08年の3月に、LUNKHEADのイベント『史上空前のみかん祭』(DVD化されています)がスタジオ・コーストで催された。そのときに「また来年もやろう」と口走ってしまったことがきっかけとなり、一年後の今日『空前絶後のみかん祭』は催されることになった。飲食屋台が出店し、ライブの後にはマスザワヒロユキやダイノジらのDJプレイもあり、写真展や占いコーナーなども設けられたこの手作り感いっぱいのイべントは、LUNKHEADの最新ツアーのファイナルであり、しかも彼らメンバー4人が99年の3月に地元・愛媛の高校卒業記念ライブでLUNKHEADを名乗ってからの、10周年を記念するアニバーサリー企画でもあった。いよいよライブ開演時間の16:00。フロアを飛び交うレーザー光線の色は、オール・グリーンである。
オープニング・ナンバーは“白い声”。疾走する楽曲の中で、早くも合田のパワフルなベース・プレイがブリブリと唸りを上げている。遠雷のように轟く山下のギターがあり、そして何よりも小高の歌詞がクリアに伝わってくる。<本当は誰かに伝えたくて/叫びたくて わかってほしくて/そういう気持ちを隠すことが/強さだと思っていたんだ>。キャリア初期に打ち出された、LUNKHEADの姿勢表明とも言うべき胸の内からの咆哮。それが1曲目からしっかりと届けられている。リズムにタメを作って言葉のフレーズにエモーションを込めるLUNKHEAD節が、“素晴らしい世界”の中では発揮されていた。彼らの最新のツアーでは新曲が幾つか披露されていて、それらは来るニュー・アルバムの発売日を50日ずつカウントダウンする形で順次配信リリースされていたりもするのだが、そんな中の1曲である“花は生きることを迷わない”では、このタイトルとなったフレーズを小高が口にする瞬間にバンドの音が止まり、パッと彼一人にスポット・ライトが当てられるので、余計に歌詞の印象が強く残る。それぞれのパートの音は決して平坦ではなくてむしろ鋭く交錯しているのに、揺るぎないストーリーテリングがすべての楽曲の軸にあるということこそが、LUNKHEADというバンドの持ち味だろう。シビアな現状認識を綴ったドラマー石川の作“羽根”、目映いアッパー・チューン“きらりいろ”と、小高が一斉ジャンプを煽り立ててはダンサブルな楽曲を続けて繰り出す。スラップ・ショットも高速でメロディアスなプレイも自由自在に、楽曲のダンス機能を支える合田のベースがかっこいい。
曲間、ふとフロアの女子オーディエンスから、小高に「おめでとー!」と声が掛かる。続けて沸き立つような拍手。小高は公式のブログで、子供を授かったことを報告していた。「命より大事なものが出来たんですけど、もしこんな気持ちを歌に出来たら、“ラブ・ソング”というタイトルにしようと思ってました。聴いてください」。生まれ来る新たな命は祝福されなければならないという意志、激変する世界観、その命を守るために自分はどうあっても生きねばならないというタフな覚悟。それらが歌い込まれた、派手さはないものの太く強い確信を宿した名曲であった。まったくの私事ではあるけれども、つい昨日、近所に住む僕の小学生時代からの幼馴染みに初めての子供が生まれたという出来すぎた偶然もあって、じんわりとしてしまった。若く青い迷いや苦しみが、突然過去のものになる瞬間がある。僕は残念ながらそれを実感とともに手にすることは出来ていないが、小高や僕の旧友はその地平に立っていて、ネクスト・レベルの喜びと人生の重みを味わっている。歌うべきテーマも変わる。成長と変化が、手に取るように明らかに感じられた曲であった。
「この春から生活とか環境とか変わる人もおると思うけど、俺たちもそうだけど、そういうみんなのためにもう一曲」と歌われ始めたのは“桜日和”である。勢いのある曲なのに、じっと聴き入っているオーディエンスが多いのもLUNKHEADならではのリアクションと言えるだろう。「同じ高校の寄せ集めで才能も無い、自分らの音楽が誰かに届くなんて、思ってなかった。10周年、出会ってくれてありがとう!」と小高は語った。才能が無いかどうかは置いておくとして、LUNKHEADが歌を「届ける」ための努力をし、成長してきたバンドであることに疑いは無い。歌詞の一遍一遍に、アレンジの至る所に、その跡を見つけることが出来る。言葉がそのままロック・リフになっている“id”や、剥き出しのスポークン・ワードでメッセージを突きつける“ぐるぐる”などでもそれは明らかだろう。本編ラストの“僕らのうた”で、遂に歌はすべてのオーディエンスに託されてしまった。アンコールの催促の代わりに、そのメロディはずっと、会場にこだましていた。
最後に、この春から新たな自己実現を見据えて、LUNKHEADのすべての活動には参加できなくなることを表明していた石川が挨拶をした。「でも、来年もやる、って言っちゃったし!これからもLUNKHEADをよろしくお願いします」。変わらなければならないことがある。しかし、変えないことを選ぶこともある。LUNKHEADは石川の脱退を引き止め、柔軟な姿勢で活動する方法を選択した。変化と成長の先に「届く歌」を見つけてきたLUNKHEAD。彼らは今、11回目の春を迎えている。(小池宏和)
1.白い声
2.この剣斬れる
3.素晴らしい世界
4.花は生きることを迷わない(新曲)
5.零時
6.loop
7.トライデント(新曲)
8.光の街
9.羽根
10.きらりいろ
11.ラブ・ソング(新曲)
12.三月
13.スワロウテイル
14.桜日和
15.Birthday(新曲)
16.それでも血の色は鉄の味がした(新曲)
17.id
18.体温
19.ぐるぐる
20.カナリアボックス
21.僕らのうた
アンコール
22.前進/僕/戦場へ