2002年11月30日・札幌PENNY LANE 24でのラストライブから、実に約16年8ヶ月。ステージには紛れもなく、向井秀徳(G・Vo)、田渕ひさ子(G)、中尾憲太郎(B)、アヒト・イナザワ(Dr)の4人の姿があった。
そして、鉄弦と太鼓と金属板と声帯の振動の威力と迫力がそのままギリギリのバランスで楽曲になったようなNUMBER GIRLの音楽が、2019年7月27日の新宿LOFTには確かに轟いていた。
90年代末〜2002年の邦楽ライブシーンにスリリングな旋風を巻き起こし、メジャーレーベルに籍を置きながらもある種のインディペンデント感とともに「オルタナティブロックの象徴」として今もなお語られ続けるNUMBER GIRL。
バンド解散後はそれぞれの道を歩んできたメンバー4人が、向井の呼びかけにより今年=2019年に再び集結。「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO」への出演、さらに東京・大阪・福岡・名古屋を巡るワンマンツアー「TOUR『NUMBER GIRL』」の開催が相次いで決定されたのはご存知の通りだ。
そして後日、上記のツアー4公演に先駆ける形での開催が追加発表されたのが、今回の7月27日・新宿LOFTでのワンマンライブである。
再始動を待ち侘びたファンはもちろん、リアルタイムでNUMBER GIRLの衝撃を体験しようという若い世代のオーディエンスも詰めかけ、フロアは文字通りの超満員。開演前からとめどなく汗が吹き出すほどの熱気に満ちていた。
そして、予定時刻の18時ジャストに客電が消え、テレキャスター/ジャズマスター/モズライト/カノウプスがセットされた舞台に、開演SEのテレヴィジョン“Marquee Moon”が流れ、アヒトが、中尾が、田渕が、向井が登場。2002年札幌で観たあの日以来のNUMBER GIRLである。
しかし、「おひさー! お久方ぶーり、シンジュク・シティー!」という向井の奇天烈なコールとともにバンドの最初の一音が鳴ってフロアが揺れた瞬間、自分の中にかすかに存在した「あの日の続き」的なノスタルジーは痛快なくらい一気にリセットされ、4人の「今」の鋭利なタフネスがとぐろを巻く「2019年のバンドの強靭なサウンド」になっていた。
「福岡市博多区からやってまいりました、NUMBER GIRLです。ドラムス、アヒト・イナザワ!」の向井のコールに導かれて流れ込んだのはもちろん“OMOIDE IN MY HEAD”。
近年ドラムから離れていたものの、今回の再集結に向けてばっちりタイトに仕上げてきたアヒトの爆裂ドラミング。強靭なプレイで狂騒の向こう側をこじ開ける中尾憲太郎の極太ベースライン(中尾は最近はもっぱらプレシジョンベースだが、この日は昔のモズライトを持参したそうだ)。制御不能なエモーションそのままに鼓膜と心を震わせる田渕のジャズマスターの音塊。冷徹な凄味をもってフロアの熱気を切り裂く向井のテレキャスの響き。そして、違和感と焦燥が青白く燃え盛るような世界観を渾身の咆哮として歌い放つ向井の絶唱――。
幾多のバンドが決して上書きすることのできなかった唯一無二の音像が、誰も聴いたことのない強度をもって鳴り渡り、割れんばかりのフロアの大合唱を呼び起こしていく。最高だ。
「キラキラーッとしとんね、あれね。着飾ったあの娘は区役所通りの方へ歩いていきました」とこの日の会場=新宿LOFTにちなんだ向井の前口上MCも交えつつ「おそらくあの娘は……」と披露したのは“透明少女”! 不協和音寸前のコード感と目も眩むようなビートの加速度で衝動の輝きを映し出してみせる。
楽曲のアレンジから曲頭の独特のカウントに至るまで、4人の演奏に目に見えて変更が加えられたわけではない。が、再結成という語感にまとわりつく「同窓会」感を綺麗さっぱり吹っ飛ばすだけのダイナミズムと、それぞれの経験を踏まえて再び同じ舞台に立ったからこその迷いなき推進力と突破力が、4人の演奏には終始みなぎっていた。
この後もツアーが続くので、曲目については本稿では最低限のみの記述とさせていただくが、結成から解散まで7年間の足跡を凝縮したような圧巻の一夜だったことは間違いない。洗練された2019年のバンドサウンドの常識も概念も覆すラフでブルータルな爆音が、徹頭徹尾全身を吹き抜ける、凄絶なまでの熱狂空間だった。
「今日はみなさん、お集まりいただきまして、ありがとうございました」という向井のMC以外、再始動についての説明的な言葉は特になかった。が、それで十分だった。すべての音が止んだ後、意気揚々と缶ビールを掲げて「乾杯!」と叫んだ向井のコールが、改めて今この時代に動き始めたNUMBER GIRLの何よりの所信表明として響いていた。(高橋智樹)