およそバンドサウンドの常識や概念を逸脱した、楽曲そのもののポップな構造をも押し流すような鋭利で獰猛な衝撃そのものの音の塊。金属音とフィードバックと打撃音と咆哮が凄絶なビートとアンサンブルを構成しながら感覚をかき乱していく、唯一無二の音楽体験――。
解散から実に約17年の時を経てなお、誰も上書きすることができなかったNUMBER GIRLというサウンドが、2019年の日比谷野外大音楽堂に鳴り渡っていく。最高の時間だった。
「2018年初夏のある日、俺は酔っぱらっていた。そして、思った。またヤツらとナンバーガールをライジングでヤりてえ、と」
今年2月15日にNUMBER GIRL再結成を発表した際に向井秀徳(G・Vo)が思い描いていた、バンドにとって思い入れの深い「RISING SUN ROCK FESTIVAL」からの本格再始動という物語は、台風接近によるまさかのRSR「1日目開催中止」によって実現には至らなかった。
しかし、「TOUR『NUMBER GIRL』」の日比谷野音公演で向井秀徳/田渕ひさ子(G)/中尾憲太郎(B)/アヒト・イナザワ(Dr)が鳴らしていたのは、ロック史上の伝説ではなく今を生きるバンドとしてのNUMBER GIRLの「新たな始まり」の音そのものだった。
最初の曲はどの曲か?という満場のオーディエンスの予想を心地好くかわすように、“大あたりの季節”(インディーズ盤『SCHOOL GIRL BYE BYE』収録)の軽快なビート感からライブはスタート。満場のオーディエンスの情熱と、4人はじっくり、揺るぎなくギアを合わせていく。
「みなさーまがーた! おひさーかたぶーり! ぶーりぶーり!」
そんな挨拶(?)から間髪入れず「お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。それでは行ってみましょう。アクション!」と村西とおる監督ばりの口上を繰り出す向井のMCを受けて、中尾の極太ベースサウンドとともに“鉄風 鋭くなって”へ雪崩込んでいった。
さらに、アヒトの「殺・伐!」コールから“タッチ”へ。灼熱の衝動で闇をかき混ぜるような不穏なコードワークが、バンドアレンジのセオリーを度外視した圧巻の爆発力が、そして向井の渾身の絶唱が、野音の熱気を刻一刻と高ぶらせるのがわかる。
“ZEGEN VS UNDERCOVER”に続けて「福岡市博多区からやってまいりました、NUMBER GIRLです。ドラムス、アヒト・イナザワ!」の向井の声とともに響いたのはもちろん“OMOIDE IN MY HEAD”! アヒトの爆裂イントロに向井/田渕/中尾の音色が加わり、眩しいきらめきと胸突き上げる切迫感が渾然一体となって、観る者を歓喜と狂騒の彼方へと導いていく――。
7月27日にいち早く新宿LOFTで行われたアクトの密室感とは異なり、日比谷野音という会場で轟くNUMBER GIRLの音像は、どこまでも力強く伸びやかなダイナミズムに満ちていた。
彼らにとって「前回」の野音=2002年当時の、バンド内の緊迫感が最大限に張り詰めていた頃の危うさも含んだステージとは、この日の空気感は一線を画したものだった。
“YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING”から“裸足の季節”、さらに一面のシンガロングとともに鳴り渡った“透明少女”へ……と立て続けに楽曲を畳み掛けつつ、「ナイスですね!」のMCを随所に挟んで独特のペースを生み出していく向井。
“水色革命”から“日常に生きる少女”へと続くセンチメンタル過積載な中盤の流れのあたりで中尾のベースアンプが故障しスタッフが忙しく動き回るも、4人とも動じることなく強靭なプレイを展開していくあたり、歴戦の猛者揃いならではのタフネスを感じさせる場面だった。
狂気に音程を与えてジャズマスター越しに響かせるような“NUM-AMI-DABUTZ”での田渕のソロプレイ。楽曲全体が音の凶器の集合体とでも呼ぶべき“SASU-YOU”の戦慄。一転してドラマチックなまでのエモーションを野音一丸の歌声として呼び起こしてみせた“TATTOOあり”――「あの頃」を懐かしむ余裕など微塵も与えない迫力と訴求力が何より、NUMBER GIRLが「今」に存在する理由を雄弁に物語っていた。
“I don’t know”の波動の如き4人の轟演炸裂ぶりが夜の闇を貫き、“EIGHT BEATER”、“IGGY POP FAN CLUB”のハイエナジーな8ビートで野音を揺さぶってステージを去った4人が、アンコールを求めて鳴り止まない手拍子に応えて再び登場。
ライブ中に「うちのカミさんが……」(『刑事コロンボ』)、「権藤に5千万! 国税局査察部です」(『マルサの女』)など名台詞をちりばめたMCを披露していた向井はこの日、RISING SUNの中止については触れることはなかった。が、「本当にみなさん、ありがとうございます。ぶっ倒れそうですけど。飲み過ぎじゃございません」とアンコールで明かした言葉には、今回のツアーに、野音に臨む気迫が確かに滲んでいた。
「我々ナンバーガールはですね、12月から全国11ヶ所12公演の全国ツアーを行います。東京は12月、2日間やります」と向井から飛び出した告知に、むせ返るような野音の熱気がさらに高まったところで、この日二度目の「ドラムス、アヒト・イナザワ!」コールから“OMOIDE IN MY HEAD”へ突入! さっきよりも格段にアグレッシブな「Oi」コールとシンガロングが巻き起こり、東京の夜空を熱く震わせていく。
この日のラストは“TRAMPOLINE GIRL”から「NUMBER GIRLが初めてレコーディングした曲」(向井)こと“トランポリンガール”。「ベース、中尾憲太郎45歳! ギター、田渕ひさ子! ドラムス、アピート・イナザワンテ! This is 向井秀徳!」という去り際のメンバー紹介の後、「福岡市博多区からやってまいりました、NUMBER GIRLです。乾杯!」とビールを掲げる向井のコールが、痺れるような濃密な余韻とともに響き渡っていった。
「TOUR『NUMBER GIRL』」でこの後大阪/福岡/名古屋を巡った後には、12月から2020年2月まで足掛け3ヶ月に及ぶ全国ツアー「NUMBER GIRL TOUR 2019-2020 『逆噴射バンド』」が控えている。
2002年11月30日、解散前ラストライブを札幌で目撃してから約17年。再び動き始めたNUMBER GIRLの時間の「その先」を、どこまでも追い続けていこうと思う。(高橋智樹)
●セットリスト
01.大あたりの季節
02.鉄風 鋭くなって
03.タッチ
04.ZEGEN VS UNDERCOVER
05.OMOIDE IN MY HEAD
06.YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING
07.裸足の季節
08.透明少女
09.水色革命
10.日常に生きる少女
11.NUM-AMI-DABUTZ
12.SENTIMENTAL GIRL’S VIOLENT JOKE
13.DESTRUCTION BABY
14.MANGA SICK
15.SASU-YOU
16.TATTOOあり
17.U-REI
18.I don’t know
19.EIGHT BEATER
20.IGGY POP FAN CLUB
(アンコール)
EN1.OMOIDE IN MY HEAD
EN2.TRAMPOLINE GIRL
EN3.トランポリンガール