし、彼女たちのライブが生み出すその独特な空気感は心地好い。そんな中、会場にいた全員がハッと息を飲んだことが伝わってきた瞬間があった。半円のステージを丸ごと覆い隠すように薄手の幕が引かれ、そこに水面を想起させる映像が投影された“2月の水槽”での演出だ。まるで水槽越しに彼女たちのアクトを観ているかのようなその空間演出は、楽曲が持つダウナーな雰囲気に完全にマッチしていたし、水の中で息を止める時のようにこちらも自然と呼吸を躊躇い、どっぷりと見入り、聴き入った。
そんな至極の雰囲気を醸したまま“バッドエンド週末”へと続けた彼女たちは、MCでは会場を見渡しながら「いや、さすがにすごい」(ごっきん)、「絶対MCで『すごい人や』って言わんどこうって思っててんけど、やっぱすごいな」(牛丸)と、思ったままの率直な感動を伝えた。そうして短めにMCを終えてさくっと次の曲にいこうとしたら、堀江の椅子が壊れるというアクシデントが起こった。そういったハプニングを受けた時に、牛丸もごっきんも「まあこういうことがあったら想い出になるよね!」とポジティブに振り切ろうとするのではなく、「こんなところでMCの尺が増えるとは……」と困った様子を隠さないのが良いなぁと思う。
そんな彼女たちのスタンスと、新曲“往生際”の《忘れないで ここが世界だよ》や“どうでもよくなる”の《だんだんなんでも慣れていく僕たちのかんたんな孤独》の歌詞を聴いて思うのは、「yonigeは常夜灯のようなバンドだな」ということだ。部屋の電気を全灯した時の目も眩むような明るさではなく、ワンルームで私/僕ひとりが生活する中で直面する「孤独」という闇にそっと光を差し続けてくれる常夜灯のような音楽を鳴らしてくれる。何かを押し付けることをせずただそこで光っていてくれることの有難さを感じるのは、いつだって「ひとり」を感じた時だ。先ほど「yonigeのライブでは会場一体となったアクションが起こるということが殆どない」と書いたが、彼女たちのライブを観ている間はきっと、誰もがきちんと「ひとり」を感じることができているのだと思う。それは寂しいことではないとちゃんと音楽を通じて思わせてくれること、そしてそういった自分という個の存在を浮き彫りにしてくれる彼女たちの音楽は救いだ。ミラーボールが虹色に煌めく中でゆっくりと鳴らされた“沙希”やミディアムチューン“ベランダ”、“しがないふたり”を聴きながら、そんなことを考えていた。
そして目が冴えるような爆音と発光で始まった“最愛の恋人たち”を経て、牛丸は「あたしがここに立てているのは、チケットを買ってくれたあなたたちと、徹夜でステージを作ってくれたスタッフの皆さんと、いつも支えてくれているスタッフの皆さんのおかげです。ありがとうございます」とシンプルに感謝を告げ、“さよならアイデンティティー”、ラストに“春の嵐”を届けた。“春の嵐”では、桜色の紙吹雪がふわりふわりと宙を舞った。真夏に舞う桜吹雪と楽曲との融合があまりに美しく、何よりも優しくて目頭が熱くなった。憂鬱や不安を受け入れることは容易くはないが誠実さを持って向き合うことはできるし、満たされないからこそ気付ける心の余白があること。yonigeはそういった大切なことを、MCの中ではなく、音楽の中で示唆してくれるバンドだなと再認識した。
熱く求められたアンコールでは、ごっきんがこの日のチケットが当日にソールドアウトになったことをアナウンスし、オーディエンスからは祝言の代わりにめいっぱいの拍手が贈られた。そして牛丸からは「いっぱい間違えちゃったんですけど、ごめんなさい。最後まで一生懸命やります」と謝罪もありつつ、“さよならバイバイ”を以て、改修前の日本武道館でのバンド公演、そしてyonigeにとっての記念すべき日の幕を閉じた。
この日のMCでごっきんは、現在4人でバンドをしていることについて「(yonigeを)結成したのが18歳で、現在24ちゃいです私たち。大人になってしまってやりたいことが増えて、もうひとつ手が欲しいということで。今、めちゃくちゃバンドが楽しいです」と話していた。こちらに言われるまでもないのだとは思うけれど、誰に何を言われようともyonigeには自分たちの想いが向くままに音楽を鳴らし続けてほしい。彼女たちにしか照らすことのできない光が間違いなくあることを、この日、日の丸の下で改めて感じた。(峯岸利恵)